第9話 『なぜか家に帰してくれません(涙)』
私が昼食を終えて試験会場に帰ってくると、少し会場の雰囲気が変わっていた。何というか、ちょっとざわざわしているというかピリピリしているというか。
『何かあったのかなー』と思いつつ、試験結果が気になった私は受付の前にできている列へと並ぶ。
近くの人たちの雑談に耳を傾けていると、『クールビューティーが~』とか『トリプルが出たみたいだぞ!』とか聞こえてくる。何のことかはわからないけど、私がいない間に大変なことが起こったみたい。
とは言え、その場にいなかった私には関係のないことなので、試験と検査の結果を聞くために大人しく自分の順番を待つ。そして待つこと10分ほどで私の番がやってきた。
「
私が受付のお姉さんに名前と用件を伝えると、お姉さんが明らかにビクッってなった後、急にそわそわして電話で誰かを呼び始めた。前の人達はすぐに結果を伝えられていたのに、どうして私だけ違うのかな? 試験と検査を一緒に受けたからだろうか?
ちょっぴり不安に思っていると、すぐに奥から眼鏡をかけた知的な美人のお姉さんが姿を現した。
「柊明日香様ですね。検査の結果について個人的にお伝えしたいことがあるので、支部長室まで来ていただきたいのですが」
クールビューティーなお姉さんが、言葉遣いは丁寧ながら有無を言わさぬ雰囲気をまといながら話しかけてきた。なんかちょっと怖い。もしかして、この会場の雰囲気が変なのと関係があるのかな。
「あの、試験と検査の結果を聞くだけなのですが、ここじゃまずい理由でもあるのですか?」
ちょっと怖いけどなんだか嫌な予感がしたので、とりあえず1回抵抗してみよう。
「申し訳ありません。それについてはここでお話しすることはできません。もしかしたら、あなたの命に関わることになるかもしれないので」
おおう、あっさりダメって言われちゃったよ。しかも命に関わることって言われたら、ついていくしかないよね。さすがにこの人達も白昼堂々私を連れて行って、誘拐監禁なんてことはしないと信じたい。無駄な抵抗を止めた私は、大人しくクールビューティーなお姉さんについて行くことにした。
「支部長、柊様をお連れしました」
知的な美人さんに連れられやってきたのは、学校の校長室のような部屋だった。中にはちょっと髪が薄くなりかけた強面のおじさんが、不気味な笑顔で佇んでいた。スーツを着ているんだけど、明らかにサイズが合っていない。丈はぴったりなんだけど、ムキムキの筋肉の自己主張が激しすぎてスーツが悲鳴を上げているし。
「ようこそ、支部長室へ! ささ、そこに座ってくれ!」
何だろう。人に優しくするのが苦手そうな強面のおじさんが、なれない笑顔で必死に気を遣っている。どこかで見たような光景だね……
(あっ、思い出した。前の世界のギルドマスターに似てるんだこの人!)
そう思うと、強面のおじさんに一気に親近感が湧いてきた。ハンクさん元気かな?
それから、熊田剛健と名乗った支部長が私がここに呼ばれた理由を説明してくれた。何でも、スロットを3つ持っている人は非常に珍しく、希望すれば国の補助を受けて育成してもらえるのだとか。ランクの高いスキルオーブを優先的に回してもらえるとか、育成中でもお給料をもらえるんだって。
ただ、それを受けると国が雇い主となるので、所謂公務員的な
(でも、お兄ちゃんがいればスキルオーブは必要ないしね。公務員と同じ扱いって、要は国からの命令があったら従わなきゃならないってことだよね。嫌だよそんなの。これから私はできるだけ長い時間お兄ちゃんと一緒にいたいんだから!)
私がここに呼ばれた理由はわかったけど、この話を受ける気がない私は丁寧にお断りした。けれども、何度断ってもあれこれ理由をつけて私にうんと言わせようとしてくる。楓ちゃんとの約束の時間もあるし、お兄ちゃんも家で心配しているから早く帰りたいのに……
とにかく嫌だと断り続けていると、今度は私のスキルの話になった。なぜ、スロット検査の前にスキルを所持していたのか。何ランクのスキルオーブを使用したのか。そのスキルオーブはどのように手に入れたのか。スキルを手に入れる前と後で何か変わったことはないか。などなど。
支部長室に連れてこられてから、もうすぐ2時間。終わらない質問に泣きそうになっていたその時に、部屋の外から何やら騒ぎ声が聞こえてきた。支部長とクールビューティーなお姉さんにも聞こえたのだろう。質問が止んで、二人ともドアに注目している。
するとすぐにドアが開き、二人の人物が協会の職員と思われる人を引き連れてなだれ込んできた。
「明日香ちゃん! 無事だった?」
「明日香、助けに来たぞ! 一緒に帰ろう!」
見知った二人の顔を見た私の目から、涙が一筋こぼれ落ちた。自分で思っているよりも心細かったみたい。でも、私が困ったときにはいつも駆けつけてくれるお兄ちゃんの優しさを再確認して、一気に気持ちが盛り上がってしまった。
それからお兄ちゃんは支部長相手にこの状況がおかしいと攻め始めた。元々、頭の回転が速かったお兄ちゃんが、正論で攻め続けた結果、支部長はろくに反論もできずにしぶしぶ私のことを諦めてくれた。
それに楓ちゃんが一緒にいてくれたのも大きかったと思う。楓ちゃんは1~10級まである
二人のおかげで無事支部長室から出ることができた私は、ようやく家へと帰れるのでした。
あっ、模擬戦でランク上げてもらうのを忘れてた……
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