第34話 神たる技の証明(1)

「確かに、誰もそのワインで殺しの咎人が命を奪われるところを見ていない」

「それを見ずして魔薬が成功していたとは誰にも分らない、か」


「では何故、成功か失敗かも分からぬ代物を飲ませたりしたのだ。失敗作だったというならば、飲ませたところで何の証明にもならぬではないか」


「そんなことはございません。ケリドウェンはそれを飲んでも死ななかった。この事実は大変重要です。魔薬が成功していたという条件の元で、女神に人食いの罪がないことを示すのですから」


「つまり、薬の成功を証明できれば、ケリドウェンの身の潔白が確定する……ということか」

「逆に薬が出来損ないだったとするならば、ケリドウェンよ、その『神たる技』に瑕疵が付くことになるぞ」

「神に相応しい心を持たず、相応しい技も持たぬとなれば、新しい大釜がいくら娘のクレイルィの遺作だとしても、継承はさせられまい」


「神たる技の有無をハッキリさせるためには、薬が成功していたのか、はたまた失敗だったのか――それが明らかにされなければ、この先の議論は行き詰まりだ」


 ケリドウェンは口惜しそうに深紅の下の唇を噛み、険しい表情で十一の神の議論を聞いた。どうしても愛した娘の残した釜が欲しかった。神堕ちになるわけにはいかなかった。薬の成功が証明できれば、神たる技が認められ、身の潔白が確定し、最後に神として相応しい心さえ示すことができれば――。


 贅沢に聞こえるだろうか。けれど、多くを望んでいるつもりはない。


 ただ愛する夫と娘の残した大釜だけ。


 その二つを失わずにいられれば、それでいい。

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