第32話 少女Ⅾ】樹里亜




 陽介によってすり替えられたDNA親子鑑定?


 検体採取の際、立会人となる鑑定会社のスタッフを買収し、検体を他人のものにすり替える、これは重大な犯罪だが……?


「嗚呼アアアア!一体!どうなっているんだ!」釈然としない達也は、何もかも忘れる為に一層クロ―ン作りに没頭している。


 弥生も大変だ。痛みを伴う体細胞の取り出しを強要されている。嫌がるのも聞かずに強引に言い張るものだから仕方がない。


 それでも「お前の身代わり、お前のクロ―ンを作らせてくれたら絶対に別れてやる!」という言葉を信じて、またクロ―ン作りに没頭している間だけは、双極性障害が治まり安泰な日々が送れるので仕方なく協力している。


(こんな異常な男、顔見るのもイヤ!早く樹里亜を連れて逃げ出したいけれどこんな躁うつ病、何をされるか分からない。もうしばらく我慢しよう)


 

 無機質な研究室で延々と繰り返される研究。

 体細胞から核だけを取り出して体細胞クロ―ン作りに余念がない達也

 核の中には遺伝子情報が詰まっているのだ。

 皮膚などの体細胞から弥生の核を取り出して、核を除去した若い女性従業員の未受精卵に移植。

 若い女性従業員達は、行方不明者や行き場のない身元不明の若者達。

 辛いお役目だが、背に腹は代えられない。

 今更ここを放り出されても行き場が無い。

 仕事の明けた日に達也は、狂ったようにクロ―ン作りにせいを出している達也。



 ◆▽◆

 2002年現在。


 研究報告「クローンには、ほぼ確実に異常が発生する」


 すでに複数の団体からヒト・クローン胚による妊娠が報告されているが、このほど、新たな個体を作るクローニングでは、ほぼ確実に異常が生じるという研究報告が発表された。


 こんな現状化、達也のクロ―ン作りは失敗の連続。


 2014年8月に出会ったクロ―ン【少女Ⅾ】樹里亜は樹がフランスで出会った少女。


 達也はフランスのアンドレ教祖に必死で頼み込んでいる。

(助かる望みが有るのならば、どんな事をしても助けたい!)そんな一途に、藁にもすがる思いで遥々日本からやって来た。


 シャンゼリゼ通りに有る、お洒落なカフェテラスでお茶をしている時に、樹が樹里亜を見掛けたあの日は、ちょうど達也と樹里亜が教祖と会う約束をした日だった。



 そして…その数週間後に達也は呼び出された。


 そこでアンドレ教祖に「最善を尽くしましたが、もう助かる見込みがありません」と言われて放心状態。


「あんなに良い子が可哀想に!」


 そんな落ち込んでいる達也に向かって事もあろうに、とんでもない一言が帰って来た。


「みすみす死にゆくのは忍びない、難病で苦しむ人々の救済こそが我々クロ―ン作りに着手する者の役割ではないか……?もう手の施しようのない死にゆく者達の臓器を、別の身体となって生き続けさせる事こそ我々の役目!」と延々と説得されている。


「なんてことを言うんですか?とんでもない!可愛い樹里亜の臓器を生きたまま抜き取るなどとんでもない!」


「今の医学ではどうしようもない事、諦めなさい。それより未来に目を向けなくてはいけません。難病で苦しむ人に樹里亜ちゃんの一部を移植する事によって、その人達は生き続ける事が出来ます。どうして、助からない未来に何の展望も無い者に、目を向けるのですか?未来を!未来を!」延々と話は続いた。


 そして最終手段、臓器提供で手に入る多額のお金の話になった。


「今まで慈しみの心で樹里亜ちゃんを、育ててくれた神からの恵です。」


 達也もお金持ちの息子と言えども、このクロ―ン製造に多額の資金を投入している。


「そんなもん受け取れるかい!」とは、言って見たものの、多額のお金に目が眩み、そのお金を手にした。


 失敗作と言えども正常に機能している臓器もあるのだ。


 そして残酷な事に、あのインチキ教祖アンドレによって臓器提供者にさせられ【少女Ⅾ】樹里亜は苦しみぬいて9歳の生涯を閉じた。



 そんな事とは梅雨知らず、樹はあの少女樹里亜を必死に探し回っている。


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