第6話

「綾人くん、ハッピーエンドってどこまでだと思う?」

 彼女は校門を出た辺りで問いかけるが、僕には質問の意味がわからなかった。

「どこまでって?」

 隣を歩いている彼女に訊き返す。

 いつも彼女は気ままにファミレスにやってきてバイトを終えた僕と一緒に帰宅するというパターンが多いので、バイト先に二人で向かうというのは珍しい。

「小説は最後のページまで。映画はエンドロールまで。明確な終わりがある。でも人生はどこまでも続いていくでしょ。幸せな結末のその先は幸せじゃないかもしれない。今愛し合ってる二人でも、数年後には殺し合ってるかもしれない」

「極端だけど、あり得なくもないかも」

「そうでしょう」

「でもどこまでって言われたら難しいな。死ぬまでって、なんかハッピーとは言いにくいし」

 僕たちは歩きながら話す。こうして二人で話をするのは久しぶりのように感じた。

「そうね。仮に死ぬまで愛し合えるなら、それはハッピーエンドと呼べるのかもしれないわね。でもそんなのわからない。だからこっちから迎えに行くのもありだと思うの」

「迎えに行く?」

「幸せな段階でピリオドを打つのよ」

 彼女は立ち止まる。彼女越しにバイト先のファミレスが見えた。

「最近なんだか私たち距離があると思わない?」

 彼女は問う。僕は何も言えなかった。それが答えだった。

 付き合い始めてから時間の経過とともに、僕たちはお互いの目を見つめる頻度が少なくなったと感じていた。

「このまま離れていってしまったらお互い無関心になっていく。そのまま嫌いになってしまうかもしれない。だから今なの。まだ綾人くんが私を、私が綾人くんを好きでいるうちに」

 眼鏡のレンズが夕光を反射して輝く。

 その奥の瞳も光を湛えていて、やっぱり綺麗だと思った。

「ハッピーエンドで終わりましょうよ、私たち」

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