第13話
迂闊だった
突入現場から少し離れた所だと完璧に油断していた
インカムを外し戦闘指揮車の鍵を開けて外に出た瞬間
カチャ…
やばい…これは…
「動くなよ…はぁはぁ…車に乗れ」
銃を突きつけられていた
こんな仕事だ、いつ死んでもいいと腹を括ってたが…僕にはやらなきゃならない事があるのに…
「早く車に乗れ!殺すぞ!」
従おうとした時
バァン!
「ウッ グハァ!…クソ」
「ブス女!しゃがめ!!」
パァン!パァン!
ビチャ!
血だ
僕の血じゃない
「この…犬ど…も…が」
ビュン!クチャ
飛んできたナイフが首にささって僕の方に倒れてきた
一瞬の事でよくわからないが助かったみたい
事実を受け入れたら腰が抜けた
「おい!ブス!大丈夫か?弾当たってないか?おい!返事しろ!」
走ってきたのかイチさんも僕の身体を揺さぶっていた
「…あ…あ……だい、大丈夫…」
身体の震えが止まらず良く喋れない
沖田が何か私に言ってたがよく聞こえなかった
沖田が永倉に無線を入れる
「永倉さんありがとう、どうやら無事みたいだ」
ーすまん、射角を考えたら頭狙うと山南に当たると思って少しずらしたー
「大丈夫です、俺も当てるには当てたんすが…齋藤さんもありがとう」
深々と頭を下げた
齋藤は笑顔で沖田の肩を叩いた
(気にしないでって言いたいのかな?)
ーとにかく帰ろう。車は俺が動かすから山南のそばから離れないでいてあげて、俺もすぐにそっちに戻る、乗ったら指揮車の鍵かけてねー
「わかりました、とりあえず車に乗ろうぜ、血を拭こう。立てるか?手を貸すよ、1.2.3!」
腰が抜けて動けない僕を沖田とイチさんが抱えて車に乗せてくれた
まだ震えが止まらない
「大丈夫…大丈夫だから、もう終わったから、これでも飲んで落ち着けよ」
沖田が指揮車の冷蔵庫からドクターペッパーを出して渡した
とてもじゃないが今は飲めない
でも嬉しかった
「で…で…でき…できたら…水…」
震えて上手く喋れない
イチさんが水をくれた
芹沢は不在が当たり前
近藤さん土方さんは評議会の人間と会っていた
どちらかが不在は規律違反だがどうやら両名ご指名らしい
そんな時に警察からの応援要請
山崎は基本現場に出ないので
永倉、沖田、齋藤、山南で事にあたった
「言わなきゃバレないって!永倉さん!」
「そういう問題じゃない、生き残ったから、無事だったから大丈夫って本気で思ってるの?」
饒舌な沖田が黙った
「今回の失敗は俺たちの注意力散漫、たまたま間に合っただけだ、ホントだったら山南は今頃死んでたかもよ?相手がマヌケだったおかげだ」
「でも…」
「でもじゃない、どのみちカメラに映ってるから正直に報告する。齋藤もいいね?」
しょぼくれた齋藤が頷いた
「報告書と動画を見た、なんだアレは!やるなら徹底してやれと言っているだろう!」
永倉、沖田、齋藤を土方が叱った
「今日撃ち漏らした1人が今度は10人で来る事もありえる、逃した奴が何かしでかしたらどうするつもりなんだ!え?日頃の訓練をサボって慢心してたんじゃないのか?天狗になって鼻伸ばしてだんだろう?!」
「…いなかった人に何がわかんだよ…」
「なんだ総司、言いたいことがあるならハッキリ言え!」
「やめろ、沖田」
永倉の制止を沖田は振り切った
「政治家かかなんか知らないけど2人が出張る必要あったんですか?!いなかったのに後から文句言うとか誰でもできるじゃねぇか!」
齋藤はアタフタしながら沖田の服の裾を引っ張った、齋藤なりの制止なんだろう
「じゃあ何か?総司は俺や近藤さんがいないと何もできないって言いたいのか?」
「黙って聞いてりゃ…!」
沖田が土方に掴みかかろうとした時
治療室から戻った山南がブリーフィングルームに入ってきた
「大丈夫や、心配ない、血も返り血みたいなもんや」
