第12話

「この駄馬がぁ!」

ガツッ!ドゴッ!ガツッ!

「誰がそんな事しろ言うたんじゃ!」

ドゴッ!ドゴッ!ガツッ!

「すみません!すみません!」

「すみませんだァ!すみませんなんて言葉ないんじゃあ!!」

ステッキの乱打だ

なんでこんな事になってるんだ…

俺は御仁の為に…


ーーーーーーーーーーーー


双子ってのはいちいち面倒だった

よく知らん奴からは間違えられるし、学校でも間違えられる

よく「入れ替わってもわかんない」なんて言う無能が多いがそんな事はなかった


なぜなら

俺の場合は圧倒的に奴の方が人が集まってた

テストもそこそこ、運動もそこそこ

学級委員も俺なのにいつもあいつがチヤホヤされてた

俺はテストはできて当たり前、運動は1位が当たり前

なのに奴は母親からも慰めてもらいクラスメイトからも優しくされていた

なにもかも俺の方が上なのに

「父親」からは

「俺の子なんだからできて当たり前だ」

これしか言われなかった

「父親」というモノは代々政治家だった

金に困ったことなんかない

秘書とか書生がいつもいた

なのにどいつもこいつも…小学校、中学、高校…アイツをチヤホヤしていた

坊ちゃん坊ちゃん坊ちゃん坊ちゃん

うんざりだった

俺はいつからか部屋に籠るようになった

とにかくアイツの顔をみたくなかった

部屋に籠るようになったら今度は部屋から出られなくなった

期待した

戸籍上「父親」「母親」だ

きっと俺を部屋から出してくれる

引きずってでも殴られてでも良かった

期待はすぐに打ち砕かれた

部屋のドアの前に食事が用意されていた

たまたまドアを開けたら食事を持ってきたのは秘書だった


そう、俺は見放された

幸い金には困ってなかったから好きな物も買えたからネットで注文していたので不満はなかった

もうアイツを憎む事も疲れた時「父親」の秘書の1人が俺の部屋をノックした

別に出る気はなかった

「母親」の声が聞こえた

「そこは関係ないんですよ、そこを開けると先生に私が叱られますので」

叱られるってなんだ

お前から産まれたんだぞ?

アイツがいればいいんだな?

