第14話



「動くな!そうやってそいつも殺すのか?」


「相変わらず甘いヤツだ…後ろを取ってるのに…俺に勝った気でいるのか?」

傍には足と肩を撃たれた男が怯えながら命乞いをしていた

「頼むよ…あんた、助けてくれ…命だけ…」


パァン!


ーーーーーーーーーーーー


矢切渓谷の櫛引ダムは東京の西の繁華街八百万のもっと西にある東京とは思えない程の自然豊かで森林生い茂る場所にある

昨今のエネルギー事情により水力発電は化石とされているがここのダムは東京で使う水を溜める貯水ダムで重宝されていた。近くにはキャンプ場、暖かくなると櫛引ダムで探索ツアーも企画される場所だ

その櫛引ダムが不逞浪士達に占拠された

要求は12時間以内に徳川将軍の辞任、現評議会、評議員の解散だった、要求を無視した場合ダムを爆破すると脅してきた

そんな要求のめるわけもなく貯水ダムが破壊されると東京の上下水道が麻痺し東京が一時的に混乱する為解決して欲しいと評議会からのお達しで戦術狼が出動

近藤、芹沢、土方、齋藤、沖田、永倉、山南、山崎とフルメンバー

この事件発生前に匿名の告発メールがきたので芹沢を屯所に待機させてたのだ

場所が場所なので戦闘指揮車には永倉、山南、山崎、沖田

1号車には近藤、芹沢、齋藤

私物バイクは土方だ

矢切渓谷は道が狭いので万が一の事を踏まえ土方はオフロードバイクできたのだ

戦闘指揮車運転手永倉から

「もうすぐ着くよ」

「1号車了解、山南はダムの地図を各員端末に頼む、カメラチェックもやってくれ」

近藤の指示

「了解、今送るよ」

前回山南の事をふまえ戦闘員ではないが万が一の事態に備え山崎も現場に出るようになった

「山南はん、なんでも手伝うから言うてや」

「ありがとう、とりあえずカメラチェックかな?電波きてるかどうか」

「任しとき!」

「元ブス、絶対に俺たちが戻るまで扉は開けるなよ、山崎さんも!」

沖田はなりの気遣いなんだろう

「わかっとるわい!ノンデリカシー!」



「こんな田舎で大それた事なんてしねぇだろうよ?ガセじゃねぇのか?」

呆れた口調の芹沢

「ガセならガセでいいさ、でも万が一もある」

「肝っ玉ちいせぇなぁ、めんどくせぇ」


指揮車が止まった

1号車も止まりバイクの土方も同着だった

「各員武装しろ」

各々が指揮車にある武器やプレキャリ、チェストリグを装備

「カメラはどうだ?」

「みんな写ってるで、よー撮れとる」

「待って!ハッキングしてシステム入るよ」

山南がすごい勢いでキーボードを叩く

「よし!侵入成功!楽ちん楽ちん監視カメラもこっちで映ってる」

「それがデコイって可能性は?」

「囮って事?うーん…ほぼほぼ無いけどそんな痕跡もないし」

暫し近藤は考えた

「山南見える範囲でいい、敵は何人だ?」

「うーん…見張り4人、東西通路ふたりづつで通用門に1人づつと制御室に3人かな、思ったより少ないよ」

「分かった。ここから1番近いハッチはどこだ?イチに先行してもらう、イチ頼むぞ。」

齋藤は近藤から頼まれると俄然やる気が出るらしく両手に力を込めて気合いを入れた

「イチさん、東通用門の見張りが交代で1人減ったからチャンスだよ」

聞くと同時にイチは走った


「よしイチの潜入が成功したらフォーメーション通り行くぞ」



「了解!」





齋藤が東通用門に到着、ゲートに1人武装した見張りがいた


齋藤は背後に忍び寄り相手が振り返る瞬間背中合わせに動き首頸動脈を刺しそれを抜いて腹も刺した

見張りは声も出す暇なく死んだ

「べっぴんさん…話には聞いていたが凄いな…」

カメラチェックをしていた山崎は関心と軽い恐怖を感じていた

「凄いよね…」

山南も同じようだ


ーこっちも配置に着いた、いつで狙えるー

永倉からの無線




「トシさん、総司どこにいる?」


ー俺と沖田、着きましたー


