王室の陰謀
ここはヴィクトリア国王の住む王宮。
「くそ! アレックスの奴め! せっかく騎士団長まで買って差し向けたというのに!」
苛立ちが収まらない様子の少年はソファーやテーブルを蹴り飛ばす。
彼の名はイピクレス。このヴィクトリア王国第一王子であり、アレックスの実兄だ。
先日、アレックスと戦った亡国の騎士団長ベオウルフは、イピクレスが奴隷商に手を回して用意した対戦相手だった。
イピクレスは、目障りなアレックスを亡き者とするために、多くの
しかし、どれだけ殺そうと策謀を巡らせても死なないアレックスに苛立ちを募らせていた。
「落ち着け、我が子よ」
そう息子を窘めるのは、長い髪に髭を生やして威厳と風格を兼ね備えた人物だった。
彼はアフィトリオン三世。このヴィクトリア王国を治める国王であり、アレックスとイピクレスの父親だ。
「しかし父上! あいつはこの五年間、何度刺客を剣闘士に紛れ込ませて送り込んでも死なずにしぶとく生き残っているのですよ! このままあいつが生き続けたら、いずれは……」
イピクレスは、このままアレックスが剣闘試合に勝ち続けて、次第に観客の人気を勝ち取るようになると次期国王に、と推す声が出始めるのではないかと危惧していた。
「まあ確かに、あやつがここまで生き続けるとは流石に予想外だった。これ以上、野放しにするのは危険かもしれんな」
「そうです! ここは更なる猛者を探し出して、闘技場に送り込みましょう!」
「戯け。ベオウルフを越える猛者など、そうそう見つけられるものか」
「で、では一体、どうしようと言われるのですか?」
「何も試合の最中に殺す必要はあるまいて」
アフィトリオン三世は不適な笑みを浮かべる。
そんな彼の表情と言葉を聞いたイピクレスは首を傾げた。
「それは、アレックスを暗殺する、という事でしょうか? しかし、それでは大罪人として始末するという当初の目論みが」
「暗殺などする必要はあるまい。罪ある者を裁くのは権ある者の務め。あやつは闘技場からの逃亡を図った。故に余はあやつの公開処刑という判決を下すのだ」
「あぁ、なるほど。確かに逃亡奴隷は見せしめに処刑するのが世の習い、ですね」
アフィトリオン三世とイピクレスは、親子らしくよく似た笑顔を浮かべる。
◆◇◆◇◆
数日後。
統計闘技場は、いつものように観客が石を埋め尽くして、今日の催しはまだかまだかと待ちわびている。
しかし今日、リングの中央には木製の大きな祭壇のようなものが築かれていた。
明らかに試合の邪魔になりそうなその祭壇は一体何なのかと疑問に思う観客も多かったが、そこに追い打ちを掛けるかのように純白の鎧兜に身を包んだ重装騎士が五十人ほど姿を現して、祭壇の周囲を取り囲む。
「おいおい、王室騎士団じゃねえか?」
「今日は一体何が始まるって言うんだ?」
しばらくすると、リング上に複数の重装騎士に囲まれたアレックスが姿を現す。
アレックスは祭壇の上へと上がると、祭壇の中央に建てられている柱に身体を鎖で縛り付けられた。
これでアレックスは身体の自由を完全に奪われた以上、いつものように普通に試合をするわけではないのだろうという事を察した観客達は次第に静かになっていく。
そんな中、司会者の声が拡声魔法によって響き渡る。
『皆様! 今日は大罪人アレックスの公開処刑を実施致します!! このアレックスは先日、闘技場からの脱走を図るという事件を起こしました! 自らの罪を償う事を蜂起したアレックスに、我等が国王陛下は制裁を下す事をご決断されたのです!』
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