第29話 クロ―ン人間樹里亜⁂



 1997年からクロ―ン人間作りに着手して早十有余年の、2009年9月中旬。もう秋の声が聞こえる美しい季節の到来。


 夕焼け空に赤トンボが火花を散らしたようにキラキラ秋の空を染めている。

 そんな美しい茜色の夕暮れ時。

 人里離れた森の中にひっそりと建つ達也の別荘兼秘密基地。


 高い塀がそびえ立つ、ただの閑散とした一軒家にしか見えないこの郊外の森の中で、コッソリと秘密裏に、誰に知られる事も無く延々と長きにわたり研究が行われていた。


 むろん達也が手塩にかけて育て上げた大切な大切なクロ―ン人間、弥生のコピ-【少女A】樹里亜は、住み込みのお手伝いトキさんと達也しか接触した事がない。



 また、他の従業員達も弥生のコピ-【少女A】樹里亜の存在は知っているが、固く口留めをされている。


 実はここの従業員達は、そこら辺を徘徊していた行き場のない、訳アリ人間達ばかり。ここを放り出されたら行き場がない。


 やっと食べる事にも有り付けた輩ばかり。みすみす、こんな美味しい条件の場所から逃げ出す輩など誰一人としていない。


 それもその筈。借金地獄で乞食に身を落とした者や、行方不明の記憶障害者達などで下界ではぞんざいに扱われていた者達ばかり。


 また、働きたくても身元のはっきりしていない乞食や、記憶障害の行方不明者に仕事がある筈は無い。


 そんな時に「この別荘で働かないか?」と声を掛けられ現在に至っている。


 もしここを抜け出そうとしたり、秘密の研究を口外しようものなら睡眠薬を打たれて、牢獄のような部屋に閉じ込められ、食事も与えられずに餓死するしかない。



 以前にここからの脱出を試みた女性がいたが、強面男に連れ戻されて悲惨な最期を遂げていた。


 そんな人間の人並みに生きたい心理と恐怖心を植え付ける事で、従業員達を支配して延々と研究が進められて来た。



 現在【少女A】樹里亜は10歳だが、すっかり大人の様相の、美しい弥生その者の美しい女性。


 どう見ても20歳前後の若かりし頃の、バラの花のように美しかった弥生そのもの。


 達也がクロ―ン人間に着手し出した頃は【クロ―ン羊ドリ-】の早期老化が、重要課題となっていた。


 クロ―ン羊ドリ-は2003年に早すぎる死を迎えていた。


 のちに分かった事だが、進行性の肺疾患を発症したため、6歳と半年で安楽死させられた。まだその頃は通常の2倍の速さで老化する事例も多々あった。


【少女A】樹里亜もご多分に漏れず”命のロウソク”DNAの『テロメア・老化の回数券』テロメア維持機構の破綻による遺伝子疾患,ウェルナー症候群(早老症)に似た現象が起きて老化の速度が速まっていた。


 達也は何故?弥生との間に授かった愛娘を、このクロ―ン人間【少女A】樹里亜と同じ名前にしたのかと言うと、命の灯がいつ消えるとも知れないこの可哀想なクロ―ン人間【少女A】樹里亜を亡き者にしたく無い。樹里亜の生まれ変わりに違いないそう思う事で救われているのだった。


 こんな熱い思いから同じ名前の樹里亜にした。


 それでも決して長くは生きる事が出来ないであろう、この【少女A】樹里亜との残り少ない日々に全てを注いでいる。



 また、この【少女A】樹里亜も全力で達也の愛に応えてくれている。

 それはそうだろう。達也しか知らないのだから、達也だけが、この【少女A】樹里亜の全てだ。


 心は10歳の少女だが、身体はもう立派な大人の美しい女性。達也の肉欲にも何のためらいも無く応えて身体を開いてくれている。


(弥生の愛は一生手に入れる事が出来ないだろうが、弥生のコピ-樹里亜は全てを開いて全力で愛に応えてくれる)


 時を忘れ…美しい身体を隅から隅まで上から下まで舐め尽くし愛し合い。溺れ切っている。弥生では応えて貰えなかった色々な体位で樹里亜を抱いている。



 まだ女とは言えない…今まで出会った事の無い不思議な樹里亜を、うっとり眺めながら夜は更けて行く。


「あああ~!樹里亜はなんと美しい……あああ~幸せだ💛樹里亜~!愛している~!」


「私だって達也の事大好き~!」


(いつ消えるとも知れない命の灯を永遠に自分の身体に記憶させて身体の一部に~!イヤ!完全に樹里亜は俺に溶け込み一つになり同化した2人でひとつだ~!ああああああ~俺を心から愛してくれたのは樹里亜お前だけだ!おじいちゃんだっておばあちゃんだって陽介にばかり期待して、俺なんか目に入っていなかった!ただの家族の落ちこぼれ。それでも家族に喜んで貰おう!愛して貰いたい!俺を見て欲しい!と必死に頑張っているにも拘らず、母までが追い打ちを掛けて「陽介なんかに負けていてどうするの?恥ずかしい。陽介が病院の理事長になったらおしまいよ!何してるの~?」結局自分の面子と世間体だけ!酷い!何故……俺ばかりが皆の厄介者扱いされなくてはいけないんだ~?俺は……いくら血を吐くほど頑張っても……陽介のようにはなれないんだ!こんな俺を産んだのはお前らじゃないか……誰も産んでくれと頼んだ覚えはない!お前らが悪い。陽介が悪い。どうして分かってくれないんだ!何故俺に愛情の一欠けらも与えてくれないんだ~?その挙句……弥生まで奪いやがって!生まれた俺と弥生の子だって……実は…クウウ(´;ω;‘)ウゥゥ)

 

 達也は家族の厄介者でしかなかった自分を、真っ直ぐに愛してくれる死ぬほど愛した弥生の生まれ変わり、コピ-、樹里亜に身体も溶けてなくなりそうだ。精神に異常をきたした達也は最近とみに【少女A】樹里亜に溺れ切っている。


 それでも達也も何故?やっと弥生との愛の結晶が誕生した一番幸せな時期に、クロ―ン人間樹里亜と愛し合わなくてはいけないのか……実は…。


 弥生とは顔も合わせず、この別荘に入り浸り【少女A】樹里亜と昼に夜に身体を絡ませ愛欲に……。





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