「永倉、何人見える?」


ーここからだと2、いや3人かなー


「トシさん、沖田敵が見えるか?」


ー2人確認ー


「トシさん、総司そのまま片付けろ、同時に永倉も撃て」


ー了解ー

ー了解ですー

ー了解ー


通用口の見張りが反対を見た瞬間


ピュンピュン

沖田は的確に頭と胸に1発づつ入れた

パシュッパシュッ

土方は頭に2発


1人が気がついた


「なんだ!お…」

言い終わる前に永倉がもう1人を排除


「よし、永倉はトシさん総司と合流、トシさん総司はその場を確保、永倉がくるまで待機だ」



ー了解!ー


「トシさん、そっちの判断は任せる、頼んだ」


ーわかりました、近藤さんもお気をつけてー


「合流後3人で突入」


ー了解ー


近藤の指示は的確だ


ーイチさんが東通路に侵入したよー


「よし、鴨さん俺たちも行こう」

「あいよ」


ーーーーーーーーーーー

東通用口ゲートを抜け通路に到着

齋藤がまた1人片付けた様だ

齋藤は何か違和感を感じたのか死体を観察していた

「どうした?イチ?」

近藤、芹沢到着

首を傾げながら齋藤が近づいた

「なんかあったか?」

首をふり通路先をを指さした

「分かった、行こう」

「オレはあっちの方から行く」

そう言うと同時に芹沢が走り出した

齋藤が芹沢を指さして首を横に振った

「いつも勝手だな…トシさん聞こえるか?俺たちも中に入る、そっちも頼む」


ー了解ー


通路は嫌に静かだった

制御室までの道のりで2名排除

機械の作動音しか聞こえない静寂

排気口の送風ファンを見つめるとそのまま闇へ吸い込まれるような感覚だ

近藤が先頭、背中は齋藤に預けた

齋藤なら後ろから不意の攻撃にも対応できる


「イチ、これから何があっても驚くなよ…」

後ろを警戒している齋藤はなんの事だが分かってない

「…そのうち分かるさ…イチ、ベストがズレてるぞ被弾したら危ない」

近藤はベストを直す振りをしてそっと無線を切り自分の無線も切った

ーーーーーーーーーーーーーー


ダム詰め所付近で数名と戦闘

「こんな呆気ないもんすかね?」

先頭でMP7を構えた沖田が土方、永倉に言った

「たしかに手応え全然ないよね、武装してるって言っても大した事ない」

永倉も同意

「…気を抜くな…って言う方が無理なくらいだな」

土方も違和感を感じていた

「不逞浪士で爆破テロだったらもう少し武装した人間揃えたっていいな」

土方はシースルーマガジンのP90、こういった近距離戦闘にはコンパクトな銃が使い易い

「でしょ?」

「ここの櫛引ダムって大事だけど…それにしてもこの人数は少ないよね」

後衛の永倉はMCXのホールディングストック仕様だ

口径の小さいサブマシンガン接近戦でのは取り回しは抜群だが狙撃には向かないので永倉は5.56mm仕様だ

先頭の沖田がハンドサイン

「総司確保だ、少し情報が欲しい」

「了解」


沖田は静かに背後を取った

「動くな…」


「ひぃ!あんた誰だ…命だけは…」

背中を取られたのだ酷く怯えている

「動くなよ…質問はこっち、下手な言い訳はするなよ」

冷淡に土方が言った

「あんたらも呼ばれて来たのか?」

「呼ばれた?」

「そうだ…俺達は呼ばれただけだ、金になる話があるって」

沖田、永倉は警戒しつつも顔を見合わせた

「説明しろ!」

「1週間前くらいかな…上谷のドヤ街でクダ巻いてたらサングラスを掛けた男に今日櫛引ダムに侵入しろ、1日立てこもり忍び込んだ奴らを全員殺したら5億やるって、武器も貰ったんだ、原発でもないからダムの職員なんて大した事ないと思ったんだ…」

「侵入?元いた職員達は?」

永倉も加わった

「職員が居ると思ったけど元々もぬけの殻だったんだよ…俺たちもおかしいなと思ってたんだ、まぁ1日立てこもって5億に目が眩んだんだ…頼む…見逃し…」

ガンっ!

