第13話

Yは夢子さんのことは知っているような気になっていたが、いざ探そうとすると自分が夢子さんのことを全く知らなかったことに自分でも驚いた。俺は夢子さんのことを何も知らない…。夢子さんの卒業した大学がたまたま自分の妹の大学と同じだったので覚えていただけで、後のことは全くというほど知らなかった。

夢子さんが初めて家に来た日、彼女は作業着のような制服の上着の下にトレーナーを着ていた。かなり使い込んだ感じのトレーナーだった。夢子さんの第一印象は着るものに全く頓着しない人だなということだった。オシャレにあまり関心がない人なのかもしれない。夢子さんは見た目だけではなくいろんな意味で新鮮だった。おそらく20代だろう。前半なのか後半なのかもよくわからない。ただ彼女は大学生時代サイクリング部にいたということを話してくれた。それもあってか玄関先に置いてあったYのマウンテンバイクに興味があるみたいだった。それはYが自転車ショップが自分のところで作ったものが売れ残ったまま1年以上経ってしまって型落ちになって半額で売っていたマウンテンバイクだった。

「自転車良く乗られるんですか?」

「膝を痛めてジョギングの代わりに乗ったらと。友人から勧められたんです。」

「面白い形の自転車だなと思って見てました。」

「それはトレーニング用に買ったんだ。」

「トレーニング?」

「オンロード用の自転車だと漕ぐいでも軽すぎてあまりトレーニングにならないでしょ。マウンテンバイクだとタイヤが太くて重いからトレーニングになるかなと思って。」

「そうでしたか」

「自転車は倉庫に5〜6台あるかな。」

「そんなに。」

「ロードバイク、シティバイク、チョイ乗り用といろいろな種類にを集めてると多くなっちゃってね。」

「いいですね色んな自転車に乗れて。」

「でも結局乗るのは玄関に置いてるあのマウンテンバイクなんだけどね。あれはタイヤが太くてそう簡単にパンクしないから心配なく乗れるんだ。」

夢子さんの着ているトレーナーは首の辺りが少しくたびれていた。とにかく夢子さんの第一印象は化粧もしてなくて着る物にもこだわらない、洗いざらしのシャツかジーパンのような人だった。だからといってそっけないザラザラした感じではなくて、可愛らしくて美しい人だった。手足は細く長く女らしさとは無縁な感じで、だからといって女性らしい魅力がないわけではなかった。女女した感じではなくさっぱりした、気持ちがいいくらいさっぱりした感じだった。

Yは夢子さんと一緒にサイクリングしてみたいなと思った。夢子さんはその女子大には高校を卒業してから入学したということなので、それまでは共学だったのかもしれない。ただ不思議なくらいに男の影を感じなかった。なんと言うか全く男の匂いがしなかった。これだけ可愛くて全く男性との付き合いがないなんてはずはない。でも待てよあやこさんもそうだったよな、同じような感じだった。とても綺麗でスタイルも良くて魅力的で、そこまでは全く夢子さんと同じだ。しかも二人とも女子大出だった。ただ文子さんは高校の頃から女子大で夢子さんは大学から女子大に通ったというところが違う、二人ともスタイルが良くて綺麗で可愛らしいなのになぜか男の気配がない不思議なもんだ。

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