上等だ!二度と出るもんか



トントン

ノックなんかすんじゃねぇよ

「僕新しく先生の秘書になりました××です。私は𓏸𓏸です、宜しければお顔を見せて下さいませんか?」

ドア越しだからよく聞こえないが…バカなのか?俺なんかに媚び売ってどうする?アイツらに媚びを売れ、俺に関わるな

それから食事や通販で購入した物をこの2人が運んでくれていた

1つ違うのが

「今日のお食事はカツヲのタタキですよ、旬で美味しそうですね」

「プラモデルですか?僕も好きだったんですよ」

「これは…大人が読む本ですよ、坊ちゃん。見つかったらアレなので早くしまってくださいね」

一言二言何かしら言ってきた

俺が無視し続けても彼らは俺に話しかけてくれた

あんまり気になるから顔をみたくてドアを開けた

そしたらメガネをかけた大きい人と短い髪の女の人だった

「坊ちゃん、初めましてだね。ドアを開けてくれてありがとう。」

馴れ馴れしい!ドアを閉めた

「また気が向いたらドアを開けてくださいね」

食事が運ばれた

「…ありがとう…」

「坊ちゃん、また持ってきますね!おかわり欲しいですか?」

馴れ馴れしいのがめんどくさいから部屋に入れた

メガネの秘書は俺に色々な話しをしてくれた

髪の短い秘書は俺の頭を撫でたりしてくれた

久しぶりに大泣きした

声を出して泣いた

「うるさいぞ!お前ら!ここには入らんでいい!」

メガネは小声で「またね、坊ちゃん」とアイコンタクトをしてくれた

急に部屋から出られるようになった

「父親」「母親」はびっくりしていたアイツは俺の事なんて眼中になかったみたいだ

「父親」は

「部屋から出てくるのは構わんがお前は留学してる事にしている、あまり外を歩くなよ」

こんな田舎で体裁かすぐバレる嘘をよくまぁ…さすが政治家だ

そんな中でもメガネと女秘書は俺に色々してくれた、こっそり外出させてもくれた

特にメガネの秘書は勉強を教えてくれた

それがとても面白かった

「坊ちゃん?結局は結果ですよ、坊ちゃんの方が優秀なんです、優秀な人間に人はついてくるんですよ」

「アイツにはいつも人が集まってたぞ?」

「子供はわからんのですよ、坊ちゃん?私は大人です。子供何十人より社会は大人1人を信用します、いやさせるんです。」

「信用させる?」

「そうです、大人の世界は「利」が全てです、見た目なんて二の次ですよ、「利」を掴ませてやれば大人は靡くのです」

「そういうもんか…」

「誰かの為にじゃありません、相手が欲しいモノを考え与えるそれだけでいいんですよ」

「それでもダメな場合は?」

「その場合は…有無を言わさず排除しましょう」

「排除?」

「そうです、世の中2通りのタイプがいますそれは味方と敵、敵は必要ありません、理解されないなら初めからいない方がいいですから」

メガネの話はなんだか深かった

「さ!坊ちゃん!話がそれましたね名前を書く練習を続けましょう、政治家はまず名前を綺麗に書かないと」


名前を書く練習なんて子供の頃以来だ

でもメガネが言うんだ間違いはないんだろう


ーーーーーーーーーーーー


ある日「母親」がいない日女の秘書が俺に泣きついてきた…

「坊ちゃんごめんなさいね…先生に酷い事されて…」

聞けば服を破かれ身体を触られたという…「父親」はクズだ

何が藩の為だ

人の為だ

やってる事は真反対じゃないか!

俺は許さない!