土方が銃床で首元を殴り気絶させた

「総司、こいつを拘束して詰め所で見張れ」

「いやいやいや、何普通にしてんです?おかしいでしょ!!なんですかこれ!」

「騒ぐな!」

「どういう事よ」


山南から無線が入った


ーみんな聞こえてる?!なんか変だよ!ー


ーーーーーーーーーーー

「嫌に静かやな、オレは現場にこないからこんなもんなんか?」

カメラチェックしながら山崎が言った


「んーーー????んん??んん????」

「どないしたん?」

「なんかこの動画変だよ…」

「変てなんや?」

「待って!今調べる!」

山南は凄まじい速さでキーボードを叩いた、サブディスプレイにはアルファベットの羅列がズラっと並んだ

「山崎さん!この動画録画だ!ジャックされてる!」

「んなアホな、あれ?近藤はんと齋藤はん、芹沢はんのカメラが切れたで?なんでや?」

「僕のジャックの上からジャックし返すなんて中ででしかできないよ!」


「みんな聞こえてる?!なんか変だよ!」


ーこちら土方どうした?!ー

「僕が書き換えた警備のメインシステムが誰かに上書きされてる!監視モニターは録画だ!危ないよ!近藤さん、イチさん、芹沢さんの無線とカメラが切れてる!」


ーどういう事だよ!元ブスー

ーちゃんと説明してー


「わかんないよ!僕にだって!僕のジャックの上から取り返すのは現場でやるしかできないんだ!」


ー近藤さんと齋藤、芹沢の無線が切れたのはいつだ?最後に切れた場所は分かるか?!ー


「ついさっきや!場所は…」

「山崎さん、ごめん!」

山南が強引に山崎を机から引き離しキーボードを叩いた


「近藤さんとイチさんは制御室付近!芹沢さんは…制御室だよ!」


ー了解!なんかあったらすぐに知らせろ!いいか!今回の件何か変だ!制御室は俺の位置から近いから万が一備え永倉沖田をそっちに返す、永倉沖田が戻るまで絶対にそこから動くなよ!ー


「どうなっとるんや…」

「僕も何が何だか…」

「万が一の事も考えとかんとな」

「山崎さん銃は使えるの?」

「一通り練習はしてるよ、ただ実際の人を撃てるかは…」

「…だよね…」


ーーーーーーーーーーーー

「土方さん!1人は危険だ!俺も行く!」

「オレは平気だ!それよか指揮車に戻れ!山南と山崎さんは非戦闘員だ、訓練してるとはいえ危険すぎる!お前たちに任せた、急げよ!」

「ちょっと!」

沖田の呼びかけを聞き終える前に土方は走って行った

「戻ろう沖田」

「はぁ?心配じゃねんすか?!」

「今は俺達ができることをするしかない、この状況だ、万が一の為に逃走ルートの確保も大事、それに指揮車は非戦闘員だけだ」

壁を蹴った沖田が言った

「クッソ!はやく戻りましょう!」

「だね、これ持って急ごう」

気絶してる不逞浪士を2人して抱え

沖田永倉は出口へ向かった

ーーーーーーーーーーーーーー


そろそろ気が付かれたか…

まぁいい、いつもと流れは一緒だ


「…い!…おい!聞いてんのか!なんだこれ!言ってた話と全然違うじゃねぇか!」


司令室で男が2人しゃべっていた


「何言ってんだ?1日立てこもって入って来た奴を殺せ、何も間違っちゃあいないぜ?」

「そういう事じゃねぇ!なんだアイツらは!プロじゃねぇか!俺達が勝てる訳ねぇだろう!」


「5億の仕事だ、そんな簡単に行くかよ」

「ふざけんな!オレは降りる!」

「5億いらねぇのか?」

「いるか!バカやろう!」

「やっぱり信念がねぇか…金が欲しいも立派な動機だけどなぁ〜」

「はぁ?あんた頭おかしいのか?」


パァン!


「え…?」

足から出血した

「ちょ……」

撃たれた男が反撃しようとした時

パァン!


2発目が当たった


「ギャっ!」


「つまらねぇリアクションだな」


「やめ、やめて…く」




「動くな!そうやってそいつも殺すのか?」


「相変わらず甘いヤツだ…後ろを取ってるのに…俺に勝った気でいるのか?」

足と肩を撃たれた男が怯えながら命乞いをしていた

「頼むよ…あんた、助けてくれ…命だけ…」


パァン!


命乞いをしていた男の眉間がシルバーのリボルバーで抜かれた


司令室に入った齋藤は目を丸くしていた

何が起こってるのか理解できてないみたいだ

「人形つれていい気なこった」

銃を向けながら芹沢がZIPPOでタバコに火をつけた


「いつから気がついてた?」


「匿名メールの話はしたろ?その後に音声データが俺の個人端末に来たんだ」

近藤が答えた


「音声データ?知らねぇな」


ー………お前とは話になんねぇよ……

西郷連れてこい…………いいぜ、場所を教えるから来たきゃ勝手……神座町ブロンド街の……店にいるー


「この会話は俺との電話だ…西郷の名前が出ていた、ネズミはあんただったのか」


齋藤は刀を抜いて芹沢に敵意を出した



「お前らはなんも分かってない、今の将軍はクソだ、それにこんなちいせぇ島国でガタガタやってる場合じゃねぇよ」


「だから裏切ったのか?」


「裏切るなんて言い方やめろよ、お前らは初めから俺のコマだ」


「このまま拘束する」


「おぉ?やってみろよ!!」

パァンパァン!

