第9話  樹里亜を引いたワンボックスカー



 忘れもしない6月中旬のどしゃ降りの雨の中、樹里亜を引いたワンボックスカーの運転手は、その場から物凄い勢いで逃げたらしいが?間も無く海から水死体で発見された。


 そのワンボックスカーはレンタカーだったのだが、中年の男が家族旅行の為に借りて行ったそうだが?どうも怪しい架空人物だった事が判明。



 取り調べで分った事だが?この飯田吾郎は漁師なのだが?ギャンブル依存症で借金地獄に陥り、あちこち金策に駆け回るも(どうにもならない!)取り立てに苦しみ自暴自棄になっていた所「金になる仕事がある!借金は全額チャラにするから」と言われてその話に飛び付いた。


 それが、もう直ぐ9歳になる小学3年生の山城産婦人科のお嬢様、山城樹里亜ちゃんの殺害依頼だった。


 吾郎は取り立てに追われ、質の悪いヤクザまがいの男達に半殺し状態にあっている。


(いつ殺されるか分からない身の上、まだ生き残れる可能性があるなら何でもしてやる!)


 そして…忘れもしない2007年6月16日の、どしゃ降りの雨の中樹里亜ちゃんは、この事故で昏睡状態に陥ってしまった。


 一体誰が何の為に樹里亜ちゃんを殺そうとしたのか?


 殺害しようとした張本人飯田吾郎は一体誰に依頼されたのか?折角の生き証人の死で振り出しに戻ってしまった捜査。


 妻の飯田薫を追求するも、もう1年以上も前から別居中だったとの事。捜査は難航を極めている。


 

 ◆▽◆

 被害者の両親達也と弥生にも執拗な取り調べが続いている。

 それは、捜査の常識『まず身内を疑え!』



 そして新たに分かって来た事だが、この山城産婦人科の院長山城達也と理事長山城陽介は、犬猿の仲である事が分かって来た。


 実はこの山城産婦人科は隣の棟に内科・小児科も併設している病院。


 長男の達也は産婦人科の院長。


 陽介は優秀である事から長男達也を差し置いて、祖父哲也の強い要望と遺言で理事長と内科・小児科院長兼務をしている。


 若輩ながら実験を握っているのは実質上陽介なのだ。


 達也にしてみれば山城家の長男にしてこの家の直系。


 本来ならば理事長になるのが筋なのだが、祖父の強い要望で仕方なく断念していた。プライドの高い達也は今尚、腸が煮えくり返る思い。


 争いの元凶を作った祖父も、行く行くは骨肉の争いが勃発する事は火を見るよりも明らか。それなのに何故あえて陽介を理事長にしたのか?



 それは能力的には勿論の事だが、総合的に考えて達也では行く行くとんでもない事態が起こるに違いないと考え抜いた挙句の決断だった。


 それと弥生の奪い合いで、若い頃から骨肉の争いを繰り広げていた義兄弟。


 🔷🟠🔷


 この山城総合病院内で 最近妙な噂で持ち切りだ。


(樹里亜ちゃんは、兄達也の子供ではなく義弟陽介の子供ではないのか?)と言う噂が、まことしやかに囁かれていた矢先の事件に、病院内は一時騒然となった。


 

 自分の子供と信じて疑わなかった愛する娘樹里亜が、憎き陽介の子供と確信して樹里亜を殺害したのか?


 

 

 だが一方で…陽介にも捜査の手が及んでいる。


 それはどういう事かと言うと、陽介にしてみれば自分が一時は死ぬほど愛した弥生と、達也の子供など可愛くない。ましてや樹里亜ちゃんが死んでくれさえすれば、達也と弥生を繋ぐ絆が無くなる。そして…元の鞘に収まる事を望んでの強行?


 


 そして…達也の母咲子にも嫌疑が掛かっている。

 

 その理由は、孫だと思って疑いもしなかった孫の樹里亜が、あの憎き陽介の子供らしいと言う噂を聞いて、可愛さ余って憎さ100倍(そう言えば達也のようなガッシリタイプとは打って変わってスラリとした、言われれば陽介の方に似ているような?)更には、直系の達也を脇に追いやった陽介が憎くて憎くて、その陽介の子供など目障り意外の何物でもないのだ。それなので……?まだ誰の子か分からないが?殺害したという事も十分に考えられる?


 

 

 また陽介の実母美智代にも嫌疑が掛かっている。


 実は美智代は竜二と無理やり引き裂かれた後、父哲也の紹介で勤務医と結婚したのだが、夫は大腸がんで10年前に他界。その為、息子陽介と親子水入らずの生活を送っている。

 実は…美智代は陽介から色々聞いている。子供の頃から咲子と達也に虐められどうしだったとの事、それを証拠に竹刀で叩いた跡が今でもくっきり残っている。


 また、陽介の子供と分かった訳でもないのに、徹底的に陽介を苦しめるあの咲子と達也が憎くて仕方がない。特に達也には酷い暴力を受けていた陽介。憎き達也の一番大切な宝物樹里亜を亡き者に!



 犯人は一体誰なのか?

 父の達也か?

 達也の母咲子か?

 陽介か?

 陽介の母美智代か?

 又は新たに真犯人が?


 益々混迷の一途を?




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