第19話

ー京都近郊ー

鴨川沿いを走る1台の車に桂と幾美、高杉と運転手が乗っていた

「桂さん、やはり西郷さんはネズミを仕込んだようですよ」

護衛兼参謀の高杉が言った

「…また古典的な手だな、潜れないなら元いた奴を使って頃合を見て暴露…相変わらず汚いやり口だ」

報告書を見ながら桂が答えた

「このまま行けば武力衝突は必須、おそらく開戦した場合例の部隊と幕府防衛部隊が中心になるでしょう、そのために牙を削ぐのはこちらにとっても…」

「それはそうだが…誰かを陥れたりすると結果誰かに恨まれる、恨みや妬みは時にとんでもないパワーを生むからな、それこそ死ぬ間際に体を動かすとかな、それにどうせ東の誰かと組んで新政府のトップを狙っているのだろう?西郷は。そんなやり方をしても人はついていかん。…晋作、頼みがある」

「何でしょう?」

「西郷が初めて薩摩藩知事選に圧勝した時の事を調べてくれ」

桂が車の窓の外を見ながら言った

「?それは構いませんが…あそこはガードが硬い秘密主義、簡単には…それになぜです?」

どこか腑に落ちない高杉

「調べられる程度でいい、僕はね晋作?新政府を樹立した際の統治者は西郷にやらせるくらいなら徳川でいいと思ってる」

「何を言ってるんです?!」

桂からの予想外の言葉に声を荒げた

「最後まで聞いてくれ、自分の理想を人の理想と押し付ける政は圧政だよ。いい例が我が政府だ、大阪事変だったり石油騒動もありその都度、民衆を鎮圧してきた結果がこれだ。誰も希望も見いだせずただ生きるだけの国家、そんなもんに繁栄はないよ?その点幕府の徳川は民衆の理解を得ようとする姿勢がある、世襲制には問題があるがね、そういう意味で徳川でいいと思ってるんだ、そもそも民衆は統合なんぞ望んでいない、なぜなら今に不満がないからだ。それに目に見えた発展もない状況なら政治空白を空けずに安定した政権運営をしなきゃならん」

桂は言い終わると大きくため息をついた

「…理解はしますが…」

「もちろん新政府樹立後、王室を統合させた後の首相選挙はウチの誰かを擁立させる」

「桂さん、それはあなたがやるべきだ」

「僕は多かれ少なかれ汚れ仕事もしている。人の上に立つ人間は綺麗でなきゃいけないんだ」

幾美が桂の手をそっと握り

「そんなに思いつめないで…小五郎さん…」

「西郷がそのやり方をするならこっちは奴の足元を…ゴホっ」

「桂さん、少しお休みされた方が」

「そうですよ、小五郎さん」

「休んでなんていられないよ…西郷を出し抜くには…」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「局長お疲れ様です!」

