第8話  交通事故の謎・・・?




 樹里亜が交通事故に遭う一週間ほど前に遡る。


 2007年6月初旬の山城産婦人科の院長室での一コマ。


 昼食後程なくしての事、本来ならば一番太陽の光がまばゆい時間帯にも拘らず、どんよりと薄暗い今にも時期外れの夕立が来そうな、そんなこれからを暗示したかのような空模様の中、何か神妙な面持ちの達也と陽介の姿がそこに有る。



「お義兄さん俺から無理矢理弥生(やよい)を奪っておきながら、弥生に酷い暴力を振るっているらしいじゃないか?何故そんな事をするんだよ?」


「お前に何が分かる?俺のものなんでも奪いやがって————!許せない!まだ弥生と姦通しているのか?色男さんよ。なんでも弥生と筒抜けだしな~!許さん!許さん!」


「何をバカな事を……」


「俺は樹里亜の秘密を………???」


 この達也と義弟陽介の過去には何が有ったのか?



 ▽▲▽▲▽▲


 実は樹里亜の母弥生には高校生の頃から付き合っている、国立大学医学部に通う優秀な彼氏山城陽介がいたのだが?実はこの陽介は、夫達也の義弟なのだ。


 そこには複雑な過去の出来事が覆いかぶさって来る。

 あんなに愛し合っていた筈の2人、母弥生と陽介に……一体何が有ったと言うのか?


 


 夫達也の叔母美智代には、大学時代から付き合っていた彼氏村西竜二がいたのだが、両親の猛反対にあい結婚出来なかった。だが?2人の気持ちは強く勘当覚悟で同棲を始めた。


 実は、竜二の実家は代々続く葬儀屋。長男の竜二は跡を継ぐべく修行に励んでいたが、叔母美智代の両親の猛反対に遭い、切羽詰まって2人はとうとうアパ-トで同棲を始めた。


 どうしても一緒になりたかった2人は、子供でも授かったら流石に両親も許してくれると思い陽介を身籠ったのだった。だが…美智代の両親はカンカンに怒り2人の中を無理矢理引き裂いた。


 それでも…何故そこまでするのか疑問が残る?

 

 実は…竜二の叔父が有ろう事か、神戸有数の指定暴力団の若頭だった。


 美智代はそんな事とは梅雨知らず、優しくてイケメンな竜二に夢中になった。


 医者の娘が指定暴力団の家族と関わりを持つなどとんでもない事、後々どんな事件に巻き込まれるやも知れない。美智代と生まれたばかりの赤ちゃん陽介を、強引に連れ帰ったのだ。そして…達也の弟として養子縁組した。


 


 何故そのような事をしたかというと、まだ若い美智代の将来を案じての苦肉の策だった。


 1960年代前半のあの時代の事。未婚の母では大きなハンデイとなり、まともな結婚も出来なかった時代。その為に祖父哲也の鶴の一声で、兄勇夫婦の実子として育てられる事になった。


 兄勇は可愛い甥っ子の事、快諾したのだが、兄嫁の咲子は渋々承諾した。いくら甥っ子と言えども、人の子など可愛い筈がない。


 こんな経緯で陽介は達也の義弟として育てられる事になった。



 🟩🟠🔷

 

 *陽介と弥生の出会い

 あれは確か……弥生がまだ高校2年に進級したばかりの、4月中旬の丁度桜が満開に咲き誇る頃に、母が子宮癌をわずらい山城産婦人科に入院した時の事だ。


 2人姉妹の妹弥生は高校生と言えどもまだまだ甘えん坊さん、毎日、毎日、朝に夕に病院に入り浸り。


 ある日の夕方、薄暗い事もあり広い病院なので、間違って廊下伝いに山城家の豪邸の庭に出てしまった。


 すると……その時に誰かの怒鳴り声が聞こえて来た。


 そ~っと近づくと?義兄の達也が今まさに弟陽介に向かって、すごい剣幕でまくし立てている最中だった。


 ガッシリとした筋肉隆々の若者達也が、スラリとした高身長のどこか影のある儚げな、まるで中世の王子様のような気品に満ちた、端正な美しい青年陽介に向かって怒鳴り散らしているではないか。


 良く聞き耳を立てて聞いていると「義弟のくせに、お前なんか本当のこの家の子供じゃ無い!チョットぐらい成績優秀だからって出しゃばりやがって!」


 するとその時、縁側にあった竹刀を取り出し思いっきり叩き付け出した。



 余りの酷い現状に、止めに入ったのが2人との最初の出会いだった。


「ああっあの~?どうしたのですか~?」


「アアアア!いえいえ大した事ではありません。ただの兄弟のじゃれあいですよ~?」


「そっそうですか~?それならいいんですが?」


 弥生は余りにも美しい陽介に心奪われたのと同時に、あれは一体何だったのか?不安と思慕が入交り頭から離れなくなった。


 それからというもの、こっそり病院を抜け出しては邸宅の庭に隠れて様子を伺っていると、やはり祖父母や両親のいない時間帯を見計らって、罵倒や暴力が繰り返されている。


「ヤクザモンが————!フンお前なんか出て行け————!」


(全くとんでもない事を・・・許せない!)



 余りにも酷い現状に、可哀想に思った弥生は義兄の達也が居ないのを見計らって、事情を聞こうと勇気を振り絞り、とうとう陽介に声を掛けた。そして事情が分かって来た。



 実は陽介の実父竜二の叔父がヤクザという理由で、母美智代との結婚を反対されて兄勇で、この病院の院長の養子に迎えられた事。


 更には義兄達也が医学部を4浪しているにも拘らず陽介は現役医大生、それも有名国立大学医学部を現役合格していた。それを疎んだ達也のやっかみが原因だと分った。



 それでも…何故弥生はあんなに愛した陽介ではなく……義兄の妻になったのか?


 実は…そこには驚愕の真実が隠されていた。






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