大罪人の王子
いつもように闘技場で数多の剣闘士を薙ぎ払ったアレックスは、する事もないので独房の中でごろ寝をしていた。
そんな時だった。
「おい。お前に面会だぞ」
「面会?」
いつもの看守がそう言いながら現れる。
彼の後ろには、この薄汚い収容区画には似つかわしくない高貴な雰囲気を醸し出している女性の姿があった。
黒色を基調として金色の装飾が施された軍服に身を包み、腰まで伸びる真っ赤な髪、宝石のように輝く緋色の瞳をしている。
その女性を見るや、アレックスはニコッと笑顔を向けた。
「おお。リーナ。久しぶりだな。元気そうで何よりだ!」
「そういうアルは少しやつれたんじゃない?」
「え? そ、そうかな? まあ、いつも飯が少ないからかもな」
「……」
リーナと呼ばれた彼女の名は、エカテリーナ・スカーレット。
ヴィクトリア王国内では名門中の名門であるスカーレット公爵家の令嬢である。
「最近は中々顔を出せなくてごめんなさい。実は私、今年から紅玉騎士団の団長に選ばれたの。それで団長の仕事が忙しくて」
「マジか! 流石は
満面の笑みを浮かべてエカテリーナの出世を喜ぶアレックス。
その言葉に嘘偽りはない。
しかし、その無邪気な祝福の言葉を、エカテリーナは喜ぶどころか辛そうな顔を浮かべた。
「それでね。私、国からお給金も貰えるようになったし、副業で冒険者登録もしたんだ。だから、だからもう少し我慢して! 私が絶対にアルをここから開放してみせる! アルの自由を買い取ってみせるから!」
「俺はここでの暮らしに満足してるから、リーナが気にする事はないよ。まあ、飯が少ないのはちょっと不満かな」
「でも、こんなところにずっといたら、いくら強いアルだっていつか死んじゃうよ」
「強い奴と戦って死ねるなら本望さ」
「……だいたいアルがここにいるのは、アルが悪い事をしたわけじゃないじゃない。本当は、」
「リーナ!」
「ッ!」
「そういう昔の話はさ。もう無しにしようぜ」
「……」
「今日は会えて良かったよ。団長になって忙しいとは思うけど、気が向いたらまた来てくれよ。……あ! 次に来る時は飯の差し入れを持ってきてくれると嬉しいな!」
「……分かったわ。でも忘れないで。私は絶対に諦めないから」
◆◇◆◇◆
十五年前。
アレックスは、ヴィクトリア国王アフィトリオン三世の第二王子としてこの世に生を受けた。
生まれながらに人並み外れた魔力を有していた彼は、ヴィクトリア王室に仕える宮廷賢者ケイローンから「いずれこの赤子は、大陸の支配者となる」という預言を授かる。
七歳になると、ケイローンに弟子入りして彼から文字の読み書きや計算の仕方といった一般教養、そして武術や魔法、兵法などの戦闘技能を学ぶようになった。
そうしてめきめきと実力を伸ばしていくアレックスに対して、父王アフィトリオンとアレックスの兄である第一王子イピクレスは次第に恐怖を抱くようになった。
アフィトリオンはその強過ぎる力をアレックス自身が持て余して王国の支配体制が揺らいでしまう事を警戒し、イピクレスは強力過ぎるアレックスの存在が自身の王位継承の障害になる事を警戒したのだ。
「父上、アレックスの存在は王室のみならず、このヴィクトリア王国にとって有害です! 今すぐにも排除すべきです!」
「まあ落ち着け、イピクレス。……明日、ランカスター広場で余に反発する愚民どもが市民集会を開くそうだ」
「はぁ。それが何か?」
「普段なら愚民どもが何をしようと捨て置くところだが、明日は参加者全員が死ぬ事になっている。たった一人の子供に皆殺しにされて、な」
玉座に座るアフィトリオン王は悪意に満ちた笑みを浮かべて、その鋭い視線を我が子に向ける。
「なるほど。そういう事ですか」
父親の意図を察したイピクレスも父と同じように笑みを浮かべるのだった。
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