第2話

「やっぱりファミレスのキッチンは人数が多い方がいいよね」

「仕事が分担できるからですか?」

「まかないのレパートリーが増えるからだよ」

 バイトリーダーの伏上ふしがみさんはキッチンのほうに目をやりながら「今日のキッチンは三人も入ってる。三人寄れば文殊の知恵と言うし、期待できそうだね」と意味不明なことを言っていた。

 彼女は歳もバイト歴も僕より一年先輩で、頼りがいがあるというよりは誰にでも分け隔てなく明るい性格が人望を集めて今の立場にいる。

 彼女の朗らかさはファミレスのホールスタッフとしてはオーバースペック気味だ。彼女目当てでバイトに応募してくる輩までいる。僕は違う。

「ホールにも人増やしてほしいですけどね。なんでいつも僕と伏上さん二人なんですか」

平船ひらふねくんがいないときはちゃんと三人入ってるよ。君だけ特別」

「こんなに嬉しくない特別ってあるんですね」

「信頼してるんだよ。それに平船くんもそっちのが都合良いでしょ?」

 伏上さんはにっと笑う。それから店内を見回して、首を傾げた。

「あれ。でも今日は来てないみたいだね、あの子」

 あの子、というのが彼女のことだというのはすぐにわかった。

 彼女はこのファミレスの常連で、いつも窓際のテーブル席に一人で座ってパンケーキを食べながら本を読んでいる。いつも同じ時間に同じメニューを頼むものだからホールスタッフで知らない者はいない。

 僕と彼女が初めて出会ったのもこの場所だ。

「ああ、たぶんあの子は」

 なんでもよかった。ちょっと用事が、でも。体調不良で、でも。眼鏡のメンテナンスで、でも。

 適当な嘘をついて誤魔化せばよかったのに、僕はなぜか本当のことを言ってしまった。

「もう来ないと思いますよ」

 どうしてそんな風に言ってしまったのかわからなかった。

 彼女がそれに気づかないはずがないなんてことくらいわかっていたのに。

「……なんかあったの?」

 伏上さんは僕を見た。

 そんな目で見ないでほしいと思ったことだけ憶えている。

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