第11話 弥生と陽介



 一時は死の淵を彷徨った陽介だが、無事助かり弥生も一安心。だが…陽介は達也に対してすっかり疑心暗鬼になっている。


「兄貴一緒に酒飲んだ日、俺に何飲ませた?」


「あああ?違う!違う!疲れに加え飲酒で失神しただけだよ~!お前夜遅くなるまで勉強しているだろう?それに学校での慣れない解剖実習など疲れが原因だよ」


 


 色んな事があったが、慌ただしく時は過ぎ、弥生は苦労の甲斐もあり見事MARTH(マ-チ)大学のA大学に合格。


 マーチ大学はいずれも東京にキャンパスがあり、歴史が長く、ブランド力の高い私立総合大学として、全国的に知名度の高い有名私立大学。


 達也に疑心暗鬼な陽介だったが?忙しい日々の中すっかり忘れ去られていった。

相変わらず達也と陽介、弥生3人の付き合いは続いている。変わった事と言えばそれに1名、佳代子が加わった事ぐらいだ。


 相変わらず時間が空けば4人でドライブに出掛けたり、映画を観に行ったり。



 更に2年が過ぎ陽介は晴れて研修医。


 あれだけ頻繫に会えていた4人組だが、研修医ともなれば病院に住み込みと言われるくらいハードで、陽介はみんなと会う事もままならなくなって来ている。


 それを良い事に、ある日弥生を自宅に呼び寄せ、睡眠薬を飲ませ眠らせて眠っている事を良い事に、ベッドで達也が重なり、いかにもセックスをしているかのような、姿を写真に収めた。


 達也もいくら何でもそれ以上の事はしていない。


 感情の欠片も無い只の人形状態の弥生を抱くほど達也も(そんな惨めな~!)それほど落ちぶれてはいない。大切な宝物を絶対にこんな形で傷付けたくはない。


 じゃ~何故こんな事をしたのか?


 それは言わずと知れた(陽介に見せて諦めさせる!)既成事実を作る為に、あえてこんな卑怯な真似をした。


 達也自身も、ここまでしなくてはならない程追い込まれている。


(4人で出掛けても弥生は俺など眼中にない。いつも陽介と弥生の見つめ合う姿を見せ付けられて俺はただの蚊帳の外、佳代ちゃんも陽介に気がありそうだし……俺は弥生をどんな事をしても自分のものにしたい。どんな卑劣な手を使っても……丁度研修医で会えない、この機会に弥生との既成事実を作ってしまえば、さすがの陽介も諦めるだろう}


 更に2年が過ぎ、陽介は初期研修期間を終えて後期研修で山城産婦人科、内科でのアルバイトを始めている。医師としての第一歩だ。


「兄貴又皆で会おうよ!」


「いいよ!あああ~?良いもの見せてやるよ!」


 そして……あの時写した、ベッドで達也と弥生が重なり合っている写真を、陽介に渡した。


 すると、陽介の顔がみるみる真っ青になり、2階の自室に閉じ籠ってしまった。


 一方の弥生は陽介が病院で働き出したと聞き付け、喜び勇んで山城病院に向かった。そして、陽介を呼び出しやっと会えた嬉しさに陽介に飛び付いた。


「ヤメテクレ!」なんと!邪険に振り払う陽介。あの優しかった陽介がどうした事だろう?


「陽介どうしたの~?やっと会えたのに?」


「お前の顔など見たくない!」


「一体どうしたと言うの~?」


「俺が知らないとでも思っているのか~?弥生が達也と深い関係だって事、酷い女だな~!一人の男で満足出来ずに俺まで騙そうと言うのか?」


「何を言っているの~?全く分からない?酷い!ワァ~~~~ン😭」


「あああ?ゴメン、言い過ぎた。だけど?俺は写真を見た。兄貴と弥生がベッドで抱き合っている写真を」


「エエエエ————!全く分からない……絶対そんな事してないから!」


「アアアア……やっぱり~?兄貴は酷い奴なんだよ。俺が死にかけたんだって兄貴のせいに決まってる!」


「陽介……それ酷すぎ!達也さんがどれだけあなたの為に尽力してくれたか、それをそんな言い方するなんて最低」


「何を言っているんだ!俺は兄貴に散々酷い目に合ってきた。兄貴の事良く知っているから。弥生だって知っているじゃないか~。俺が散々いじめられていた事、さてはやっぱり2人は出来てるって事?」


「そんな事絶対に無い!それからあんなに優しいお義兄さんを、そこまで言うなんて酷~い!」


 弥生はあんなに親身になってくれるお義兄さんを、悪く言う陽介が許せない。

 そして2人は距離を置いた。



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