第37話 祖母咲子他界
2016年11月晩秋。
達也は穏やかになり、以前の達也ではない。
一体どうなってしまったのだろうか?
また、何故以前から躁うつ病の症状が出ていたのに入院しなかったのか?という事だ。それはまず達也が「絶対嫌だ!」とごねるのもあるが、祖母咲子の意向が大きいのだ。
そんな所に入れられたら、いつ出られるか分からないし、薬漬けにされて生きる屍同然にさせられる。また、そういう噂は直ぐ人の耳に入るから、何より世間体をおもんばかる家族。
優秀な陽介に治療を頼んでいた。
周りの迷惑も顧みずに、姑咲子の我がままにも程がある。
(精神病院に入れるなどそんな可哀想な事を、一人息子に絶対させたくない)その一点張りで今日に至っている。
それでは周りはたまったものではない。特に一緒に生活している弥生は特に生きた心地がしない。
そんな世間体を何よりもおもんばかる祖母咲子だったが、熱い夏真っ盛りの7月30日に85歳の生涯を閉じた。
*********
2007年9月。
黄色いまん丸笑顔のヒマワリが、あれだけ庭一面に咲き誇っていたのに、今は盛りが過ぎて、花びらが後退し、種子のかたまりだけ残し夏の終わりを告げている。
実は昏睡状態に陥った樹里亜は、2ヶ月後の8月頃には元気に息を吹き返していた。息を吹き返した樹里亜に、ことのほか喜んだのは他ならぬ祖母の咲子だった。
あんなに喜んでいたのも、つかの間一体樹里亜は何処に?
『ヒマワリの様な笑顔』の樹里亜は、もうかれこれ1ヶ月姿を見掛けない。
一体何処に?
実は達也が「俺の子じゃない見るのも汚らわしい!」と暴れまくって弥生と樹里亜に当たり散らすので弥生が、大切な樹里亜に何か有ってはと危険を感じて里に連れ帰ったからなのだ。
◆▽◆
忘れもしない1998年9月中旬。
爽やかな秋風が心地よい季節となり⋆*⋆*
夕焼け空に赤トンボが群れをなして飛んでいる。
そんなうららかな秋日和に樹里亜は誕生した。
家族の喜びは、いかばかりだった事か、特に祖母の咲子はやっと授かった達也の、一粒種樹里亜には異常なほどの孫バカぶりを発揮していた。
それなのに、2007年6月16日の大雨の日に樹里亜ちゃんが、交通事故で生死の境を彷徨い家族は最悪な、とんでもない悲劇の渦に巻き込まれ、特に祖母は一時は体調を壊して大変な状態だった。
昏睡状態の樹里亜はもう治る見込みも無い事から、退院する事になった。
また、高名な内科・神経内科の名医祖父勇が自分の手でどんな事をしても、樹里亜を助けようと連れ帰ったのだった。
努力の甲斐もあり回復した樹里亜、それを見届けるように祖父勇は80歳の生涯を閉じた。
余りにもあっけない突然の祖父の死。
達也の病気や樹里亜の病気の事ばかりに気を取られて、自分の体調にまで気が回らなかったのか?
大切な愛する夫と愛する樹里亜両方を、一気に失った祖母咲子は放心状態。
咲子にしてみれば樹里亜だけが生きる支えだったのに、急にいなくなって一気に元気がなくなっている。
そればかりか、食事も喉を通らないほどに、やつれ果てている。
こんな世間体ばかり気にする、見栄っ張りのどうしようもない母だが、いざとなれば達也には母だけしかいない。
こんなどうしようもない達也だが、この家族の中でただ唯一の味方、咲子がもし他界する事にでもなったら達也は、どうやって生きて行けと言うのか?どうして生きて行けようか?
ましてや弥生と樹里亜は、里に帰ったきり音信不通。
もう最近は躁うつ病の状態が酷くて(いつか殺されるのでは?)家族のみんなの策略が透けて見えて、更に被害妄想も著しくなって来て信用できるのは母一人だけなのだ。
(母は昏睡状態の樹里亜ちゃんを絶対に治る!と信じていたからこそ献身的にこの家で、樹里亜ちゃんを看病する事が出来たんだ。そんな母の生きる希望の樹里亜がいなくて寂しさのあまり益々体調が悪化すれば大変)
そこで考えたのが、もう幾ばくも無いクロ―ン【少女B】樹里亜を、この家で祖母咲子と一緒に達也共々生活するという事だ。
母だけが頼みの綱の達也。
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