第8話
「なかったら普通に生きていくしかないでしょう。凡人は普通に努力して、普通に生きていくしかないんです。」
「はいはい分かりました。凡人らしく普通に生きていきます。」
「普通に生きていくのだって楽じゃないのよ。それなりに大変なんだから分かってる?」
「分かっております。」
「本当にわかってる?」
「厳しいなぁ。」
「なんか心配なんだよね、あなたって。能天気って言うか、ちゃんと将来のこと考えてる?」
「なんだよお袋みたいな言い方して。なんか俺が何も考えていないみたいじゃないか。」
「何も考えていないでしょ。」
「…。そんなことないよ、俺だって色々考えてるよ。」
「本当かな?例えばどんなこと考えてる?」
「例えば…。」
「言えないの?」
「急だったからさ。」
「何も考えてないのね。」
「だから考えてるって。」
「じゃあ今言ってみてよ。」
「…」
「ほら言えないじゃない。」
「急かすなよ、いきなり言ってて言われても言えないだろうそんな事、急に。」
「いつも考えてる人ならすぐに言えるはよ。」
「う…。」
考えてなかったなぁ、将来のことなんて。麻美は俺にどうして欲しいんだろう。結婚して一緒に塾でもやってほしいんだろうか。それが麻美の言うちゃんと考えてるって事になるのかなぁ。なんかめんどくさいなぁ。こういうの好きだよなぁ女って。決めたがりだな。決めればうまくいくと思ってんのかなぁ。
人の気持ちなんて変わるもんだろう、1度決めたって、ずっと変わらないわけがない。決めたって仕方がないのに…麻美はどうしたいんだろう。
仕事か…仕事がはっきり決まってないからいけないのかなぁ。でも塾を辞めて新しく作るとしてもそんなに簡単にはいかないし色々あるな考えなきゃいけないことが、でもそれって今考えなきゃいけないことなのかなぁ。まあどっちにしても今のとこにずっといる気はないけど…。決断しなければならないのはわかってた。ただ、今すぐ決めなければならないとは思っていなかった。そのうち決めなければならないときは、必ず来るんだけど。仕事を選ぶみたいに簡単にはいかないものかなぁ。結婚か…本気で考えたことなかったなぁ。みんなどうやって決めたんだろう。結婚なんて付き合っていたらそのうち自然にそうなるもんだと思ってたけどじゃないんだなあ。自然になんて行かないかどこかでどちらかが決心ってやつをしなきゃならないんだ。でも、こうやって俺が考えてるってことは、麻美はもう決心したってことか。麻美に聞いてみようかどうやってそんな気持ちになれたのか。考えたらみんな麻美が決めてた。付き合い始めたのもホテルに行くのも全部麻美が決めた。いや、待ってよ。
最初に声をかけたのは俺だった。
確かに声をかけたのは俺の方だった。でもあの時そんな先のことまで考えてなかった。まさかこんなことになるなんて全く考えてなかった。
「じゃあどんなつもりで声をかけたの?」
「はっきり言って、そんなはっきりした考えなんてなかった。ただその日の気分って言うか…。ちょっと声をかけるのにそんなに考え込んでするもんじゃないだろう。いい子だなとか可愛い子だなと思って声をかけただけだよ。そんな先の事まで考えるわけないじゃん。ナンパしてるなんて気持ちさえなかった。ただ普通に隣の人に声をかけたって言うだけだよ。人に会えば挨拶ぐらいするだろうそれと変わらない。ナンパだとかそんな大したものじゃないんだ。ましてや結婚相手に結婚してくれと言ってるわけじゃない。そんなこと簡単に言えるわけがない。プロポーズするならもっと考えたさ。」
「確かに俺は全く考えもなく隣に座った女性に声をかけた。でもそれってそんなに大変なことか?二人の人間がいて出会えば挨拶ぐらいするだろ、それと同じさ。黙ってたら変な感じになるだろう。挨拶することにいちいち理由なんかない、ましてや責任なんてあるわけがない。習慣だ挨拶は習慣、癖みたいなもんだ。いちいち考える人なんていない。だからこんなに悩む必要なんてないわけだ。もう考えるのはやめよう。世の中には考えても仕方ないことがあるんだ、そういうもんだ。」
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