第13話 『ダンジョンデビュー③』
スマホの端に見える8000の数字は見なかったことに……でも、1000人増えるごとに視聴者さん達がスパチャを投げてくれるから、気にしないようにしてても気がついちゃうんだけどね。
っと、今は楓ちゃんの戦闘を見るんだった。
楓ちゃんは7級の
おそらく普段後衛をやっているとはいえ、7級ともなれば身体能力もそれなりに高いはず。この辺りの魔物なら魔法を使わなくても倒せるはず。でも、私や視聴者さんのためにあえて見せてくれたんだと思う。
その後、1階層は余裕だということになり、下へと降りる階段へと向かい第2階層へと移動した。こういった階段の場所を事前に調べておくのも大事らしい。何でも階段付近は比較的安全地帯なので、休憩するなら階段の中がよいと言われているくらいだからね。
ここの階段の中腹にも、座り込んで水分を補給している冒険者達がいた。階段は結構広いので、休憩するなら下に向かって右側と決まっているそうだ。休憩している
この辺の情報も、大半の視聴者達は知らなかったようで感心していた。
私と楓ちゃんは大して疲れていなかったので、軽く水分を補給してからすぐに下へと降りていく。第2階層は第1階層と同じく草原だったけど、上の階にはいなかった
中級者レベルがそろえられる防具ならそれほど脅威ではないけど、初心者が着るような安い防具なら貫通してくるらしいので注意が必要みたい。
探知系のスキルがないパーティーの場合、常に草むらを注意しておかなければならない。ただ、私の『身体強化』は視力も聴力も嗅覚も強化されているから、ちょっとした草の揺れ、音、匂いでホーンラビットの居場所がわかっちゃうのよね。あまり露骨にやると私のスキルがバレちゃいそうだから、ほどほどにしてるけど。
でも、居場所がわかっていると飛び出してきたタイミングで刀を振るうだけで、自分から刀にぶつかってくるので驚くほど簡単に倒せちゃいました。
そんな感じで草むらを移動しながら
「うーん、帰る時間を考えても今日はこの階層がラストかな」
楓ちゃんがカメラというよりは私に向かってそう告げてくる。確かに朝から
第3階層は第1,2階層と打って変わって森林型のフィールドとなっていた。至る所に木が生い茂り、まるでジャングルみたい。
この階層では
ちなみに第3階層に入った段階で同時接続が1万5千人を超えていた。楓ちゃんも初めての数字らしく戸惑っている。
"ランキングから来ました! 一目でアスカちゃんのファンになりました!"
"トレンド入り見てきましたー!! 美少女
"おうおう、ここであってるぞ! 新規は歓迎だが、マナーはしっかり守ってもらうぞ"
"ここの配信者はカエデちゃんだからな、アスカちゃんは今日のゲストだから、そこんとこよろしく"
見通しの悪いジャングルということもあって、探索に集中している楓ちゃんに変わって、元々の楓ちゃんの視聴者さん達が、上手く新規さん達に状況を伝えてくれている。ほんとに楓ちゃんの視聴者さん達は優秀だね。
ちなみに、この階層から適正ランクが9へと上がるみたい。
しかし、見通しが悪いということは私の探索能力が遺憾なくその力を発揮するわけで……
「楓ちゃん、右奥、一番太い木の上に
「見えた。いくね、ウインドエッジ!」
こちらが見つかる前に私が魔物を発見し、楓ちゃんが魔法で先制攻撃を仕掛ける。傷ついた敵が近づいてきたら私が刀で、その場に留まるようなら楓ちゃんの魔法の追撃で倒していく。何気に戦い方が上手くかみ合ういいパーティーだったみたい私達。
"何これ、もうベテランパーティーの域じゃん"
"美少女2人組が適正9級の森を危なげなく攻略していく(笑)"
"初心者レクチャー配信のはずが、いつの間にか普通の攻略動画になってる件w"
"いや、女子中学生2人組って段階ですでに普通ではない!"
"いや、天使が2人いる時点で普通ではないが¢( ・・)ノ"
"上層ではあるが、2人だけでこれほど安定しているパーティーも見たことないな"
"アスカちゃんの探知能力がおかしすぎる。今のところ全部先制攻撃できてるのは、アスカちゃんのおかげ"
"それな。今度、ワイのパーティに入ってほしい"
"それを言うならうちのパーティにぜひ"
だんだんレクチャーから離れて来てしまっているけど、視聴者さん達も普通に攻略配信として楽しみ始めているみたい。
そのまま順調に攻略を進め、レベルも1つ上がり、第3階層も半ばまで達しそろそろ引き返そうと思ったときそれは現れた。
「楓ちゃん、なんか今までと雰囲気の違うのがいる。10時の方向」
私の五感が今までの魔物とは一線を画す強敵の雰囲気を感じ取った。私の緊張感が伝わったのか、楓ちゃんの顔も自然と真剣なものへと変わっていく。
バキバキッと木々と倒しながら現れたのは赤黒い血管を浮き上がらせ、目を真っ赤に血走らせた巨大な熊の魔物だった。
「っ!?
その魔物の姿を見た楓ちゃんの声が一段高くなった。それもそのはず、この階層は9級までの魔物しかでないはず。それが急に2段階も上のランクの魔物が現れたのだ。
楓ちゃんも同じ7級。実力的には互角に見えるが、魔法メインの楓ちゃんだと接近されると厳しい。格下相手ならいざ知らず、同格相手にはリスクが大きすぎる。
片や私はまだ昨日
"逃げて!
"逃げて、逃げて、逃げて"
"やばい! なんでこんなところに
"うわ、ダメだぁぁぁ、
"無理だ。今から逃げても逃げきれない……誰か近くに高ランクの
"今から協会に救援出そう"
"いや、間に合わないだろう普通に"
"それでも出すしかないだろう! 見捨てるのか!"
チャット欄も大混乱だ。大半の人達が逃げてと伝えてくるが、私達にはわかっていた。
(もう、こっちを敵として認識してる。たぶん逃げきれない)
楓ちゃんの方を見るとのどをごくんとならし、覚悟を決めた目で
「私が、「いつも通り援護お願い!」えっ!?」
楓ちゃんの声に被せるように言い放って、私は
私が前に出たことで楓ちゃんが何か大きな声で叫んでいるけど、それが耳に入らないくらい私は集中している。
(来る!)
真横に吹き飛ばされた私は、空中で体勢を立て直し、空いている手を地面につけて着地した。そしてそのまま、陸上のクラウチングスタートのように飛び出し、
途中、私の突きに
ギィン!
私の突きは寸分違わず
"だめか!?
"いや、確かにそうなんだけど、今のは突っ込むところが違わないか?"
"それな。今のアスカちゃんの突きの軌道おかしくなかったか?"
"心臓を狙ってるのかと思ったら、気がついたら額にヒットしてたんだが、オレの見間違いか?"
"だよね? やっぱり俺の勘違いじゃないよね?"
それよりもこのままだと、
そうだ、あれを試してみよう。
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