第27話 有罪の証明(1)
『ケリドウェンの娘よ』
「はい」
ダグダ神の呼び掛けに娘が答え、ケリドウェンは惜しむように腕を解いて娘から離れた。
十一の神々はダグダ神の
『ケリドウェンの娘よ―――この場は其方に委ねよう。成すべきことを成すように』
その言葉を聴き、フードから覗く娘の顎がクと上がる。周りの者は思いも寄らない決定に慄き騒然とした。しかし娘には、そのたった一言で、ダグダ神が全てを見、全てを知っているのだと理解した。
成すべきことを成す。
それは、娘がここに辿り着くまで何度も心に誓ってきた言葉だったからだ。ダグダ神は、娘が何者であるのかも、此処へ何をしに来たのかも知っているに違いない。
「はい。謹んで」
娘は答え、ス、とアヴァグドゥの方を向く。
アヴァグドゥはまるで死神を見たかのように青褪め、頬を引き吊らせていた。
「何を、そんなに青い顔をしているのですか?」
娘に言葉を投げ掛けられ、アヴァグドゥはやっと血の気を取り戻した。自分は今ここでこの得体の知れない娘と戦うことになる――。そんな予感がして武者震いをしたのだ。
憎々し気に声を絞り出すように言う。
「貴様は……何者だ……。クレイルィでは……あるまい……」
「何故そのように思うのですか? 貴方が胸を突き刺し、青霊湖に沈めたからですか?」
「「「「「なんだって!?」」」」
十一の神々はこの娘がクレイルィであるか否かはもちろん気になったが、それを忘れる程、後半の発言があまりにも衝撃的であった。
「そんなことあるわけがなかろう。何をデタラメなことを」
「貴方は新しい大釜を継承することになったクレイルィを殺し、自らが大釜を司る神になろうとした。そして、モルダに叡智の魔薬の残りをクレイルィのワインに仕込むよう誘導し、殺しの罪を被せた。
しかし、アヴァグドゥ、貴方は知っていた。魔薬の残りがクレイルィには無毒であることを。それをモルダに伝えなかったのは、モルダに自分がやったと思わせ、クレイルィ殺しの罪で牢屋に放り込むため」
「ふん、くだらん。モルダはワインに毒を盛った後、すぐにワイングラスが割れた音を聞いている。クレイルィはワインを飲んで息絶えたのだ」
「魔物や精霊は死ねば光と共に霧散してしまう。部屋で命を落としたとは限りません」
「それなら青霊湖で殺されたとも限らないではないか」
「それはこういうことなのです。ワインに混ぜ物をすれば味がおかしいことなどすぐに気付きます。おかしな味に驚いて、クレイルィはワイングラスを落としてしまった。ワイングラスは床に落ちて割れ、その音をモルダが聞いた。
クレイルィの部屋のカーペットには擦れたワインの染みがありました。そしてカーペットに刷り込まれるようにして彼女の金色の髪が数本落ちていた。これは彼女がカーペットに染みたワインを拭き取ろうと、直前まで髪を乾かすのに使っていたタオルで、ワインのシミをこすった結果です。クレイルィはワインを飲んだ後も生きていたのです。
そして、クレイルィは服にもワインが染みていることに気付き、慌てて汚れを落とそうと、窓から外庭に出て青霊湖に走った。そこに貴方が現れ、腰の短剣でクレイルィの胸を突き刺し、青霊湖に沈めた」
「すべて憶測だ。何か証拠でもあるのか?」
「ええ、あります」
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