「坊ちゃんいいんです…私が我慢すればいいんです、坊ちゃんが分かってくれればいいんです。この事は私と坊ちゃんの秘密にしてください」

アレは何もなかったかのように振舞ってた

気持ちが悪い

「何見てんだ!」

フン!犯罪者のくせに笑わせる

ーーーーーーーーーーーーー


アレがメガネを殴ってた

「この駄馬がぁ!俺の顔に泥を塗りやがって!ちゃんと後援会長に謝罪しておけ!ちゃんと包んでもってけよ!」

「あーあ…お父さんの支持者が減っちゃうよ?」

「先生…金は…」

「そんなもん置いて帰ってしまえ!置いたら受け取ったと同じだ!そんな事もわからんのか!この駄馬め!」

「やめろ!このくそ親父!」

「なんだぁ?出来損ないが出来損ないを庇う…滑稽だな、目障りだ!出ていけ!」

「引きこもりが!てめぇのせいで俺はずっとハジをかかされてたんだ!部屋から出たぐらいで生意気言うなよ」


「大丈夫?」

「心配ありがとうございます、私はドジですから…」

「そんなことない!メガネは色々知ってる」

「坊ちゃんはお優しいんですね…坊ちゃんみたいな方が本来政治家になるべきなんです…」

「何言ってんだ!メガネの方が政治家になるべきだ!」

「坊ちゃん!私大変嬉しいです!先生に認められなくても…後継者になれなくても…」

「どういうこと?」

「地盤は坊ちゃんの…が継ぐ事に決まっています…私は…私は…取り乱しました…さ、坊ちゃん、お部屋に戻りましょう」

あんなに悔しそうなメガネを初めて見た



その日はみんなが寝たあと女の秘書とメガネ、3人でこっそり出かけた

出かけたと言っても近くの海だった

「私たち一体なにやってたんだろう…」

「先生の為と思って…いや、結果自分の為にだだったんだな…」

2人とも全然元気がなかった

「ねぇ、3人で薩摩を出ようよ、俺3人でいればいいよ」

「坊ちゃん?秘書なんて潰しがきかないのよ…」

「残念ながら我々の仕事は政治する為のお助けをやることなんです」

「そうです…悲しいかな…議員がいないと私たちの仕事は意味がないんです」

「そうなんだ…」

「坊ちゃん?昔僕が言ったこと覚えていますか?」

「なんの事?」

「理解し合えないって話です」

「敵と味方の話?」

「さすが坊ちゃん、私達は先生に理解されなかった…理解し合えない人間は排除するんです」

「排除?消せばいいのかい?」

「そうです」

「そんなことできないよ!殺すってことでしょ?」

「坊ちゃん…排除よ?消すの…殺すんじゃない」

「同じじゃないか!」

「殺すというのは自己理由…分かりやすく言えばわがままな行為なんです、排除は人の為にやるんですよ」

「人の為?」

「そうです、我々は本当は坊ちゃんに跡を継いで欲しかった…そのために色々やってきたんです」

「俺の為?」

「そうです、坊ちゃんの…貴方の為…貴方は私たちの希望です」

「希望…?」

「どうやればいいの?」

「まさか本気ですか?」

「本気だ!今度は俺がお前らの為にやってやる!あんな家族、俺もいらない!」

波の音が不思議と俺の心を穏やかにさせた

思うと同時に俺は走って家に向かった



「やっとだな…」

「そうね…長かったわ」

「社会を知らないガキ1人に頭を下げるのもうんざりだ」

メガネがタバコに火をつけた

「お前、先生からいくら摘んだんだ?」

「想像に任せるわ、レイプされた振りもしたけど…世間知らずには刺激が強かったみたいね、セクハラはされたのは事実だけど」

「まぁこれであの出来損ないが法廷相続人になる、後見は俺だ」

メガネの方がスーツの内ポケットから一通の手紙を出した

「それは何?」

「名前を書く練習と騙して名前を書かせた、こういう時の為に」

後見人ーーー

署名ーーーー


「相変わらず悪い人間ね」

「備えあれば憂いなしだ」



ーーーーーーーーーーー

人にはいい顔しかしない「父親」

ずっと見て見ないふりをしていた「母親」

俺の事を蔑んだ「アイツ」


メガネと女秘書だけは俺の為に…

そうだ…これは排除なんだ…排除なんだ…排除なんだ…


家の中は静かだった

「母親」は料理好きでキッチンには色々な包丁があった

申し分ない…まずはアレからだ…

よく寝ていやがる

俺は躊躇なく首に包丁を刺してやった

「ギャ!?」

血が天井まで吹き出した

ピクピクするから何度も何度も刺してやった

下半身が熱くなるのが分かった

何回か刺したら動かなくなった

次は「母親」だ

寝室は各々それぞれだ

血が汚くて臭いから今度は枕で顔をおおってらやろう

枕を「母親」の顔の前に置いた

「…ううん?」

目が覚めたのか

構うもんか

変えの包丁で首を刺した

「ギャっ!」

今度は血がかからなかったが横に飛び散った

変な噴水…

何回か刺したら動かなくなった

下半身の熱は覚めたが今度は下着が濡れて気持ち悪い


「…アイツアイツアイツアイツ…」


部屋の前までいったドア開けたらアイツは起きていた

好都合なのがヘッドホンをしてゲームをしていた

後ろから首を刺してやった

「がはァっ」

お前がお前がお前がお前がお前がお前がお前が…

何度も何度刺してやった

コイツだけは入念に、見下しやがって!

刺す度に下半身が熱くなった

下半身が熱くなりまた下着が濡れて気持ち悪い


なんだ…簡単じゃないか


メガネの言う通りだったな


もっと前にやれば良かった


家の広間に入ったらメガネと女の秘書がいた


「あーあーやるならもっと綺麗にやれよ」

「血ってこんなに生臭いのね…吐きそう」

「俺やったよ!メガネ!」

張り倒された…

「なんで……」

「汚ぇ手で触るな!後始末考えろ!」

「火をつけちゃえばー?」

「だな?さ、坊ちゃんキッチンで火をつけてきてください」

「何を言ってる…?」

「お兄さんは留学中…たまたま帰ってきたら強盗にやられてしまったんですよ、お前は奇跡的に助かったんだ、俺たちと出かけていて」

「意味わかんないよ…排除しろって言ったじゃないか!」

「そんな事言ったか?俺は」

「さぁ?聞いてないわよ」

「そんな…僕は…俺は…」

「坊ちゃん、これをみてくれない?」

女秘書がスマホを出した

俺がアイツを刺してる所がきっちり映っていた…

「貴方がやったんですよ…全部」

ワケガワカラナイ

「大丈夫、俺が全部上手くやる、坊ちゃんは俺の言う通りにしたらなんの心配もない」

ワカラナイワカラナイ

「さっまずは着替えなさい…今日から坊ちゃんが「中村半次郎」だ」

ハンジロウ?

アイツの名前じゃないか

「吉之助、何か分かってないよ」

「全部説明すんのめんどくせぇな、今日は兄貴の方が死んだんだよ、お前は半次郎なんだろう?死んだのは孝太郎だろう、鏡を見てみろ」

コレはダレ?ソウダ、双子の弟だ、なんでも持ってた半次郎だ…僕は半次郎だ!

「僕は半次郎…僕は半次郎…僕は半次郎…」

ーーーーーーーーーーー

それからのことはよく覚えてない

吉之助と利恵がどうやったかしらないが俺は捕まる事はなかった

狭い田舎だ…色々噂は立ったがどうとでもなかった

「生き残った唯一の息子」

チヤホヤされるのは気分が良かった

「カゾク」と呼ばれたモノ達の葬式の後、弁護士がきて色々書類を俺は書かされた

「おや?署名欄のお名前が…」

すぐに吉之助さんが割って入ってくれた

「すみません、本人はショックで記憶が」

「あ、では作り直しますので改めてまた伺いますね」

「御足労お掛けてして申し訳ない」


「この駄馬がぁ!お前は半次郎だろう!」

吉之助さんは俺を「駄馬」といいながら砂が入った袋で俺を殴った

「ゴメンナサイ…ゴメンナサイ」

「おい駄馬!お前の名前なんだ?言ってみろ!」

「ハンジロウ、ハンジロウ、半次郎です、俺は半次郎です」

「よぅし、分かってきたじゃないか」

「半次郎さん…せっかく生き残ったんだから、自分の名前大切になさいね」


「父親」の遺産管理は吉之助さんがやっていた

金の事はよくわからないからそれで良かった

「半次郎、これからは俺たちは一緒だ、なーにお前がした事は何も間違えてない、これからまた色々教えてやる」

「半次郎…大丈夫、私たちがついてる」

そうだ…この2人がいればなんでもできたじゃないか…


その日テレビでは

「西郷隆盛、悲劇の中村知事の跡を継ぎ知事選を圧勝で当選」

ニュースで1色だった…

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