第19話 達也はとんでもない事を?



 達也は弥生が出掛けるたびに「陽介とまた抱き合っているのでは?」と嫉妬で気が狂いそうだ。


 弥生にしてみれば懸命に達也のリハビリにも、付き添い支えているにも拘らず、時間を持て余している事を良い事に、朝から晩まで達也の行き過ぎた監視に辟易して、息が詰まりそうな毎日。


 また陽介もそんな事など知る由も無く、仕事が終わると我慢が出来ずに「会いたいほんの少しでも!」と電話が掛かって来る。


 陽介も可愛い子供遥斗まで授かって置きながら心理が分からない。弥生の気持ちも考えずに、弥生も達也があのような状態で抜け出せるわけが無い。諦めて、達也との生活を築こうと必死なのに……それなのに……何故?


 それが……人間とは不思議なもので、引き離されれば引き離されるほど余計に、愛は燃え上がるもの……。

 いくら頭の良い優秀な貴理子かもしれないが、それでも……美しさは弥生とは月とスッポン。弥生しか見えない陽介。



 監視されている事が分かっている弥生は、達也が眠った時間を見計らって陽介に電話を掛けている。


 するとその時…達也がこっそり盗み聞きをしているではないか、うつらうつらと眠っていたが、なにせ弥生の事となればまた別だ。


 眠いにも拘らずピクリと目を覚まして聞き耳を立てている。それだけ弥生を愛しているという事なのだが……。


 達也は弥生と陽介が会う約束をしているのを聞き、怒り心頭(これだけ言っているのに、まだ懲りずに会うなど到底許せない!)



 自分の力ではどうにもならないと思い、とうとう達也は貴理子も巻き込もうと貴理子に電話をした。

「陽介と弥生は○月○日○時〷〷ホテルのラウンジで、会う約束をしていますよ!」


 怒り心頭の貴理子は、早速2人が会う日に、そのホテルに向かった。


 すると、やはり2人はやっと会えた高揚感からか、今まで一度たりとも見た事のない幸せそうな陽介の姿を目の当たりに、只々涙がとめどなく溢れ出す貴理子だった。


 更には、2人は食事を終えるとホテルのスイ―トル-ムに消えた。




(どうして~?グウウウ~😭子供まで授かったのに、その子供より弥生が大切なの~?許せない!)


 貴理子は今直ぐにでも飛んで行って陽介に詰め寄りたい。いや今すぐにでもあの美しい、仮面を被った裏の本性、只々男を狂わせる魔物、淫乱女、あの女の喉ぼとけをぐっさし葬り去りたい。激しい衝動に駆られるのだった。



 ◆▽◆

 夜遅く陽介は帰宅した。


 一方の貴理子はもう何時間こんな状態で泣きじゃくっていたのか?


 夜の11時だと言うのに洗濯物は干しっぱなし、坊や遥斗の世話もままならない状態で、只々延々と泣き続けていた。


「ワァワァ~~ン😭こんなに遅くまで弥生さんと会っていたの?何故遥斗もいるのにどうして~?ワァ~~~ン😭」


「チッ違うよ~。誤解だよ~。仕事。仕事だよ」


「何を言っているの~?私は見たのよ。あなたと弥生さんがホテルに消えたのを、ワァワァ~~ン😭お願い……行かないで。弥生さんの事は忘れて~!ワァ~~~ン😭」


「…………」


 一方その夜、弥生も達也に詰め寄られて大変な目に合っている。


「お前と言う女は、俺と言う者が有りながらどうして陽介と、そんなふしだらな事をするんだよ~?この阿婆擦れ女!」


 そして……その夜も散々な罵倒と暴力の繰り返し。


(こんな達也と今すぐにでも別れたい。ちゃんと回復して仕事に復帰できるようになったら絶対別れよう!)そう強く心に誓うのだった。


 そんな矢先に待望の妊娠、そして樹里亜が誕生した。



 ◆▽◆

 樹里亜が誕生したのは1998年。


 夫婦仲は最悪だったが、それでも……姑咲子の要望、それは孫の誕生、その強い圧力に押され……子供でも授かれば、また違った世界が見えるのでは……。


 暇を持て余していた達也。

 丁度1996年7月クロ―ン羊ドリーが誕生。

 クロ―ンとは、いわば生命体のコピ-。


 そんな時に生命体のコピーが現実のものとなった現在、達也は有る事にたどり着く。羊でクロ―ンが再生できるのであれば、人間だって絶対出来る筈。


(愛のないこんな砂漠の中で、いつまでも傷つけ合い無駄に時を重ねる等以ての外。何も現実の弥生だけが弥生じゃない、新たな弥生を生み出せば良いじゃないか、

弥生と別れてやる代わりに、弥生のクローンを作らせる条件を突き付けてやろう。

現実の弥生は俺を愛してくれなかったが、クローンは違った環境で育てられれば、性格や態度が全く異なる別人格になるらしい。クロ―ン人間の弥生ならひょっとしたら俺を愛してくれるかもしれない。そうだ!子供もいない俺にとって弥生がすべて!他の女など考えられない絶対に!それでもそんな簡単にはいかない。誕生しなかったら絶対に別れない。誰があんな陽介なんかに渡してたまるもんか!クロ―ンが生まれれば弥生は自由にしてやる。だがそれまで今までの何十倍も大切にしてやろう。ひょっとしたら弥生の気持ちが和らぐかもしれない。そうすれば弥生がまた戻って来てくれるかもしれない)日本ではクロ―ン人間は禁止されている。


 とんでもない犯罪。弥生がそう簡単に首を縦に振る筈がない。


 それでもどうしても弥生の細胞から、新たな生命体を誕生させようと奮闘する達也。


『クローン人間の作り方は、生殖細胞(卵子や精子)以外の普通の細胞(体細胞)の核を取り出し、核を取り除いた未受精卵に移植して培養し、母体の子宮に移植→妊娠→出産。体細胞の核には遺伝情報が詰まっていて、生まれた人は、使った体細胞と同じ遺伝情報を持つことになるが、外見は瓜二つになるが、だからといって同じ人(完全なコピー)にはならない』


 果たしてこの異常なまでの愛の化身は、本当に誕生するのか?


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