近藤目掛けて芹沢が2連射

操作パネルに体を隠し近藤も発砲

プシュップシュッ!


サプレッサー着きSOCOMで2連射


「イチ!」

齋藤が被弾


「お前を撃つと人形が守るだろ?初めっからお前狙いじゃない、お前の人形だ狙いは。オレはお前の人形を狙ってるぞ、こうするとてめぇは撃てねぇんだよなぁー!オラァどうした!」

一瞬芹沢が標的を齋藤から近藤へ向けた

その瞬間、齋藤は足を抑えながら芹沢目掛けてナイフを投げた


ガキン!


狙いが反れ銃を飛ばした


「クソ!」


「イチ…ありがとう、どうする?このまま終わりにするか続けるか?」

銃を向けながら近藤が言った


「そんな決定権お前にやんねぇよ」


芹沢が近藤の銃口を掴み己の額に当てた



「近藤さん!」

司令室にP90を構えた土方が入ってきた


「やっぱり…齋藤無事か?」


「トシさんイチを頼む」


「齋藤、どこに当たった」


足に被弾していたが幸い弾は抜けていたが出血が酷い


「どうした!撃てよ!ほら?ビビってんのか!いい事を教えてやる、お前の家族が死んだ日、オレはあの場所にいたんだ」


「……」


「お前の女房はいい女だったよ、泣き叫んだでたメスガキは成長したら高く売れそうだったなぁ」


「土方!イチを連れて指揮車に戻れ!」


「バカ言わないでくださいよ!」


「イチを頼む、この人の茶番に付き合うのは俺だけでいい」


「分かったろ?こいつの家族を殺したのは俺だ!お前は俺を撃っていいただ1人だ!」


「お前を殺したって俺にはなんの徳もねぇんだ」


「聖人ぶんなよ!鬼になれ!近藤!」


「それにお前を殺しても家族は戻らん」


「だからどうした!ほら!仇が目の前だぞ!撃てぇぇぇぇ!」


プシュっ


1発の弾丸が空間を切った

銃口は天井に向いていた


「これ以上…かっこ悪い所みせられるか、感情でお前を殺したら俺は家族に合わせる顔がない」


「なんだよ、なんなんだ!このクソが!」


「オレはあんたを許す、このまま国から出られるだろう?見逃してやるからとっとと出てけ」


芹沢は下唇噛み締めていた


「近藤さん!こいつは…」


「うるさい、俺が決めた事だ」

こんな冷淡に話をする近藤を土方、 齋藤を初めて見た

「芹沢鴨は死んだんだ、イチと帰るぞ」

踵を返し近藤が齋藤に近寄ろうとした時


芹沢が銃を拾った

「ふざけんなよ、俺のやり方をてめぇが決め…」


「近藤さん!!!」

土方が銃を構える瞬間


プシュっ…


近藤のホルスターから弾が発射された


「オレの家族は許すさ…でもこれはイチを撃った分、俺の仲間に手を出すな」


「ぐはぁ…クソ…」


肺辺りに被弾した芹沢が制御室から逃げた


「芹沢ぁぁぁぁぁ!」


「ほっとけ!ここから出るぞ!」

「しかし!」

「いいから!イチを!」


「キドウカクニン、バクハツマデハチフン」


「急げ!」

ーーーーーーーーーー


「こちら土方!指揮車と1号車をゲートに回せ!ここは爆発する!」


東ゲートは目の前だ

「イチ、頑張れ!生きるぞ!」

「近藤さん!車が来ます!」


「バクハツマデアトサンプン…」


ゲートを抜けた


指揮車から永倉


1号車から山崎が叫んだ


「はよせぇ!間に合わへんぞ!」


「モタモタしてんな!」



「イチから載せろ!痛いか?もう少し我慢だ」


「乗ったぁ!出せ出せ出せ!GoGoGo」

指揮車に土方、齋藤が乗り

1号車に近藤が窓から乗った


車が急発進した


敷地から出た時…ダムが爆発した…


情報はガセ、芹沢死亡、ダムは爆発


生きるか死ぬか…

生き残った者が勝者なのか…死んだから敗者なのか…

勝敗とは何なのか


俺たちは何もできなかった…


結果が全て…生き残ったがこの作戦は結束以来初めての敗北だった…






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