第18話

真楽坂

ここは料亭が多く幕府が近いので評議会の人間もよく利用する

真楽坂の料亭 「淡」は峰寿市場に近い事もあり魚料理がとても評判の良い料亭

季節の旬の魚を料理長が鮮やかに調理する

「淡」の入口に車が止まり3人が降りてきた

近藤、齋藤、沖田

平岡からの呼び出しに護衛は齋藤と沖田

藤堂が手を挙げたが戦力的に齋藤、沖田で充分なので土方が却下

東京の治安が悪化し近藤は護衛などいらないと土方に言ったのだか万が一と齋藤沖田が抜擢された


「うわー!凄いっすね、近藤さんはいつもこんなところで飯食ってるんすか?」

齋藤はヤレヤレと言った感じで沖田を見つめ近藤が

「こんなところ飯を食うところじゃない、秘密の話しをする所ってだけだ」

と諭した

「イチは…大丈夫か、沖田、とにかく大人しくしていろ、お前もそろそろこういう場を見ておけ」

「ん?どういうことっすか?」

「大人は汚ぇ事を平気で言う事をちゃんと見て現実を受け入れろ」

「近藤さんも言うんですか?その汚ぇ事を」

「さぁな、どう感じるかはお前次第だ」


そう言い門を抜け飛び石を踏み入口の引き戸を開けた


「いらっしゃませ、ご予約のお客様でしょうか?」

綺麗な和服を着た男性が出迎えた

こういう所は女将なのだが男性とは珍しい、番頭なのか

「私は近藤と申します、平岡先生とお約束があるので参りました、お取次ぎをお願いしたい」

「近藤様ですね、少々お待ちを…」

番頭らしき人間が内線電話で確認

「こちらへどうぞ」

そういい奥座敷へ

道中掛け軸や生け花が飾られて煌びやかだ

番頭が花柄の襖の部屋の前で止まり

「こちらでお待ちになっております…では…」

そう言い残し去っていった


「失礼致します」

近藤がそういい襖を開けた

「やぁ、近藤局長。さぁ座って」

秘書と護衛を連れた平岡に出迎えられた

「おや?今日は美人さんの他にイケメンさんだね、ん?君たしか…藤原次官の…?」

沖田に怒りがこもったが近藤が手で制止した

「彼の名前は「沖田総司」です、大変役に立つ隊員でね、今日は俺の護衛を兼ねて顔合わせにと連れてきました」

「君によく似た男が小さい時に遊んだんだけどなぁ〜」

「平岡先生、隊員の選抜は我々が一任されています、詮索はご遠慮願いたい」

近藤が平岡を制止しその態度に少し不満が残った顔しながら

「フゥン…まぁいいか、本題に入ろう、最近の治安悪化が評議会で問題になっていてね?テロだけでなくデモなんかも多発しだした次第だ」

平岡は酒を飲み料理を頬張りながら続けた

「警察も手一杯でね、今後はデモ隊の鎮圧にも君たちに出張ってもらう事になるかもしれない」

「我々は治安維持も任務にありますがデモ隊はあくまで民間人、デモは主義主張で武装している訳でもない民間人を我々が相手にするのは些か民意に反すると…」


バァン!

平岡はぐい呑みを強く卓に置いて話を遮った


「そんな屁理屈はいらん!デモ鎮圧も立派な鎮圧維持活動だ、それに報道はさせてないが最近評議員や官僚が襲撃を受け何人か殺されている!しかも目撃者も出さない暗殺者みたいなのがいつデモ隊をけしかけていつ私に歯向かうかわからんぞ!」

そう言い放ち写真を近藤に渡した

「…これは…見事なやり口ですね」

「…誰の仕業かわからん!これだけの仕業…そうそう出来るものではないな、君の所の美人さんとか元監察官とかな」

「証拠もなく俺の部隊を疑うような事はやめて頂きたい、…確認させて頂きましたがこれらの方々は保守派から合併すべきと乗り換えられた方、平岡先生は保守派のトップ、先生が狙われる事はないかと思いますがね」

「ふん…知った口を聞くんじゃぁない、彼らの取った行動は相容れない考えでも高度な政治的判断だ!」

「高度な政治的判断…便利な言葉ですね、そうやって芹沢事件も隠蔽したんでしょう?」

「今はそんな話をしていない!政治的な意図は君が口を出す事でないぞ!」

「政治的な意図に口を出すなか…ではなぜ評議会は芹沢事件の時俺に口止めをさせたのですか?処分もなく予算も増えたら政治的意思を疑うのはね…それに査問委員会で事実を認めたがあくまで認めたのは「俺だけ」です、ほかの連中や新人達がどういう行動をするか俺にもわからんのでね、芹沢事件が表にでたら困る方々も多いでしょう?」

平岡の拳に力が入った

「いつから君はそんな屁理屈を私に言える立場になったのかな?」

「いつからでしょう…部隊を守る以上俺もなりふり構っていられなくなってきたので」

「君はもっと理知的で思慮深いと思っていたが…誰かの影響かな?」

「さぁ…どうでしょう。話を元に戻させて頂きますが治安維持活動はこれまで以上に取り組みますがデモ鎮圧等は状況判断では承服しかねます、それに…此度の急激な治安悪化は誰かの意思が介入しているかと思っています、それが平岡先生、貴方では無いと思いたいですがね」


ガチャン!


