第4話

森川麻美からの電話だった。

「明日会わない?」

「いいけど。」

「じゃあの店で待ってる。」

「わかった。」

Yは麻美と行ったジャズバーに向かた。麻美はかなり早いペースでグラスを空にしていた。

「ちょっとペースが早すぎないか。」

「大丈夫よこのくらい。私お酒強いの。」

「今度どこかにドライブにでも行こうか?」

「本当!うれしい。」

「麻美は嬉しそうに笑った。」

「お酒はこれくらいにして、居酒屋にでも行って何か食べよう。」

「うん。」

麻美は素直に従った。

「海派?それとも山派?どっちがいい?」

「俺は山派かなぁ。」

「どうして?」

「遠くにある山を見るのが好きなんだ。」

「どんな山が好きなの?」

「立山連峰見たいな感じの山。」

「別に行きたいわけでも登りたいわけでもないけど見ているのが好きなんだよ。」

「立山連峰…私も好きだなぁ。なんとなくわかるわ。

今度見に行きましょうか?」

「そうだねドライブがてら見に行こうか。」

19号で北に向かって走ればいつもと違う山が見え始める。多治見辺りでも南アルプスが結構見える。冬の時期だと白く雪を被っているので分かりやすい。久しぶりに南アルプスを見て Y は行きたいなと思った。久しぶりにまた山を見た。自分が住んでいるあたりでもちょっと走れば山を見ることできるが、やっぱり時間があってのんびりと山を見ることができるのは休日ならではだ。

「次の休み立山連峰を見がてら、金沢にでも行こうか?」

「いいわね金沢かぁ久しぶり。これからがいいんだよね金沢。魚も蟹も美味しくて最高よね。お酒も美味しいしね。」

「行ったことある?」

「10年ぐらい前に一度行ったかな。夜について駅前の商店街みたいな所で飲んだ。飲み屋がいっぱい集まってるんだ。」

「どうだった?」

「何を食べても美味しかった。日本酒が、特に冷酒が美味しかったなぁ。」

「美味しいよね金沢のお酒。魚が美味しいからかなぁ。」

「なんか水みたいでいい気になって飲んでたら、歩けないくらい酔っちゃって参ったよ。自分じゃお酒には強い方だと思ってたんだけどあんなに酔ったのはあの時が初めてだったかな。」

「大丈夫だったの?」

「別に気持ちが悪いとかそういうことではないんだ。ただふわふわと気持ちが良くて、酔うというより、とにかく気持ちが良かった。」

「えーそうなの。じゃあいいお酒だったのね。」

「そうだなあんな酔い方だったらまた飲んでもいいかなぁと思って、また酒が好きになった。」

「じゃあドンドン冷酒を飲みましょう。二人で地酒を全銘柄制覇してやりましょう。」

「いいね。悪酔いして、吐いたり絡んだりするのは願い下げだぜ。」

「しないわよ。私お酒強いんだから。」

「俺もそれなりに強いんだけどね…。」

「じゃあ勝負ね。」

「いいよ。酒代と帰りの車の運転をかけようか。」

「いいわよ。」

「俺の車で行こう、家で充電しておけば金沢ぐらいなら行って戻れると思う。」

「OK じゃあお願いね。」


「体調は?」

「全然いいわよ。今日も一杯飲んでいっぱい食べれるわよ。」

「ねえ、のどぐろって食べたことある?」

「あるわよ。」

「あれって何がうまいんだろう、よく分からないんだよ。」

「夏に食べたの?」

「いつだったか忘れた。」

「これからだったら脂が乗って美味しいはずよきっと。」

「食べた時期が良くなかったのかな。」

「そうね。でものどぐろって結構いいお値段するのよ。」

「そうなの、でもこっちは大丈夫さ教室長どのが一緒だからね。」

「教室長って言ったってお給料は大したことないんです。」

「そうなの?」

「そうなんです。所詮はただのサラリーマンなんだから。たかが知れてるのよ。」

「自分で作るしかないのかなぁ。」

「それはみんな考えてる。」

考えていることは皆同じだった。私塾で働いている半分ぐらいの人間は自分の塾を持つことを考えている。実際に自分の塾を作る人間は、そのまた半分以下だろう。作るのは簡単だがなかなか続かないのが現状だ。そして発展して塾はそのまた半分以下と、言ったところだろうか。

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