第20話

「おーい!こっちに生1つ!」

「ちょっと!注文まだーー?!」

「こっちも注文したいんだけどー!!」


「はい、ただ今!」

「少々お待ちください」


環状鉄道駅の春木原、明正通り沿いの飲み屋街は金曜の夕方は激戦区だ


かしこまった店よりこういった雑音や生活音が多い店を好む土方は黒のバックプリントのハイブランドスエットに身を包み1人小さめの卓で燻製ウズラとレバーペーストを肴にキツめ酎ハイを流し込んでいた

酒が空になり注文をしようと店員に声をかけた

「すみません」

「はい、お代わりでよろしいですか?」

忙しい時間だ、他の卓を片付けながら土方の注文に耳を傾け応対

「…あぁ、はい、それで」

「少々お待ちくださいませ〜!」

本当は赤ワインを炭酸で割る赤玉パンチに変更したかったのだが店員の心情も鑑みそもそも酒ならなんでもいいかと思い直して諦めた


「近藤さん…俺達に隠れて何やってるんだ…」

土方も色々腑に落ちない事が多いらしく珍しく不機嫌

芹沢事件以降、近藤は評議会の呼び出しやら報告、根回し等の政治的仕事が増え単独行動が増えた。それに増してここ最近何故か隊員達に何も告げずにふらっと屯所を出ていく事もある

藤堂、原田はまだ言うことを聞くが伊東と伊東が連れてきた連中はもう近藤に対抗心をむき出しだ

それを放置している近藤もわからない

「前みたく俺にも話してくれよ…」

ツマミの最後の燻製ウズラを口に入れ新しく運ばれたキツめの酎ハイを一気に飲み干し追加を頼もうとした時


「すみませんお客さん、混みあってきたのでご相席よろしいでしょうか?」


1人で飲みたい気分だし知らん相手と対面して飲む気になんてさらさらなれない

「いや、迷惑なら俺は帰るよ、勘定してくれ」

悪いとは分かっていたが言わずにいれず店員に皮肉混じりの返事をしたら


「飲む相手がアタシじゃ不満かい?」

そう言ったのは原田だった

「今日は1人で飲みてぇんだ、ほっとけ。つりはいらんから」

土方が財布から金を出し置いて立ち上がろとした時

原田が土方の両肩を掴み席に戻し対面に座り

「この人アタシの連れだから。土方さん空じゃないか、じゃあ生2つ、それと…浅漬けピクルスに特製ポテサラと枝豆お願いね」

と原田のペースで事が運んだ

「1杯飲んだら俺は帰る」

「そう冷たい事言わないでよ、たまにはいいじゃないか」

「本当に偶然か?」

「偶然だよ、アタシもここが好きなんだ、安くて美味いしまだハッピーアワーだしね」

そう言いながらテーブル下の引き出しから割り箸を取り出し土方の空いてる皿を引き寄せて箸を置いた

「おしぼりどうぞ、お飲み物は直ぐにお持ちします」

店員がおしぼりの封を切って原田に向けそれを受け取った原田は手を拭いた

「こうやって2人で飲むのは始めてだね、あんた休みは1人でバイクか酒飲むだけだし」

「休みの日ぐらいお前らのお守りは勘弁して欲しいわ」

「お守りって、アタシは藤堂や沖田みたくアンタに迷惑かけてないよ?」

「自覚がねぇって幸せなこったな」

土方は自前のタバコケースから1本取り出し火をつけた


「お待たせしました〜生2つと浅漬け、ポテサラに枝豆です!」


「せっかくだ、乾杯でもしようよ」

そういい原田がグラスを土方に向けた

場が悪そうに土方は目を合わせずにグラスを合わせた

「お疲れさん」

そう言うと原田は一気に飲み干した

「ぷはぁ〜うんめぇ!店員さーん、生もう1つね!」

「おい、これ飲んだら俺は帰るって言ったろう?」

「硬いこと言わないでさぁ?付き合ってよ副長さん」

「外でその呼び方はやめろ!」

「なぁにぃーー?副長さん?!」

原田がわざとらしく大声で応え

「付き合えばいいんだろ?!分かったらやめてくれ!」

「話しが早くて助かるよ〜」

店員が新しいビールを原田に持ってきた

「ありがとう、土方さんもドンドン飲もうよ」

「ご追加されますか?」

店員が尋ねてきた

「じゃあ…ハイボールで」

「はーい少々お待ちくださいね」

店員が離れた後、少し間を置き

「俺になんか話でもあんのか?」

「別に…本当にたまたまココきたら土方さんがいたんだよ、近藤さんやアンタ達がどう思うかわからないけどさ?アタシは上手くやっていきたいと思ってるわけよ、まぁ藤堂と伊東はわからないけどね」