近藤が土方、永倉、沖田、藤堂、原田が別任務でいない共有スペースに入ると複数の隊員達が敬礼をして出迎えた


「そんなもんはしなくていい、俺達は軍隊でも警察でもないんだ」

うんざりしながら近藤が応えた

「しかし…」

「俺がしなくていいと言ったんだ、承服しろ」


「隊には規律が必要なんでね、こいつらには厳命させてます」


伊東が少し離れた所から大きな声で話かけてきた


「伊東さん、あんたが連れてきた奴らとは言え曲がりなりにも戦術狼の一員だ、それにここは規律もクソもない、肩書きはあるが全員同じ仲間だ」

辟易しながら近藤が言った

ここの所緊急事案が増え元のメンバーだけでは人手が足りなくなり伊東が人を集めた

名目上は人手不足だが伊東曰く

「近藤さん土方さんが現場に出張るので万が一に備え別働隊がいた方がいい」

と言い評議会に提出後、可決された


「…好きにしろ」

そういい山南のデスクに近寄った時


「今日もまた齋藤さんと別行動ですか?一体何をやられてるんです?」

伊東が引き止めた

「参謀として近藤さん、あんたの居場所が分からないと緊急事案時の命令系統が乱れるからせめて報告ぐらいはして頂けないと」

「俺の不在時は土方に命令系統を全任している、そういった時は土方の指示に従えばいいだろう?それこそ参謀として。今だって俺がいなくてもちゃんとできてるじゃないか」

「だとしても個人的なものならさておき、齋藤さんも使っているんだ、これは隊の仕事と考えるのが妥当でしょう?」

「齋藤は俺の知り合いの医者に診てもらっている、だからついて行っただけだ」

「ここには山崎さんもいるでしょう?」

「ここの施設では足りない検査だ、これ以上伊東さんに話す事は何も無い、俺を疑うならそれ相応の証拠を出すんだな」

そういい山南のデスクに向かった


「…フン!お前達こんな所でサボってないで訓練でもしてろ!」


「はっ!」

敬礼をして新人隊員達は訓練所へ向かった


「山南ちょっといいか?」

近藤が山南の肩を叩きながら喋りかけた

山南はヘッドホンを外しながら

「近藤さんお疲れ様、なんか最近空気が重いね…」

と浮かない顔をして答えた

「すまないな…人が増えるとどうしてもこうなる…お前に頼みがあるんだがいいか?」

「うん、いいよ。何をすればいい?」

近藤が2つのスマホと小型PCを出して渡した

「これの解析を頼む、それと…この解析結果がわかったらここのクラウドに上げるな、お前の個人端末を持って歳さんと俺の部屋に来て報告してくれ」

「ここのディスプレイじゃだめなの?」

「必要以上の人間に見られたくない」

山南は一瞬ため息をついて

「考えたくないけど…」

「それ以上は言うな」


ここ最近ガサ入れが空振りに終わる事が多く成果がない事を土方から報告を近藤は受けていた


「わかったよ、沖田とかにも秘密した方がいいかな?」

「歳さんと俺以外にはなるべく見せないでくれ」

「わかりました、解析次第報告するね!」

「期待してるよ、山南」

そう言い立ち去ろうとしたら

「…もし万が一僕が…その…」

「ん?お前がそう言う器用な事はできない事を俺は良く知ってる、それにその不器用さに総司が惚れたんだ」

顔を真っ赤にした山南が顔を横に降った

「な、な、な、な、なんでそうなるの?!」

少しニヤつきながら近藤は

「図星か?そういう所さ」

「!カマかけてられた…?」

「いつからだ?」

「…答えたくない!」

顔を真っ赤にしたまんまの山南が怒りながら答えた

「ハハッ、安心しろ、誰にも言わんから。そうか…やっぱりか…総司が他所の女に現を抜かしてたら直ぐに言え」

「そんな事したら僕がアイツを刺し殺すよ」

「頼もしい事だ」

そういい笑いながら近藤は立ち去った



日が長いとはいえこの時間は若干薄暗い屋上に行くと

「おーおかえり近藤はん」

山崎がタバコを吸っていた

「治療室にいるのかと思ったよ」

「あそこは禁煙やからな、ここにこんとタバコは吸えん、それにそう思うなら帰ってきたらべっぴんはんと俺ん所こいや」

煙を吐きながら山崎は少し不貞腐れていた

「すまんすまん」

「で、俺に内緒でどこの病院連れてってたんや?」

「聞いてたのか?」

「あれだけでかい声だ聞くなって言う方が無理や、最近隠して何やっとるん?俺らにも言えん事か?」

一時の静寂

街の雑踏音が屋上まで響いてきて静寂が崩れた時近藤が口を開いた

「すまん…時がきたらちゃんと俺から説明する」

「フーー…わかったよ、ただあんた…鏡で自分の顔最近見たか?」

「……変わるもんか…そんなに」

「あんた眠れてるか?最近やつれているよ?俺達はみんなあんたがいない所で心配しとる、なんでもかんでも抱えこみすぎるなや」

「そんなんじゃ…」

近藤が言い終わる前に山崎が近藤の胸ぐらを掴み怒った

「じゃあなんやその顔は!納得もせん事を俺はしてるって顔1丁前にして伊東にまで嘘ついて!そんなやったらそんなもんやめてまえ!何のための仲間なんや!俺達は!」

「……」

「なんか言い返してみぃや!」

そう言い山崎が近藤の顔を殴ったが近藤はそのままやり返さなかった

「…なんや!やり返してみぃや!あんたなら俺なんか造作もないやろ!」

「…山崎さんに何がわかんだよ…」

「あぁん?なんや!言いたいことあんならハッキリいいや!」

「俺は鬼になるって決めたんだ、あの時に」

「ダムの時か?」

「…アレは俺の甘さが原因だった、他にもやりようが…」

「たらればで自分を責めるのはもうやめぇ、アンタは懸命にやってるよ、今も…鬼になる言うけど鬼だって色々いるやろ?鬼になる言うんやったら止めへんけど…芹沢はんみたいな生き方はあんたに似合わへんよ」

ペットボトルのコーラを飲み山崎は

「みんなあんたに拾ってもらって感謝しとる、でも拾ってもらっただけやない、あんたの言動と行動を理解したうえで俺達みんな好きなんや、好きやから協力したい、助けになりたい思うんや、少なくともあの時より前のあんたは隠し事したりコソコソしなかった、どこにいても何をしても自分の色でいたんや。それが今はどうや?新しい連中も入ってきて俺達に隠れてコソコソと…不安になるのが当たり前やろ?」

「すまない…」

「なんで謝んねん!」

「今は…今は言えん…ただこれだけは言わせてくれ、俺は変わったかもしれんが信念は変えてない、それは信じてくれ」

山崎が近藤の胸ぐらから手を離して襟元を直した

「悪かったよ…殴ってしまって…」

「いや、気にしてないよ、心配かけてすまない」

「ただ本当にあんたは1人やない、言えない事もあるだろうが少しは吐き出してくれ、それと…酒だけじゃなくちゃんと飯食って寝ろ、眠剤くらい渡したるから、ホナの」

それいい山崎はタバコを消して屋上から去っていった


鬼にも色々あるか…そうかもしれんが今はそんなこと言ってられん

なんとしても…なんとしても尻尾を掴まない限りこっちが後手後手回る

今が踏ん張り時

山南が解析し俺が思う通りの物が入っていたら全員を出し抜ける

平岡め、お前らの好きにはさせない

俺の部隊はお前ら評議会のおもちゃじゃないんだ



ガァン!


手すりを殴った音が屋上に響いた


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