第13話 樹里亜はパリに……



 樹と樹里亜は近くの公園に辿り着いた。夕闇に染まるエッフェル塔を眺めながら2人は話し始めた。


「あの~?僕は桐谷樹です。もう4年も前にあなたを見た事があるのです。多分あなたは中学生くらいだったと思います。それも立派なお城のような邸宅の庭先で?踊るようにゆら~ゆら~…あれは何をしていたのですか?」


「そんな事あった~?覚えてない!」


「2010年8月の中旬くらいに道に迷って、見た事も無い豪邸の前に出たんだよ!」


「あああ~?おじいちゃんの家かもしれない?でも私は今9歳なの!だから~?」


「エエエエエエ————ッ!って事は4年前は5歳って事?そんなバカな~?」




(なるほど~?今9歳なら、こんなしゃべり方で普通だよな。だけど……見た目はどう見ても、高校生から大学生って所だけど?って事は2005年生まれ?}


「パパが言うには私は、2倍の速さで年を取るんだって?そう言ってた」


「一体どういう事?お父さんの名前は山城達也でしょう?」


 何故知ったのかと言いうと、塀を越えて秘密基地のような内部に入る時に、山城達也と書いた薄汚れた表札が外に掛かっていたからなのだ。


「違うよ!理事長の山城陽介だよ。なんか~?気持ち悪い赤ちゃんが死んだりしてる。私もこのフランスの宗教団体の教祖に見てもらう為に、遥々日本からやって来たの」


 ▲▽▲▽▲


 1988年6月涙の雨に打たれて色を変える紫陽花、ジュンブライドの花嫁となった弥生の、心の内を物語っているかのように・・・?


 そんな中、山城達也30歳と塚本弥生24歳は晴れて夫婦となった。



 遡る事2年前のあの夜、達也と弥生のベッドで抱き合っている写真を見せられた陽介は(あれだけ一途に思っていた弥生が、事もあろうに、俺を窮地に追い込むばかりか、はっきりは分からないが俺を殺そうとまでした……そんな義兄達也と出来ていたなんて、許せない!一番許せない義兄達也とそんな事をするなんて、絶対許せない!)荒れ放題の自暴自棄になって行った。


 そんな時に、医学部仲間との飲み会が有り、あの写真の姿を忘れる為に毎晩のように誰彼無しに呼び出し、酒浸りになって行った陽介。


 そんな時に良からぬ噂を耳にした、いかにも優しそうな皆の肝っ玉母さん的存在の、医学部の同級生富田貴理子が親身に相談に乗ってくれた。


「寄りによって陽介とも付き合っていながら、陽介の義兄ともそんな関係を持つなんて、とんでもないアバズレね!もうそんな女の事は忘れなさい」


「まだ本当の所は分からないけどね?」


「まだ何を言っているの~?絶対ダメ!そんな女、陽介が不幸になるだけ!」そして陽介の傍に寄り、そっとに抱き付いた。


「私が居るじゃない……私じゃ駄目?」


「おっ俺は今でも弥生が……忘れられない!」


「いっ嫌よ!私はズ————ッと陽介が好きだったの。私だけの陽介になって。お願い!今日は泊まって行って!」


 破れかぶれで酒に酔いつぶれていた陽介は、うっすらとしか記憶の残らない酩酊状態のまま貴理子の強引さに負け、うっかり部屋に泊ってしまった。


 

 その数日後に弥生は、陽介が勤務し始めた山城病院を訪れた。

 あの日は喧嘩別れをした2人だが?


 よくよく話を聞くと、達也の部屋を佳代子ちゃんと一緒に訪れた日に、佳代ちゃんが急用で帰った日、達也の部屋で数時間眠っていた事を思い出した。


そして…眠りから覚めて時計を見てびっくりした事を。


(私が眠っている時に?あの意味深な写真は取られたって事なのか?)


 それから……佳代ちゃんは本当に急用が有ったのか?それは達也が「弥生ちゃんとお母さんの病気の事で話が有るから、今日は悪いけど帰ってね!」と促したので帰ったそうなのだ。


全て達也が仕組んだ罠だったのか(これでは疑惑が残ったままの別れになってしまう)意を決して2人は義兄達也に食い下がった。


 すると達也が、とんでもない事を暴露した。

「弥生さん陽介には富田貴理子という彼女が居ます。毎日ポケベルが鳴り続けています。もう肉体関係もあるらしいですよ。陽介はプレイボーイです。痛い目に合わない内に諦めなさい!」


「酷い!陽介それ本当?」


「チッ違うんだ————!そっそれは?」


「ワァ~~~😭」


 そして数日後に弥生は貴理子に会い、話し合いが持たれた。

 貴理子は弥生の余りの美しさに、到底勝ち目はないと悟り、とんでもない事を思い付く。


 貴理子はともかく弥生の心を打ちのめしたかった。その一心でその場限りの噓を付いた。

「私陽介との赤ちゃんが出来たらしいの?」ともかく呆れ果てて、逃げてくれさえすればいい。そう思い口走った。


 案の定弥生の傷は想像以上に深く、疲れ果てて冷静な判断が出来なくなった。


 弥生は余りにも陽介に対しての愛が深すぎて、可愛さ余って憎さ百倍。破れかぶれになった弥生は、この辛さから一刻も早く逃げ出したかった。


 そして…立って居るのもままならない状態の弥生の、最後の砦は達也だった。

 偽善者で、本当の所は性根の腐った男だと薄々感じてはいたが、それでも……いつも窮地を救ってくれた達也に、すがるしかない今の弥生が居た。


(それだけ自分を求めてくれるのならば?)陽介に対する復讐心も有り、陽介の一番嫌がる達也と結婚した。


 この後更に……複雑に絡み合う愛憎劇が起き……?









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