平岡の持っていた箸が近藤に当たった

齋藤が持っていたナイフ、沖田がショルダーホルスターのハンドガンに手をかけた時近藤が手で止めた


「貴様!口を慎め!」


「この連続するテロ事件、いつか証拠を掴みますよ…いつかね、話が無いようでしたこれにて…帰るぞ」

近藤が立ち上がり部屋を出ようとした時


「調子にのるのも大概にしなさいね、近藤君?一部の市民から君らの部隊を英雄視するような声も聞くが英雄から悪役に堕ちるのはあっという間だよ」


「ご忠告ありがとうございます」

そういい部屋を後にした


平岡はスマホを取り出し

「私だ、最近の近藤は何を考えてるかわからん、逐一私に報告しろ!いいな!」

そういい一方的に電話を切った

そしてまた違う相手に連絡

「あぁ私だ、西郷さん。どうやら近藤はテロ事件と私を結ぼうとしている。証拠はもちろん無いが死んだ連中はどうしていたかわからん、今後はお互いの行動を慎むべきだ。…あぁ…あぁ…うん…は?尻込みなんぞしとらん!私が保守派なのは勝ち馬が誰かを示す為にやっている!時期がきたら勝と一緒に行動する、その時までにそちらも頼むぞ」

そういい切ったスマホを投げた


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「平岡さんはなんと?」

半次郎が西郷に尋ねた

「お前が気にする事なんぞない!いちいち口を挟むな!駄馬が!」

そういい吸っていた葉巻を投げつけた

「…失礼しました…」

PCを叩いて何かのやり取りをしている大久保が

「吉之助ぇ?こっちはそこそこ情報来てるよ」

「おぉ、そうか、どうやったんだ?」

「家族をネタにしたらコロッとこっちになびいたよ」

「何か分かったら逐一ワシに頼むぞ、はぁ…誰かもこれくらい使えるとワシも助かるんだがなぁ!」

そういい半次郎を睨みつけた

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「査問委員会で認めたのは近藤さんだけってどういうことっすか?」


ハンドルを握りながら沖田が尋ねた

「別に、ある種の駆け引きだ、俺はいいが他はどうするか?って揺さぶっただけだ」

後部座席の後ろ窓の外を眺めながら近藤が答えた

「それにあの官僚とか襲撃されているってなんなんすか?!まさか関わってるんですか?!」

「お前がそれを聞いてどうなる?その答えを聞いてお前はどうしたい?万が一俺がやっていたとしたらお前は俺を告発するか?」


キキィーーー!

車の急ブレーキ音が響いた


「なんなんだよ!ハッキリ答えろよ!最近齋藤さんとアンタ2人でなんかやってるよな?なんでみんなには内緒なんだよ!何やってるんだよ!」

「お前は人に聞いてばかりか?なぁ?聞いてばかりでお前は何もしないのか?俺が疑わしいならお前が俺を調べりゃいいだけだろう?」

「それは…!」

「それはそうだろうな、俺が答えを言えば楽だもんな?それか歳さんあたりに言いつけるか?1丁前のセリフを吐く前にお前自身きちんと考えろ」

「考える?!」

「人に聞く前にまずお前自身が考えろ、人に聞いてるだけでは何も進歩しないぞ、お前は直情的過ぎる、そんなんだといつか誰かに利用されるぞ」

齋藤はずっと下を向いていた

「…汚ぇよな、大人ってよ」

「お前も立派な大人だ」

「ちげぇよ!あんたも親父と一緒だよ、やっぱり。前のあんたは違ったよ、少なくともあんな駆け引きじみた事はしなかった」

「なら聞くがお前は親父さんのことを理解しようとしたか?お前はいつも一辺倒な物の見方しかしない、誰かを守ったりする時、嘘や駆け引きは必要だ、本音だけでやれるなんて幻想だよ。」

「……」

「ガキと言われたっていい!俺は!ただ1つだけ答えてくれ、俺達に話せないあんたがやってる事はあんたの正義なのか?」

「どうだかな…正義なんてそれこそ一辺倒過ぎる物だ…俺にとっての正義は誰かにとっての悪でもある…ただ…俺はお前達に後ろ指刺されたとしても俺は信念は変えていない」

「全然答えになってねっすよ…なんすか…それ…話せないって事は近藤さんにとって俺はそんなに頼りねぇんすか…?」

悔しそうに下唇を噛みながらハンドルを叩いた

「お前が頼りないなんて1度も俺は思ったことないぞ」

「じゃあなんで!」

「お前や歳さん、永倉やイチはヒーローであって欲しいという俺の願望かな」

「ヒーロー?」

「この世界は目まぐるしく変わっていく、そう遠くない未来、東京は混乱するだろう、そんな時「正しさ」に愚直な人間が必要なんだよ、そういう人間は誰かの希望になれるからな。だからお前達が知らなくていい事は俺は言わない、知らなければ嘘をつく必要はないからな、それに…」

「それに、なんですか?」

「他の連中を出し抜くためには泥の中に手を突っ込む必要がある、それをするのが今の俺の役目だ、守りだけでは足元を掬われる状況なんだよ、総司、気をつけろよ?敵はすぐ側かも知れんからな」

「…何がなんだかわからないですよ…敵ってなんすか」

「今にわかるさ…早く車出してくれよ、運転代わるか?」

「運転ぐらい俺がやりますよ!」


軽く目を拭き沖田はアクセルを踏んだ














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