山崎が結果報告をした
返り血で汚れたのか検査着の山南が口を開いた
「みんなやめてよ…今回のミスは僕だよ、僕が不用意にインカム外して指揮車の鍵を開けたのが理由、他のみんなはキチンとやれてたよ、だから叱られるのは僕だけにしてくれないかな」
山南が深々頭を下げた
「キチンとやれてた…か」
近藤が口を開いた
「キチンとやれてたならなぜこうなってるんだ?」
「なんだよ!あんたまで!」
沖田が今度は近藤に噛み付いた
「総司!やめろ!」
土方が止めに入っても沖田はまくし立てた
「あぁあぁ!近藤様も土方様もご立派ですな!!ご立派な方々だから失敗しないんでしょうね!」
「総司、いいか?俺たちは普通じゃない事をしてる、分かるか?」
沖田は不貞腐れていた
「普通の仕事でも取り返しがつかない事は山ほどある、特に俺達の仕事ではヒューマンエラーで済む話じゃない、どんなに正しくやろうとしてもミスは起きちまうんだ。でも訓練をこなしたり心掛けたりすればその確率をゼロに近づける事はできる。イチは切り逃した者がいないか確認したのか?総司が狙いを外した時追いかけてトドメを刺すという選択肢は頭にあったか?山南が影になってたとはいえ他に無力化できる場所を撃てなかったか?永倉も」
全員黙って聞いていた、永倉と齋藤は意味を理解したようで頷いていた
「そして山南、全員からの帰投サインを聞かないでインカムを取った、トシさんはそういう失敗が重なるとこうなるって言ってるんだ」
沖田は急にテーブルを蹴り怒鳴り散らした
「俺達はいいよ!でも敬は現場慣れしてないんだ!ホッとしちまったて仕方ねぇじゃねか!」
「総司!いい加減にしろ!近藤さんはそういう事をしてるんじゃない!」
「沖田、そろそろやめろし」
永倉も制止したが止まらない
「あーあーみんな立派だよ!俺と敬はわかんねぇな!なんだよ!仲間が助かったんだ!そこが1番大事じゃねのか!ちぃせぇ事をガタガタと!」
「…助からなかったらどうしたんだ?お前は?」
「え?オレが絶対助けるね!オレがみんなを死なせない!」
「そうやって息巻いてた馬鹿を俺は知ってる」
「え…?」
「自分がみんなを守るんだ、仲間を死なせないってバカの一つ覚えみたいにな」
「それで?それがなんだよ!」
沖田だけじゃない、その場全員気になっているようだ
「そのバカの教え方が悪くてな、その時同じチームの奴が先走った事をしたんだ、そしたらボンっだ…」
「みんな馬鹿なんすね、だって教え方も下手、チームメイトも言うこと聞かないとか」
「馬鹿か?!お前は!いい加減に…」
土方は沖田につめよろうとしたが
近藤の拳が沖田を吹っ飛ばした
「いってぇ!何すんだよ!コノヤロウ!上等だ!」
やめない沖田にもう1発浴びせようとしたのでその場の男手が一斉全員止めにはいった
「近藤さん!落ち着いて!」
「やめろし!」
「近藤はん!手ぇ出したらアカンて!」
齋藤も沖田と近藤の間に割ってはいり山南は沖田を止めようしてた
「その場にいなかった奴が死んだ人間を愚弄するな」
沖田はハッとした自分の言った事だった
「さっきのお前と一緒だ、いない奴はなんとでも言えるんだ」
「だからって殴る事ねぇだろう!ふざけんなよ!」
「いいか?よく見ろ」
いつも近藤がいつもかけているサングラスを取ると全員絶句した
「気持ち悪いだろ?なんとかできるって思った結果がこれだ」
サングラスをかけ直した近藤は続けた
「「オレが」なんじゃない、みんなで生き残るには各々がベストを尽くさなきゃならないのに今日のお前達はチグハグだった、だからこういう結果になったんだ、それを受け止められないなら今すぐ出ていけ、早死にするだけだ」
「辞めてやるよ!クソがぁ!」
「待て!総司!」
ブリーフィングルームを勢いよく飛び出していった