原田もタバコに火をつけた

「お前ずいぶんとオッサン臭いタバコ吸ってんだな」

原田のタバコは青い色で白い文字が入ってる昔からあるタバコの銘柄だ

「あぁこれか。これならどこでも売ってるだろ?別件任務とかで地方行くとない銘柄もあるからさ?どこでも売ってるのが好きなんだ」

煙を吐き終わり原田は酒を飲む


「お待たせしました〜」

キンキンに冷えたを通り越してうっすら氷が張ってるグラスにハイボールが注がれて物を土方は口に含みなんとも言えない酒飲みの顔をした

「この前は空振りだったね…」

「こんな時に仕事の話しか?」

「…最近多いのは気になってたんだ、踏み込んでも下っ端ばかり…正直手応えがない、考えたくは無いけどさ…」

「それ以上言うな!」

バァン!

土方が強くグラスを卓に置いた

「怒る事ないだろう?!」

「すまない、ただ迂闊にそういう事を口にするもんじゃない、万が一お前が思ってる事が現実にあるとしてそれが俺だったどうするんだ?」

グラスのハイボールを見つめながら土方はそう言った

「フーー、あんたはそんな男じゃないよ」

「お前に俺の何がわかんだ?」

「アタシの経歴はアンタ知ってるの?」

「いや、俺は知らん、近藤さんだけ知っていればいい。そもそも俺は人の過去に興味なんぞない、俺が興味あるのは近藤さんの役に立つ奴かどうかだ」

「フフ、そういう所さ、アタシはずっと男社会で生きてきた、それも反社会的勢力…いわゆるヤクザ世界だ。だから沢山見てきたんだよ子供の頃からね、裏切る男ってのは自分の今いる立ち位置に満足しない奴だ。そのくせ実力は半人前だから足元を掬われる。」

「お前はヤクザだったのか?」

「そうだったよ、でも結局は女が入り込む世界じゃない、親戚団体の跡取りと結婚させられそうになってそれが嫌でね、面倒起こして捕まって…ってコースさ」

そういい原田はグラスを開けた

「次は何飲むんだ?」

「付き合ってくれるのかい?」

「こういう愚痴みてぇな事を聞くのも俺の仕事だ、それに俺がまぁ…そういう男じゃないって答えをまだ聞いてねぇし」

「すみませーんアタシもハイボール!、アンタはきちんと自分の役目を果たそうしてるよ、いや、それ以上な事をしてる。そういう奴は絶対に人を裏切らないよ、賭けてもいい。それにアタシは結構男を見る目あるんだ」

「ブブッ…なんだよ」

土方が飲み途中にむせて原田にかかった

「汚ぇな!こっち向いて噴き出すなよ」

「やめろ、そういうこと…」

「アタシは隊のなかでもアンタを1番信用してる、アンタは不器用だ、でも不器用なりにみんなの事をちゃんと見てる」

「…褒め言葉か?」

照れくさそうに土方が言った

「なんだよ、中坊か?顔が赤いぞ?」

「そんなんじゃねぇよ、いきなり言われるからビックリしただけだ」

土方と原田が同じタイミングでタバコに火をつけたが土方のライターが上手く火がつかず原田がタバコを貸した

「サンキュ」

「フゥー、聞いていいかい?ファイルは読んだが…アタシはよく知らんけど芹沢ってどんな男だったんだ?」

一瞬ピリッとしたが酒を飲みクールダウンした土方が口を開いた

「すげぇ奴だったよ、切れ者でいつも相手の3歩4歩先を読んで行動してた。今思えば近藤さんと芹沢はある意味コインの表裏だったのかもしれない。俺はアイツとは揉めてばかりだったがな」

