幼馴染みとの再会
闘技場から逃亡したアレックスは王都を離れて数日後、ヴィクトリア王国西部の大都市ブリストルへと訪れていた。
ブリストルは王都ヴィクトールには劣るものの、多くの人と富が集まる街だった。
街の四方を取り囲む石の城壁は永く続いた平和の時代の中で、その役目を終えて現代では採石場と化しており、ある種の風情を醸し出している。
アレックスはそんな半壊状態の城壁を潜って街の中へと入った。
王都から逃亡する最中に手に入れたローブに身を包んで、フードで顔を隠しているアレックスは、好奇心の赴くままに街の中を散策していた。
五年間、闘技場の中で生きていたアレックスには見る物全てが興味をそそるようで、街中を歩いているだけで楽しそうだった。
グウウウウ~
「あ~腹減った~」
次第に空腹を覚えたアレックスのお腹は豪快な音を鳴らす。
今日までは森の中で獣を狩ったり木の実を採ったりしていたが、街中には獣も無ければ木の実も無い。
無論、市場にいけば食べ物は大量にあるだろうが、今のアレックスは一文無しだ。
「くっそ~。あちこちから良い匂いがしやがるぜ~」
市場では集客を狙う店々が料理の香ばしい香りを漂わせている。
アレックスは胃袋を刺激させるも、お金が無ければどうしようもない。
一度街を離れて狩りでもするか。
そんな事を考えていたその時だった。
「はい、アル。そこのフライドチキン買ってきたわよ」
「お! サンキュー! …ん?」
差し出されたフライドチキンを反射的に受け取ったアレックスは、まず一口チキンに噛みついたところで違和感に気付いて身体がピタッと止まる。
そしてチキンから口を離して、恐る恐る横を見た。その視線の先にいたのは真っ赤な髪をした美人だった。
「り、リーナ! どうしてここに!?」
その美人の正体は、アレックスを追って国を出奔したエカテリーナ・スカーレットである。
「アルを追ってここまで来たに決まってるでしょ」
「いや、でも、どうやって? 気配はちゃんと消してたはずなのに」
「あなたがどれだけ"
エカテリーナはあくまで騎士であり、魔法の技量自体は熟練の魔導師には劣る。
相手の魔力反応を探る感知魔法は、特別得意というわけでもないのだが、なぜかアレックスの居場所だけは敏感に感じ取る事ができたのだ。
「こ、こえぇ」
「それじゃあ立ち話も何だから、場所を変えましょうか」
◆◇◆◇◆
アレックスとは人気の少ない場所へと移動した。
そこで二人はお互いに、これまでの経緯を説明し合う。
「ちょ、ちょっと待ってくれ! じゃあリーナはもう、」
「ええ。紅玉騎士団長の地位は返上したし、もうこの国に用は無いわ」
「せっかく団長にまでなったのに勿体無い。だいたいそれじゃあもう家に帰る事もできないじゃないか」
「そうね」
「……リーナはそれで良いのかよ?」
「私はアルと一緒にいられるならそれで良いの! それに!」
何かを言いかけたエカテリーナは、それを言い終わる前にアレックスに両手を広げて抱き締めた。
もう逃がさないと言わんばかりに力強く。
「ようやく邪魔な鉄格子も無しに、こうしてアルに触れられる。私はそれが今嬉しくて仕方がないの」
「リーナ…。うん。俺もリーナに会えて嬉しいよ!」
そのまましばらくは、お互いにお互いを離そうとはせずに、相手の存在を、その温もりを確かめ合う。
やがて両者は身体を離し、一息ついたところでエカテリーナはずっと気になっていた事を問う事にした。
「ところでアル。あなた、あの伝説の“天授の心威”を発現したって聞いたけど、本当なの?」
「天授の心威? 何それ?」
ポカンッとした顔でアレックスは首を傾げる。
「……じゃ、じゃあ、あなた、処刑されそうだったのよね。一体どうやって逃げ出したのよ?」
「あぁ、それはね。実は俺もよく分かってないんだけど、死にたくないなぁって思ったら、身体からすげー魔力が溢れ出るような感じがして、バーと広がって、グワーってなって、ドリャーってなったんだよ」
「わ、分からない。も、もう良いわ」
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