齋藤はオドオドして永倉は場が悪くしていた、土方は沖田を追いかけようとしたが山南がそれを止めた
「僕がいくよ」
「追いかけるなら軟膏と絆創膏持ってき」
治療室へ山崎と一緒に山南が行った
「近藤さん、土方さん…すみません」
「永倉はわかってるとオレは思ってる、これからは気をつけてくれ」
土方は永倉の肩を叩いた後肩を組むようしてブリーフィングルームを出ていった
「近藤はんが手を上げるのは珍しいな」
「みっともない所を見せたよ」
「ええよええよ、ぶつかったらええねん、男はな、でも手加減ぐらいしぃや」
山崎も出ていった
齋藤が近藤の目の前まできて深々と頭をさげた
「イチ、お前は強い、恐らく隊で1、2の実力派者だ。だからこそ油断だけはするな、油断は死を招く…分かったな?」
首を縦に振り「ウンウン」というような仕草をしてブリーフィングルームを出ていった
「さて…総司は屋上かな」
近藤がブリーフィングルームを出たら芹沢がいた
「来たら来たでなんの騒ぎだこりゃ」
「いつもの事だよ」
「お前にしちゃ正論じゃねぇか、公安時代を思い出したか?」
「そんなんじゃない…ただ若い奴や仲間が死ぬのは見たくねぇだけだ」
「相変わらずの甘ちゃんだよ、お前は」
「かもな」
ーーーーーーーーーーーーー
「いって…あのクソ野郎本気で殴りやがって…口の中切れたな」
「出ていくって屋上じゃん」
山南が追いかけてきた
「なんだよ?」
「庇ってくれてありがとう」
「別にそんなんじゃねぇ」
沖田は山南から目を逸らした
「でも僕近藤さんが言いたい事何となくだけどわかった」
「なんだよ!お前まで説教かよ!」
「違う違う、近藤さんは沖田の事を大切に思ってるし頼りにしてるんだよ、だからちゃんと訓練しろって言いたかったんだと僕は思う」
「フン、どうだかな!」
「はい、これ」
「なんだよ?これ」
「山崎さんが沖田にって痛み止めの軟膏だって」
「…ありがてぇや、ハハ、ッいて」
「…今度一緒に訓練してくれない?」
「別に…いいけど…俺なんかより永倉さんとか土方さんに習えよ」
「じゃあそうするークソ童貞に名前で呼ばれるとかキモイし!」
「はぁ?」
「お前僕の事「敬」って呼んでたよ、キモイわー」
顔を真っ赤にした沖田が
「いってねーし!記憶にねーよ!」
「確かに言いました!」
「言ってねぇ!」「言った!」
「2人とも仲良いね」
永倉も屋上に来た
「こういう時用に3人でちゃんと訓練しよう」
山南が見よう見まねの敬礼をしながら
「わかりました!よろしくお願い致します!」
「お前なんだそれ!」
「うるせぇ、あーお腹空いた」
「なんか作ろうか?」
「永倉さんのご飯美味しいから食べたい」
「分かったよなんか作るわ」
永倉なりの心配の仕方なのか沖田の顔を見て安心したようで屋上階段から降りていった
「近藤さんにちゃんと謝りなね」
「わかってるよ!」
「それと…お願いがあるんだけど…いい?」
歯切れが悪そうに山南が言った
「お願いって何?」
「オタクって呼ぶのはいいけどブスは辞めて…流石に凹むから」
「分かったよ…悪かったよ…元ブス」
「全然わかってねぇじゃねぇか!ノンデリカシー野郎!」
「うっせぇうっせぇ早くこねぇと置いてくぞ!元ブス」
「ブスって言うな!」
急に神妙な顔した沖田に気がついた
「どうしたの?」
「いや、今更だけど近藤さんに悪いこと言ったなと…許してくれるかな…?」
「仕方ねぇな〜一緒にいってあげるから、ね?大丈夫だよ、近藤さんは許してくれるから」
「そっか…サンキュ!」
俺も訓練しよ
みんなを守るとまでは言わないけど足を引っ張らないぐらいはしとかないとな
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