お尋ね者
「さてと。早速だけど、アル。急いでこの国を出るわよ」
おもむろにそんな事を言い出すエカテリーナ。
彼女はそう言いながら一枚の紙を取り出してアレックスに見せた。
「何これ?」
「あなたの手配書よ。アルは今やヴィクトリア王国認定の指名手配犯なの。だからこの国にいると危険だわ」
その手配書の一番上には「WANTED」と書かれ、その下にアレックスの人相書き、そのさらに下にアレックスの名と懸賞金の額が記載されていた。
「すげー! 俺、お尋ね者になったのかよ!」
「ちょっと何を喜んでるのよ」
「だってよ。お尋ね者になったって事は、これから賞金狙いの冒険者が続々やって来るって事だろ。強い奴が向こうから来てくれるなら大歓迎だよ~」
強敵との戦いを何よりの楽しみであるアレックスにとって、冒険者が自身の命を狙ってやって来るという事は、娯楽が向こうから近寄ってくるのと同じらしい。
そんなアレックスを見て、エカテリーナは大きな溜息を吐く。
「はぁ~。アルのそういうところは昔から変わらないのねぇ。……でもね、アル。私はもうこの国に留まるつもりは無いの。旅費もたっぷりあるし、このまま二人で世界中を旅するのも素敵だと思わない?」
そう言いながらエカテリーナは、腰に下げている革袋から大量のカイゼル金貨を取り出す。
それはアレックスを奴隷から解放するためにずっと貯めていた資金だった。アレックスが闘技場から脱走した今、もはや用済みになってしまったお金を旅費に流用するつもりだった。
「ん~世界中をか~」
満更でも無さそうなアレックス。
しかし、彼の中には一つの懸念があった。それは指名手配犯になった自分と一緒にいる事で、エカテリーナの身に危険が及ぶ事だ。
エカテリーナと再会できた事は素直に嬉しいと思っているアレックスだが、彼女の身を危険に晒す事は本意ではない。
「ねぇ知ってる? この大陸には、闘技場ではお目にかかれなかったような強い人がたくさんいるのよ。そういう人達を探して勝負を挑む方がよっぽど強敵と戦えると思うけど?」
「……じゃ、じゃあ、俺一人で行くよ。この国を出る。だからリーナは王都に戻れ。今ならまだ間に合うよ」
「ムッ! 何を言ってるのよ。あなた一人で旅ができるの?」
「で、できるよ。実際、ここまで一人で問題なく来られたぞ」
「問題なく、ねぇ~。ふ~ん」
「な、何だよ」
「そのボロボロの布、それ、服のつもり? 一体どこで拾ったのよ」
アレックスが今来ている服は、ゴミ捨て場にあった大きな一枚布を身体に巻いて、邪魔な箇所を切って作ったもので、もはや服と呼んで良いのかすら怪しいものだった。
「それに食事だってまともに取ってないんでしょ」
「た、食べてるよ!」
「ちゃんと料理して作った、栄養的な食事でしょうね?」
「うぅ。そ、それは……」
「ほらね! アルに料理なんてできるはずが無いのよ」
「で、でも、闘技場にいた頃よりはマシになったと思うよ」
カビの生えたパンなど、そもそも人が口にして良いようなものではないものまで食べていたあの頃を思えば、木の実や獣の肉はご馳走だろう。
「どうせ獣を狩ったり、木の実を採ったりしてるんでしょ。でも、それが本当に食べて大丈夫なものなのかどうかの知識はあるの?」
「……あ、ありません」
確かに毒の有無など、それが食べられる物なのかをアレックスはまったく知らないまま、とりあえず食べていた。
食べて腹が痛くなれば、もう食べない。
そんなやり方でここまで来たのだ。
「アルは戦う事ばっかりで他は何にもできないんだから、誰かが面倒を見ないといけないでしょ! それを私がしてあげるって言ってるの!!」
エカテリーナは激しい剣幕でアレックスに詰め寄る。
もはやアレックスに拒否権は無い。そう彼が理解した時、その首を縦に振るのだった。
するとエカテリーナはニッコリと笑いながら「分かれば宜しい」と言う。
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