第12話

いつも元気だった母が急に具合が悪くなった。

お母が入院したと、妹から連絡が入った。Yは焦った。

「どうしたんだ調子良かったんじゃないのか?」

「お母さんはいつも元気そうにしているから大丈夫だと思ってたの、お母さんきっといつも我慢してたんだと思う。」

「我慢?どうして?」

「お母さんってあれで結構気を使っているのよ。実の息子と娘なのに…」

「遠慮してるようには見えなかったけどなー。」

「調子の良い時はそうよ、ただ本当に具合が悪くなった時は急に遠慮がちになっちゃったりするんだと思うわ。」

「そうなのかぁ。」

お袋が認知症の兆候があると医者に言われてからYは勤めていた職場の業務を正社員からバイトに変えてもらった。おふくろの面倒を見るために。

正社員を辞めてバイトになってからはまるまる半日が空いた。食事の準備も凝った料理にしなければ、そんなに時間は取られなかった。

家でテレビを見ているのに飽きるとお袋はよく色んな所に行きたがった。Yもお袋が喜ぶならと思って色々な所にドライブに連れて行った。お袋は結構ドライブが好きだった。Yはお金がなかったのでお金のかからない車で只で行ける所にしか連れて行けなかった。ショッピングも無理だから自然に山とかお金のかからない所になってしまう。それでもお袋は楽しそうだった。いつも山ばかりだと文句は言っていたが、楽しそうだった。

お袋が楽しんでいてくれるようでYはそれなりに満足していた。ただお袋が時々言うお前は結婚しないのか?という言葉に本当は応えてやりたかった。1度その頃付き合っていた娘と結婚しようかと思ったこともあって家に連れてきたこともあったがお袋はただ可愛らしい子だねと言ったっきりで、結局結婚はしなかった。お袋に目合の話を持ってこられたこともあったがそれは断った。相手ぐらい自分で探すから大丈夫だとYはいつも言っていた。そしてそれは事実だった。結婚してくれそうな女性は何人かはいた。

親が結婚してくれることを望み自分も結婚しても悪くないかなと思っていたのに結局結婚は実現しなかった。それはどうしてだろう。結局俺は自分自身に対してけじめがつけられなかったんだ。この子と結婚しようそれは相手のせいなのかそれとも自分自身のせいなのか。俺の場合は自分自身のせいに間違いない。相手は何時だって若くて可愛いらしくて綺麗な申し分ない娘ばかりだ。そしてYはいつも結婚しようとはいうけれど本当は全然その気はなかった、Yは本当にはなかった。Yは何人かの相手に結婚しようとか結婚してくれとかそんな言葉は言ってきた。しかし、結局いつも心から結婚したいとは思えなかった。

でも今は本気だ。本気で結婚したいと思っている女性がいる。でも彼女とは一度話をしたことがあるだけでデートらしいことすらしたこともない。向こうは俺の気持ちを全く知らない。ただ結婚したいと思えるのはあのひとだけだ。おふくろがまだ生きているうちに出会えていたのに、なぜどうして俺はあの人にお袋が生きてるうちに結婚を申し込まなかったんだろう。

「夢子さん僕が結婚したいのは君だけなんだ。」

夢子さんに結局結婚を申し込めないのは経済的なことだ。まともな仕事を持ってない今の俺が夢子さんに結婚なんて申し込めるわけがない。なんとか仕事についてそれから出なければ申し込むなんて無理だ。それにどこに行けば夢子さんに会えるのかも全くわからない。

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