「なんでよ?」

「すげぇ反面スタンドプレーが酷かった、言いがかりに近い形で近藤さんを土下座させたりしたからな、でもあの時の近藤さんはうまく芹沢をコントロールしてたと思う、なんやかんや認め合ってた関係だったよ、少し嫉妬してる自分もいた…だが裏切った」

グラスの酒を一気に飲み干し強く卓に戻し追加を頼もうとしたら店員が割って入った


「すみません…ハッピーアワーのラストオーダーでお飲み物頼まれますか?」


「アタシはハイボールでいいよ、アンタは?」

「俺もハイボールでいい」

「かしこまりました、ではハッピーアワーのメニュー下げさせていただきます」

そう言い店員はメニューを下げた


「俺のせいかもな、近藤さんがああなったのは」

「全然話が見えないよ」

「…あの時…俺は一瞬戸惑ったんだ、芹沢が銃を構えた時…俺は引き金を引くべきだった、覚悟が無かったんだ…でも近藤さんが撃った。撃った時…俺は実はほっとしたんだ、そんな覚悟の無さをあの人に見限られ…」

「フゥーーーーー!」

原田が思いっきりタバコの煙を土方にかけた

「なにすんだ!」

「そうやって勝手に自己完結しない、誰だってそうさ、どういう経緯かわかんないけど仲間を撃つ時は迷いがあるのは当たり前さ。恐らく近藤さんは色々な思いもあったんだろうよ、それに見限られたら少なくとも現場に居ないなんて事ないんじゃねぇの?アンタに全幅の信頼を置いてるから近藤さんはブレずにやれてる、アンタが居るって事に近藤さんはすげー助かってると思うよ?」


「ハイボールでーす!」

店員が雑に卓に置いた


「そうかな…?」

「伊東が好き勝手やってもアンタがいるから現場に出ないんじゃない?アンタはもっと自分に自信持ちなよ、あの近藤さんが認める副長なんだから」


そう言い終わると原田はグラスを向けた


「乾杯しよ!」

「はぁ?」

「いいから!」

土方もグラスを持ち原田のグラスと合わせた


カチャン


2人して一気


「なんか、ありがとうな」

「何が?」

「いや、お前のおかげで少し楽になれたわ」

「別にアタシゃなんもしてねぇ」

「まだ飲めんだろ?もう1軒付き合え、おーい!会計してくれ」


「はい!ただいまー!」

店員が伝票を取りに行った


原田が財布を出そうとしたら

「ここは俺の奢りだ、付き合わせたしな」

「アタシが誘ったんだ、それにアンタに奢られる理由なんてない、アタシが女だからって理由なら余計に嫌だ」

「バカ言え、男とか女とかそんなんじゃねぇ、お前が良い人間だから礼をしたいんだ、だから奢らせろ」

「そう言うなら…サンキュ」

そう言い原田が上着を持ちながら立ち上がった

「次の店はアタシが奢るよ、だからとことん飲もう」

「いいね、吐いてもしらねぇぞ?」

土方は言いながら店員に金を払った

「つりはいらん、また来るよ」


「アタシなんか焼き鳥食べたいな」

「OK焼き鳥で飲もうか」

2人して店を出て春木原の雑踏に消えていった




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


コンコンコン


「誰ー?」


永倉が自室でPCを畳みながらドアの方を向いた

「永倉ーワシやー」

「山崎さんか、今開けるよ」

永倉が自室のドアを開け山崎を迎えた

「何?」

「もう少し愛想良くせぇや、お前が眠れん言うから眠剤もってきたんや」

そういい薬を永倉に渡した

「ありがとう」

「こんな時間にPCいじってエロいの見てるんか?」

「うるさいな、そんなんじゃない」

そういい永倉が自室のドアを慌てて閉めようとした

「痛!なにすんねん!まだおるやないか!」

永倉が無理にドアを閉めようとしたせいで山崎がドアに挟まった

「あ、ごめん」

「ごめんやないで!痛いわ」

永倉は目を背けながら謝った

「お前何を焦ったんや?」

「うるさいよ!ホントにほっとけ!」

そう言い山崎を無理くり部屋から追い出しドアを閉めた


「なんやねん…全く」


腑に落ちない様子で治療室に山崎は帰っていった





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