第6話 懐かしい日常
明日香の誕生日パーティーを行った次の日は、夏休み明けの始業式だった。明日香と俺は同じ中学校なので、もちろん一緒に登校している。
「ちゃんと授業受けてくるんだぞ」
「わかってるよ。お兄ちゃんこそしっかりね!」
玄関で妹と別れ、それぞれの教室へと向かう。ちなみに妹と登校してるのを見られるのは恥ずかしいので、俺達はかなり早い時間に登校している。
今日使う教科書やノートを机に入れ、一息ついたところで今週の予定について考える。週末の土曜日に明日香が
試験の対策は楓ちゃんも手伝ってくれるから大丈夫だろう。むしろ、スキルオーブをどうやって手に入れたことにするかを考えなくては。
うちが貧乏なのはみんなに知られているから、買ったというのは苦しいな。拾ったっていうのも怪しいし、いや、拾ったものを勝手に使ったら犯罪だな。
よし、親の遺品を整理していたら出てきたことにしよう。それなら、どうやって手に入れたのかを聞かれても、知らぬ存ぜぬで通せばいい。
朝一番の誰もいない教室でそんなことを考えていると、後ろのドアがガラッと開いた。
「おー、おはよ。相変わらずショウははえーなぁ」
勢いよくドアを開けて教室に入ってきたのは、このクラスの中でも比較的仲がいい霧島海斗だ。
というか、こいつ以外にあまり親しく話すクラスメイトはいない。クラス替えがあってすぐの時は、俺に話しかけてくれる人達もいたが、バイトがあって付き合いの悪い俺を誘ってくれる人は徐々に減っていった。
加えて2年間着ている制服はよれよれでサイズも微妙に合っていない。髪も美容院に行くお金がないので、目が隠れるくらい伸び放題。決していじめられいるわけではないが、用事もないのに俺に話しかけてくるクラスメイトと言えば、この海斗と委員長くらいだろう。
「いやいや、そういうカイトもずいぶん早いんじゃない? お前のことだから、てっきり寝坊でもするんじゃないかと心配してたんだけどな」
「バカいえ! 俺は今日から早寝早起きの優等生を目指すんだぜ!」
何て格好つけて言ってはいるが……
「っで、本当のところは?」
「母ちゃんが起こす時間を間違えたんだよ!」
やっぱりこいつに優等生なんて似合わない。っと、それよりもカイトに返すものがあったんだった。俺は鞄から数冊の本を取り出して、カイトに差し出した。
「この本ありがとうな。おかげで夏休みを楽しめたよ」
そう言って渡したのは今人気のラノベの小説だ。夏休みに入る時に、カイトが俺に貸してくれたのだ。おかげで転生した時も慌てずに対処することができた。明日香と一緒にあの世界でも生きていけたのは、カイトのおかげかもしれないな。
そう思うと『ありがとう』の言葉にも、思わず気持ちが入ってしまった。
「なーに、いいってことよ。にしても、さすがに転生は無理かもしれねぇが、ダンジョンができた今、なんとかスキルオーブを手に入れて、
おや、カイトは
けど、よくよく考えたら
「そう言えば、カイトは
記憶にはないが、今の発言から当たりをつけて、あわよくばカイトから
「おう、その通りだぜ! ってか、珍しいなショウから
前言撤回。
「最初はそれどころじゃなかったから、あんまり関心はなかったんだけどね。夏休み中にちょっと興味が湧いたというか。妹の友達が
「!? ショウの妹で
あまりのカイトの食いつきに、若干引いたしまったが、よくよく聞けば楓ちゃんはかなり有名な
この中学校でも
そもそも中学生で
その数がすごいのかどうかはわからないが、とにかくカイトが興奮するほどには有名人であることは間違いない。
ちなみに、明日香も一緒に紹介してほしいとはどういうことか聞いてみたら、単純にかわいいからと返された。その事実自体は否定しないが、絶対嫌だと答えておいた。こんな見境ない奴に妹を紹介できるわけないだろう!
それからはカイトの
おかげでスキルについてちょっと詳しく知ることができた。スキルには1から5までのランクがあって、ランク1だと戦闘にほとんど役に立たないらしい。例えばどんなものがあるのか聞いてみたら、『口笛』とか『縄跳び』とかだそうだ。
確かに戦闘には役に立ちそうにないな。100万円払って口笛が上手くなってもね……
ランク2には『剣術』や『槍術』などの戦闘系のスキルが分類されている。これらのスキルがあると対応する武器の扱いが上手くなるだけではなく、魔物に対して効果的にダメージを与えることができるようになるそうだ。
これらのスキルを得て初めて
ランク2にはその他にも『鍛治』や『錬金術』といった生産系のスキルや『腕力強化』や『脚力強化』などの自己強化系のスキルもあるようだ。さすがに生産系スキルは
強化系も一見、魔物にダメージを与えられるスキルには見えないが、どんなスキルでもスキル持ちが攻撃するとちゃんとダメージが与えられるらしい。なんとも不思議な現象だが、そのおかげで強化系スキルも人気が高い。
短時間でよくこれだけの情報をしゃべれるもんだと感心したが、俺にとっても役に立つ情報だったから素直にありがたい。
そのことを感謝とともにカイトに告げたら、その後の休み時間も給食時間もずーっとスキルの話を教えてくれた。
そのおかげでさらにたくさんのことがわかった。
例えば、ランク3のスキルは『火操作』や『水操作』などの所謂『操作系スキル』やランク2の『耐性系スキル』の上位互換である『無効系のスキル』が該当する。
ただし、高ランクのスキルオーブのドロップ率はかなり低く、また必ずしもランク3のスキルが手に入るわけでもない。しかし、その分能力は破格で操作系をひとつでも極めれば、間違いなく
他にもランク4のスキルになるともっとえげつない能力を得ることができるっぽい。実際、確認されているランク4のスキルはいくつかあるが、有名どころといえば『切断』と『再生』がそれにあたる。
『切断』はアメリカのNo.1
『再生』はロシアのNo.1
そう考えるとランク1のスキルオーブからランク3の『風操作』をゲットした楓ちゃんは相当強運の持ち主のようだ。
ところで、『思考加速』と『並列思考』のおかげで授業中暇な俺は、向こうの世界になかったスキルも付与できるか試してみた。
結果は問題なく付与することができた。どうやら、俺のスキルマスターは俺が知っているスキルなら、どんなスキルでも付与できるようだ。
それから自分や明日香以外にも付与できるのか気になったので、カイトの頭を叩くついでに試してみたが、こちらは上手くいかなかった。俺のスキルは兄妹限定でした。
カイトには色々感謝してるから、可能ならスキルの一つでもつけてあげたかったが、残念ながらこればっかりは自分で頑張ってもらう他なさそうだ。
まっ、上手いことスキルオーブが手に入ったらプレゼントしてもいいかもね。
思ったよりも有意義な時間を過ごした俺は、まだまだ話したりなさそうなカイトに捕まらないように、終了と同時に教室を飛び出し夕刊配達のバイトへと急ぐのであった。
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