第3話 思い出した!
朝、すずめの鳴き声で目を覚ました俺は、上半身を起こしたところで妹の明日香と目が合った。
「「思い出した!」」
目を覚ましての第一声が麗しの妹と被った。と言うことは、明日香も俺と同じ夢を見ていた可能性が高い。
俺は昨晩、壮大な物語のような夢を見た。明日香と俺が異世界に転移し、世界を救う夢だ。いや、正確には『転生したのは妹で俺は妹のチートスキル』だった。その世界で明日香は魔王を改心させて世界を救い、自ら命を絶ち、同じ世界に転生し、侵略者と悪い神を倒し再び世界を救った。
しかし、俺にはこれがただの夢ではないことがわかっていた。これは俺と明日香が確かに経験したことなんだ。いつ経験したかと言われればはっきりとはわからないけど、その記憶に曖昧なところはなく、夢でないことは確かだ。
それがわかった途端、明日香は盛大に泣き出してしまった。どうやら、俺がスキルから人間に戻れたのがよっぽど嬉しかったらしい。うん、それを聞いた俺も大号泣だよ。
しばらく二人で涙を流した後、赤く目を晴らしても少しも可愛さが失われない我が妹と頷き合って、この記憶が夢ではないことを確かめる言葉を発した。
「「ステータスオープン!」」
…………何も起こらない。
俺の予想では透明なウインドウが現れて、自分のステータスが見られると思ったんだけど……
一向に何も起こる気配がなく、静かに時間だけが過ぎていく。
「まあ、あれだな。ここは地球だからステータスはないんだよ、たぶん」
「そうだよね。あの夢の通りなら、私は普通に行動しているだけで周りに破壊をまき散らす存在になってるはずだし」
二人で話し合った結果、俺達が見た夢はおそらく実際あったことだけど、異世界から戻ってきたことで、向こうの世界で手に入れた力を失ったという結論に達した。
「さ、いつまで考えていても仕方がないし、明日香は今日、楓ちゃんと買い物に行くんだろう? 朝ご飯を作っておくから、準備しておいで」
「そうだね。そうさせてもらうね!」
明日香も俺の言葉に納得したのか、素早く布団をたたむと着替えのために隣の部屋へと入っていった。
朝ご飯は、ごはんと目玉焼きと豆腐の味噌汁だ。質素ではあるが、これを食べると心が落ち着く。魔物の肉もおいしかったけど、やはり日本食は別格だね。味噌汁をすすってほっと一息つく明日香も同じことを思っているのだろう。
「じゃあ、行ってくるね!」
朝ご飯の後、明日香は近くのショッピングモールへと出かけていった。そこで親友の楓ちゃんと合流して、洋服や小物類を見に行くのだとか。俺はその間に家の中を掃除して、今夜の誕生日パーティーのための買い出しに行こう。
まずは高いところのほこりを落とそうと、ハタキを取るついでに大分古くなってしまったテレビをつけた。朝のニュースでも聞きながら掃除をしようと思ったのだ。
あらかた高いところのほこりを落とし終え、次は床を拭こうと思ってぞうきんを取ろうとした手が止まる。テレビの中のアナウンサーが異世界では聞き慣れた、しかしこの地球では聞いたことのない言葉を発したからだ。
「続いては、今週のダンジョン関連のニュースです。日本ランキング一位の
(な、なんだこれ? ダンジョン? ふざけてるのか?)
俺はアナウンサーの言葉が信じられなくて、テレビにかじりついてニュースの続きを待った。しかし、その後もアナウンサーは真面目な顔で
(どうなってるんだ? 日本に
慌てて他のチャンネルを回すも、どのニュース番組でも必ず
そうなるとここは俺の知っている地球ではない? でも、
予想外の出来事に不安が募ってくる。
(明日香は大丈夫だろうか?)
俺達は貧乏なので携帯電話を持っていない。すぐに明日香と連絡が取れないことを不安に感じながら、もう少し情報を集めようと掃除を中断してテレビの前に座り直す。
しかし、テレビのニュースではどこどこの
そこで、俺は父が昔使っていたパソコンを使ってネットで情報を集めることにした。
「よし、『
すぐに『
防衛省のHPによると、地球に『
洞窟のようにぽっかりと開いた入り口から、未知の物質『魔素』が流れだし、中に入ると今まで見たことのないような生き物が確認された。
ダンジョン内の生き物は『魔物』と呼ばれ、そのほとんどが人間を見ると襲ってくる。そのせいで、世界各地で好奇心から
日本政府はすぐにダンジョンの入り口を封鎖し、そのうちいくつかの
さらに間が悪いことに他の
この情報を得た他都府県は直ちにダンジョンの所在を確認し、
幸い、北海道の犠牲を教訓に他での
そんなとき、
彼は魔物が落とした大きめのビー玉くらいの丸い玉(後にスキルオーブと名前がつけられた)を興味本位で口にした後、自身の指先から小さな火が出るのに気がついた。後にこの能力は『スキル』と名付けられ、彼は日本人で初めてスキルを獲得した人間となった。ちなみに彼が得たスキルは『発火』と名付けられた。
後の研究で、この『スキルオーブ』には様々な種類があり、強い魔物が落とすものほど強力なスキルを身につけることができる可能性が高いこともわかった。
さらに研究が進むと、魔素を浴びた人間には『スロット』と呼ばれる目には見えない特殊な器官が生成され、そのスロットの数だけスキルを獲得することができることも判明した。
もっともこれは現代科学の勝利ではなく、
この『スキル』もしくは『スキルを持っている人間の攻撃』が魔物に対して有効な攻撃手段になることがわかったので、国は自衛隊にダンジョンの攻略を命じ、スキル持ちを育てようとした。
しかし、スキルオーブのドロップ率があまりに低く、手が足りなくなった政府はダンジョンを民間人に開放する決定を下す。
ただし、誰にでもというわけではなく最低条件としてスキルを身につけていること、国が定めた
それと同時に防衛省の管轄に
その間に法律やら何やらも整備され、ようやく落ち着いた日常が戻ってきたのだが、少しずつスキルオーブが出回るようになるにつれ、今度はその『スキル』を犯罪に使うものが現れ始めたそうだ。スキル持ちの犯罪者を取り締まるための組織を今まさに作っている最中なんだとか。
(これはとんでもないことになってるな)
しかし、
魔物を倒しレベルが上がれば身体能力も上がるようだが、レベル以外は実際に数字として確認する手段はないようだ。通りで今朝、ステータスが見れなかったわけだ。
と、そこまで調べてふと疑問が湧いてきた。
(そういえば、向こうのスキルは試してなかったな)
ステータスが見れなかったことで、向こうで得た力は失ったと思っていたけど、スキルは残っているかもしれない。
とりあえず向こうにいた時と同じような感覚で『鑑定スキル』をつけてみて、自分自身を鑑定してみた。
名前 柊 翔
レベル 1
スロット ∞
スキル スキルマスター
鑑定
(おおう、これ絶対ヤバいやつやん……)
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