第7話

いい大学に入っていい給料をもらって良い暮らしをするためなんだろうか。それは誰だっていい暮らしがしたい、だからってその為に払う私立中学受験のための努力はものすごい。これだけの努力ができれば人より良い暮らしが出来ても当たり前だと思った。要するに大人になる前にめちゃくちゃ努力をして頑張っておくか、大人になってから頑張るかその違いかな。どっちにしても頑張らなきゃならないのは同じなんだけどね。後か先かの違いだけならどっちでもいいんだけど。どうせやらなきゃならない努力ならせめて本人が納得して努力することにした方がいいような気がするけど小学生たちは納得しているのかな…。ただ本人たちがどうしても嫌だと言ったら受験の時にそこまで無理なことはさせないことだ。今がダメでもある程度大人になってからまた頑張って努力すればいい。それぐらいの配慮と言うか余裕は必要だろう。

早めにやるか、後からやるかの違いだけなんでどちらでもいいんだけど、とにかく本人が納得してやるということが大事かなと思う。納得できないで無理やりやれと言ってもちょっと無理があるだろう。その点は大人も子供も同じだと思う。

本人が納得しない限りあれほどの勉強を量続けるのは無理だと思う。本人が納得し志望校に入るためにはこれだけの勉強をしなければならないんだと理解して始めてあの努力が出来るんだろうと思われる。でなければ不可能だ、あれだけの勉強量を継続するのは。


「そんなに心配なの」

「わたし失敗したの、私立中学校受験。」

「だから、あの子達には失敗させたくないの。」

「優しいんだね君は。僕なんかとは大違いだ。

僕はただ、子供は嫌いじゃないし、楽だからやってるだけなんだ。君は本当に子供の事を考えているんだね。」

「そんなことないわ。」

「君は本当の先生なんだ。」

「かってにやってるだけよ。」

「まるであの子たちの本物の親みたいだ。親の気持ちがわかってる。」

「わからないわよ、親の気持ちなんて。私はただ私と同じ失敗はして欲しくないだけよ。」

「…」

「傷つくのよ子供って、大人が思っているよりずっと」

「…」

「生まれて初めての失敗でしょいつまでも残るのよ。」

「そんなもなのか」

「自分でも思っていないくらい深く、傷つくのよ。そんな傷はないほうがいい、生まれたままの綺麗な気持ちでいてほしいの、傷ではなく笑顔のままでいて欲しいのよ。」

「はっきり言って僕はそこまで子供達の側に立って考えたことがなかった。割のいい仕事として割り切ってやっていた。君はどうして塾の先生になろうと思ったの?」

「なんとなくかな。学生の頃アルバイトで教えていて、そのままズルズルと就職しちゃった。他になりたり仕事もなかったし、そのまま塾に入っちゃったのよ。そんなもんじゃないみんな。あなたはどうなの何かなりたい職とかあった?」

「特になりたい仕事とかはなかったぁ。毎日楽しく暮らせたらいいなと思ってた。」

「楽しく?」

「そう楽しく。嫌なことはやらずにただ楽しいことだけやって暮らしていけたらいいなと思ってた。」

「そんなの無理でしょ。」

「無理かな、やっぱ。」

「当たり前でしょ。」

「どうして?」

「好きなことだけして生きていけるなんて特別な人だけよ。」

「…」

「あるの?何か特別な才能とか?これだけは人に負けないものとか?」

「…ないかな。」


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