第89話 『北海道解放作戦①』
函館に到着した翌朝、かなり早い時間に目を覚ました私と楓ちゃんは校庭で準備運動をしながら、みんなが起きてくるのを待っていた。
「相変わらず準備が早いな」
準備運動を始めてすぐに、仁さんが現れて声をかけてくれた。もちろん、震雷のメンバーも一緒だ。それに仁さんのお兄さんの戒さんも、皇帝のメンバーを引き連れてやってきた。
「おう、お前らずいぶんはえぇな!」
昨日の演説とは打って変わって気さくに話しかけてくれる戒さん。でもこの人、日本一の
「おはようございます。獅子王さん。今日からよろしくお願いします」
「わ、私も、よ、よろしくお願いします」
楓ちゃんも私に続いて挨拶したんだけど、緊張してるのかちょっと噛んでた! うん、そういうところもかわいいね!
「こちらこそよろしく。それにしても、君がまだ4級とは信じられないな。ちょっと手合わせしてみないか?」
えーと、いきなり戒さんに手合わせを申し込まれてしまいました。これには楓ちゃんどころか、皇帝や震雷のみなさんも驚いているようで、仁さんも『それほどなのか?』ってお兄さんに聞き返してるし。
今なら他の人達がいないから、少し相手してもらってもいいのかな? 今の自分がどのくらいの強さなのか知りたいし。お兄ちゃんとやっても全く歯が立たないし、手加減してくるから参考にならないんだよね。
「少しでよければお願いできますか?」
私が承諾したことで、模擬戦をすることになった。好きな武器を使っていいとのことだったので、私はお兄ちゃんからもらったミスリルの刀を抜いた。
「ひゅー、すげえ刀だな。それ全部ミスリルだろ? 一体いくらしたんだ?」
皇帝のメンバーの一人が、私の刀を見て値段を聞いてきた。確かあの人は
「えーと、ただで作ってもらったのでいくらするのかはわかりません」
私がそう答えたその瞬間、空気が変わった。
「作ってもらっただと? 全てミスリルでできたその刀を作れるものがいるのか?」
同じく皇帝のメンバーである
「まさかミスリルを加工できる人を知ってるのですか?」
こちらは皇帝の槍使い
あれ、ちょっと待って!? もしかして
あー、だからか。配信で見せたときにやたらどこの
つまり、
それなのに私が作ってもらったって言ったから……やらかいちゃいました。
うん、でもこうなったら仕方がない。全力で誤魔化すのみ!
「あ、えーと、あれ? 間違えた。拾ったんだったかな?」
私の名演技が炸裂したと思ったんだけど、仁さんの次の一言で台無しになっちゃいました。
「そこに名前が彫ってあるぞ……」
ああ、お兄ちゃん! 嬉しいけどこんな目立つところに名前を入れなくても!
「おいお前ら。初対面の相手にする話じゃないな。そういうのはもっと信頼関係を作ってから聞くもんだ。すまなかったな。人が来ると面倒だ。始めようか」
次の言い訳を考えていたら、戒さんが上手く抑えてくれました。危ない危ない。模擬戦が終わったら、色々聞かれる前に退散しちゃいましょう。
私は刀を下段に構え、戒さんと対峙する。戒さんは、『剣術』、『腕力強化』、『脚力強化』のトリプルのはずだ。バリバリの近接タイプだから楽しみ。
戒さんはおそらく
戒さんのレベルは私より高いと思う。その上で、ステータス補正と身体強化で、どれだけ差が縮められているのかを知りたい。いざ尋常に勝負!
相手が格上だと思ったので、私から仕掛けてみた。まずは手始めに下段からのオーソドックスな切り上げ。いわゆる、逆袈裟斬りで様子を見る。
キン!
さすがに様子見の一撃は簡単に受け止められちゃった。でも、まだまだこれで終わりじゃないよ!
私は受け止められた位置から足下を狙った突きを繰り出す。これには意表を突かれたのか、戒さんは慌てて後方へと飛び退いた。その動きにぴったり追従し、今度は彫りの深い整った顔目がけて刀を突き出した。
「うぉ!?」
戒さんは脚力強化のスキルを持っているから、敏捷には自信があったみたい。でもね、私も身体強化を持っているからついて行けるのですよ! 予想外に攻め込まれたせいか、戒さんの口から焦ったような声が漏れてる。
周りの人達からも驚きの感情が伝わってきた。
私の突きを、首を傾けることでかろうじて回避した戒さんは、このままじゃまずいと思ったのか、反撃に転じてきた。胴を目がけて橫薙ぎに振るってきた剣を、戒さんを飛び越えるように前方宙返りで躱す。あ、ついでに刀を振り下ろしてみたら、戒さんの肩に当たって防具に浅い傷をつけちゃった。
私が着地するのと戒さんが振り向くタイミングが重なる。
お互いにらみ合った後、今度は戒さんから仕掛けてきた。
「はっ!」
何の小細工もない真っ直ぐな振り下ろし。単純だけどその分速い!
私は刀で受ける……振りをして受け止める直前に角度を変え、受け流しに変更する。戒さんの剣が私の刀に沿って右へと流れて行く。体勢が崩れた隙に攻撃しようと思ったら、戒さんは身体が流れたことを利用して回し蹴りを放ってきた。
私はその回し蹴りを肘と膝で挟んで止めようとしたのだが、勢いを殺しきれず脇腹に蹴りを受けてしまった。勢いは殺したはずなのに、3mほど飛ばされちゃった。
体勢を立て直して刀を構えたところで、戒さんからストップがかかった。
「よし、ここまでにしよう。正直、これほどまでに強いとは思わなかった。これ以上続けたらどちらかが怪我をしてしまうだろう。今回の作戦に少々不安はあったが、君たちのような若者がいるなら、期待できそうだ!」
どうやら、日本No.1
お兄ちゃんは北海道で雑魚相手に苦戦したからまだまだだって言ってたけど、ほんとに雑魚だったのかな? あのお兄ちゃんが苦戦するのが雑魚だったら、ここにいるほとんどの人が雑魚に勝てない気がするけど……
まあ、事前の情報ではダンジョンマスターは別格としても、それ以外の魔物なら上位ランクの
戒さんとの模擬戦を終えた私は、チーム皇帝のメンバーにえらく気に入られて、一緒に朝ご飯まで食べちゃいました。ここでもお兄ちゃんのお弁当は大人気で、チーム皇帝もこの作戦が終わったら、魔物料理屋とコラボしたいなんて言わせてました。
朝食を終えたところで、いよいよ北海道開放作戦がスタートした。戒さん達を先頭に仁さん達2級パーティーと3級パーティーが後に続く。私達は食料とポーション類を持って、少し遅れて出発した。
目指すは、一番近いダンジョンマスターがいる札幌だ。札幌のダンジョンマスターは詳細が不明で、強さもわからないけど戒さん達なら何とかしてくれると思う。逆に彼らに何ともできなければ、誰が挑戦しても無駄ってことだ。一名を除いて。
私と楓ちゃんは期待半分、不安半分で戒さん達の後を追った。
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