第38話 達也が樹里亜を




  樹里亜は一体誰の子なのか……?


 一体誰がDNA親子鑑定を偽造したのか?それともあのDNA親子鑑定は正確な書類なのか?


 それでもこの山城産婦人科では、まことしやかに陽介の子供だと言う噂で持ち切り。その噂を流しているのは、他ならぬ木村夫婦なのだ。


 悪い噂を流して陽介と達也を失脚させたい。


 それでも…そんな事をしたら病院の評判がガタ落ちになるのでは……?

『いえいえそれには及びません』

 この病院は貴理子の評判を聞きつけて通ってくる患者さんも、非常に多い。


 最近は双極性障害も酷くなる一方の達也、仕事らしい仕事もろくにせず、暴れまくり、威張り散らしてお金だけはしっかり取って行く、美味しい所だけ持っていく達也が目障りで仕方がない。


 気分が高揚する時期と落ち込む時期を繰り返す“気分の波”は、誰でも経験するものだが、気分障害のひとつ双極性障害を抱える人は、起伏の激しい気分の変化が周期的に交代して現れる。


 今では病院も代替わりして理事長の陽介が一番の権力者だが、貴理子は病院きっての稼ぎ頭にして、次期理事長筆頭の遥斗の実母。


 現在24歳の非常に成績優秀な、医学生遥斗という強い後ろ盾がある。今現在は貴理子が、この病院の実質上の権力者と言っても過言ではない。


 更には夫の木村も今となっては、この病院になくてはならない重要な存在。人間関係を束ねる力が絶大。


 医師としての技量は貴理子に頼りきりだが、それでも…プライドの高い木村は、自分自身を誇示するには何ができるか考えた挙句、人間関係を上手く築く事それに特化しようと努力した結果、いつの間にか、この病院の運営には無くてはならない重要な存在になっていた。

 この木村副院長、実は…看護師さん達からの受けが非常に良いのだ。若くてイケメンで話の分かる木村に憧れる看護師は一人や二人では済まない。


 この様な状態から、木村と貴理子は増長して恐ろしい考えに陥っていた。

(あわよくば遥斗を盾にこの病院を我がものに……!だが…一番目障りなのが、あの優秀な樹里亜だ。ましてや樹里亜も医師を目指して勉強中。何とかしなくは……?)


 考えてみれば木村と貴理子はいくら病院に無くてはならない存在と言えども、完全に蚊帳の外。不安で押し潰されそうだ。この病院の権力者で理事長の陽介の実子遥斗を盾に、なんとしても……この病院の跡継ぎを遥斗にと願って止まない2人。



 そこで考えられた事…あの優秀な樹里亜を何らかの形で打撃を与えて、勉強に支障を与えさせてやろう。それから…何の役にも立たない達也が、目障りで仕方ない2人は、とんでもない噂を流して達也に精神的打撃を与えて家庭崩壊させたい。もっと言うなら躁状態の時に、陽介の子供だと噂を流せばなおさらの事。


 躁状態では、強い興奮状態や衝動性が出るようになり、後先考えずに異常な行動に出て大変。怒って暴れまわる症状があらわれる。また、異常な浪費や異常なほどの怒りなどが現れる事も多い。


 ◆▽◆

 2016年もう夏本番を迎えようとしている今日この頃。


「クソ————!俺を騙しやがって!許せない!俺の子じゃないだと~?あの弥生にそっくりな美しい本物の樹里亜を無茶苦茶にしてやれ~!ああああ!悔しい!許せない!嗚呼アアアアアア!我慢できない!」

 

 弥生は里帰りをしていたが、医者を目指す樹里亜の為に一時帰宅中だった。夫達也も大層喜んで一時は安泰だったが、木村と貴理子にすれば絶対に樹里亜に理事長の座を譲りたくない。



 そんな時だ。樹里亜が陽介の子供だと噂に聞いた達也は落ち着いていた病状が悪化してしまった。噂話を聞いてからは、最近は夫婦は別々の部屋で別居状態。


 自分の子では無いと確信した達也は異常なほど気持ちが激しく高揚して、夜中の妻弥生が眠っている隙に、樹里亜の部屋に忍び込み”カ———ッ!”となり、樹里亜の咄嗟に首を締めた。


「ギャ————!パパ何するの————!」 


 余りの悲鳴に目を覚ました弥生は、樹里亜の身に危機感を感じて慌てて樹里亜の部屋に直行。


「キャ———!貴方なんて事を!あなた樹里亜になんて事を酷い酷すぎる。それ以上樹里亜に手を出せばお義母さんに電話するから!」


「オイ!それだけは止めてクレ!お袋は今具合が悪いヤメロ————!」


 その夜はそれで何とか治まったのだが、弥生は達也を到底許す事が出来ない。


 それどころか(この手で一思いに殺してしまいたい!)とまで思うようになっている。


 一方の樹里亜は父親と信じて疑いもしなかった達也に、殺され掛かって、そのショックが大き過ぎて夜も寝れない日が続いている。


 父親に対して深い心の傷が残ってしまった樹里亜。

 それにしても……こんな残酷な事件ががあったのに、何故樹にこの事実を話さなかったのか?








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