第31話 達也と陽介の心理
達也の心理***
1956年、美しく風に舞う赤や黄金色の葉に秋の深まりを感じる、11月に生まれた達也は、この家の跡継ぎとして期待されてそれはそれは大切に愛されて育てられている。
だが?1960年、竜二との結婚を夢見ていた美智代叔母さんは、祖父母の大反対に遭い強引に連れ戻された。その為に暫くの間山城家での生活が始まった。
1年後には祖父哲也の決めた結婚相手の勤務医と結婚した叔母は、泣く泣く陽介を手放した。こぶ付ではあの時代、まともな結婚相手など到底見つからなかった。その為、祖父母の説得で泣く泣く陽介を手放した。
それでも…達也と陽介が幼かった頃は本当に仲の良い義兄弟で、微笑ましい光景があちこちで目撃されていた。4歳違いの兄達也は、まだまだ赤ちゃんの足元もおぼつかない陽介の手を引いて、それはそれは大切に陽介を慈しみの眼差しで見守っていた。
そんな微笑ましかった義兄弟だったが?それは忘れもしない、達也が高校1年生の時の事だ。その前から、もうじわりじわり付箋が現れ出していたのだが、それでも何と言ってもこの家の直系の跡継ぎ。まかり間違っても形勢逆転など有ろう筈がないと高をくくっていた。
だが、じわりじわりひびが入る出来事が現れ出して来た。達也の成績はどんなに頑張っても上の下か?中の上?と言ったところ。それに引き換え陽介は小学校の頃から、ずば抜けて優秀。おまけに絵に描いたように可愛い坊や。
普通だったら、もうここでいじけそうなものだが………。
まさか、美智代おばさんが未婚の母で産んだ、素性の悪い男との間に出来た弟陽介(叔父がヤクザの若頭)なんか絶対あり得ない。ましてや、居候まがいの義弟など相手にされるわけが無い!とんでもない!有り得ない!ましてや4歳も下の弟だ。悔しい思いはあったが、そんな思いも有り余裕しゃくしゃく。また、それ以上に義弟に対しての可愛さが勝っていた。
だが?陽介が中学校に上がる頃から、この家庭ではじわりじわり達也に冷ややかな眼差しが、注がれるようになって行った。陽介は元々誰にも負けない天賦の才が備わっている。達也がどんなに頑張っても手の届かなかった偏差値最高峰の、私立の中高一貫校A中学に難無く合格した。
最初の内は(まあ仕方ないや!)と思う程度だったのだが………?
母咲子が入れ知恵を付けた。母にしたら必死だ。自分の息子を何としてもこの病院の跡継ぎにと願うのは当然の事。
「お爺ちゃんが達也と陽介では出来が違い過ぎる、医学の道は知性が最大の武器。あんな達也じゃとてもじゃないがこの病院は譲れないと、事あるごとにおっしゃっているのよ、あんな素性の悪い陽介になんかに負けてどうするの、あんな結婚前に子供を産んだ、ふしだらな美智代の子供になんか負けてどうするの?全く情けない!ウカウカしていたら陽介にこの病院乗っ取られちゃうわよ~?」
また…それと、祖父母の達也と陽介への扱いの違いが露呈して来た。祖父母にすれば……ともかく優秀で人間性の優れた人材を跡継ぎにと願っている。それでも…多少の違いであれば、直径の達也に譲るのは当然の事だが、余りにも違い過ぎたら話は別だ。
最初の内はスープの冷めない距離にある祖父母の邸宅に、チョクチョク2人一緒に顔を出していたのだが。
「達也もっと勉強しなくては、とてもじゃないが医学部は無理だ。どうしてこんなに出来が違うんだ!陽介の爪の垢でも煎じて飲んでおけ。このバカが!」
それは、祖父にすれば出来る事なら達也に跡を継がせたい強い意志の表れなのだ。その為、発破をかけるつもりで言っている。
「お爺ちゃん達也兄ちゃん勉強しているよ!それなのにお兄ちゃんもどうしてあんなに頑張っているのに出来ないの?何か悩み事でも……」
達也をかばっているつもりだろうが、なおさら出来の違いを痛感させられる一言なのだ。そこにおばあちゃんの留めの一言。
「本当に陽介は容姿も申し分ないね~!ご近所さんから『こんな可愛い子見たことない』。と言われて私は鼻高々だわ」
家族全員から責められまくる達也。
家庭に完全に居場所を失った達也。
(幼い頃はこの家のやんちゃな王子様だった。もっと言えば王様と言っても過言ではない。それだけ期待されて、注目され、愛されていたのに今のこの現実は何だ。皆の期待は陽介に注がれ、俺は只の厄介者じゃないか、陽介のせいだ!陽介が許せない!どんなに頑張っても陽介には敵わない。俺はこれ以上は無理なんだ。嗚呼~辛い!苦しい!)
この頃から徐々に陰に籠り、異様な行動が現れ出していた。たとえば……犬や猫を殺してストレス発散をしていた。そして、やがて…あんなに可愛がっていた陽介を『殺したい!』と思う程までになって来ていた。
陽介の心理***
達也とは幼少期は本当に仲が良かった大好きな義兄だった。
だが……類いまれな逸材と、いち早く感じ取った義母咲子の執拗なイジメ!嫌がらせ!が始まった。
未婚の母で生まれた、ふしだらな美智代の子供だと、今までは散々さげすんでいたのに、寄りによって、この家の正真正銘の直系の我が子よりも、あんな居候と何ら変わらない陽介が優秀だという事が到底受け入れられない、許せない咲子。
夫勇は病院に缶詰め状態、それを良い事にお手伝いさんが帰った後の、食事の後片付けにトイレ掃除と厄介な仕事を押し付けている。
また、咲子はお金が掛かる事が何より気に食わない。本来ならば面倒みる筈の無いお荷物をしょい込まされて迷惑の何物でもない。気に食わないので、家族旅行も陽介だけは連れて行かない。
夫勇も仕事で行けないので気付いていない。それを良い事に陽介に辛く当たっている。ともかく気に食わない。もし気が付いていたら夫も黙っちゃいないが……?
また、言葉の暴力も酷いものだ。
「お前が勉強して何になる?おじいちゃんの御機嫌伺ばかりして……とんでもないガキだね!恩を仇で返す気か————!」
我が息子達也があんな陽介みたいな素性の悪い、居候同然の子供に負けるなんてとんでもない。と憤慨しているにも拘らず、ご近所さんからの容赦ない言葉。
「陽介ちゃんは成績も優秀だし、また…本当に整ったお顔の可愛いお坊ちゃまです事。羨ましいですわ!」
「そうですか~?有難うございます」とは言っているが、ちっとも嬉しくない(うちの子達也はどうなのよ~?あんな未婚の母で生まれた子供なんか……)
益々継子いじめが加速している。
陽介は、咲子おばさんを怒らせない様に必死に機嫌を取っているが、その態度が更に逆鱗に触れ尚更窮地に追い込まれている。
この辛い愛憎劇から、辛さのあまり祖父母に逃げている。祖父母が最後の砦なのだ。
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