第11話

トントントン


「空いてるぞー」


「失礼します」

土方が神妙な顔つきで自室に入ってきた

机を挟んで近藤と土方が相対した


「トシさんか、どうした?」

「近藤さん…実は」

「芹沢さんの事か?」

やっぱり知っていたかと土方は場が悪い

「平岡の事…隠していてすみません」

「前も言ったけど謝ることなんてない、逆の立場なら俺だって言えないよ」

「違うんです!その事ではなくて」

「ん?」

「平岡の提案に乗りかけて…近藤さんが万が一芹沢を庇いだてするなら…と思ってしまいました」

「ハハハ、トシさんは真面目だよな、言わなきゃ俺は知らんかったのに」

「ケジメを…と思いまして…自分の弱さに嫌になります」

「強さってなんだろうな」

窓際に立ち外を見つめながら近藤は続けた

「逆に俺が迷ったせいでトシさんを悩ませてしまったね…申し訳ない」

深深と頭を近藤は下げた

そんな近藤を引き起こすように

「貴方が謝る事なんて何もないです!やめてくださいよ!」

「俺にとって隊員達は家族と思っている、もちろん鴨さんもだ、だから少しだけ俺に任せてくれないか?この件については俺が全部被るよ、もし平岡あたりがなんか言ってきても無視するといい」

「分かりました…ただ…芹沢さんを…」

「それ以上は言うな」

「失礼しました…でも近藤さん、俺にも話てください、俺たち仲間なんで」

「ありがとうトシさん」

「では、失礼致します」


スマホを取り出しスクロール


「ダメ元でかけてみるか」


ーーーーーーーーーーーー


ブーブーブーブー

スマホがなった


「なんだよ」


ーお?鴨さん、今どこにいる?ー


「お前に言う必要あるのか?」


ーいや、たまには2人で飲みたくてな、付き合ってくれないかとー


「……いいぜ、場所を教えるから来たきゃ勝手にこい、神座町ブロンド街の摩天楼って店にいる」


ーOK、今から屯所を出るから先に飲んでてくれよー


「俺は待つのが嫌いだ、遅いと適当に出ちまうからな、さっさと来い」


ブチ


鴨さんはいつもぶっきらぼうだ

しかしまた居なくなる可能性もある

急がないとな

自室の扉を開け共有スペースへ

山南はもう寝たのか姿が見えなかった

「悪いな、誰か今から車だせるか?」

「バイク2ケツでいいっすか?」

沖田は実の所まだ車の運転ができない、飲んだ後に2ケツで乗るのは少々不安だ

「眠そうじゃねぇか、さっさと寝とけ」

「待ってました、実は寝よっかなと思ってたから一応言っただけなんだ」

いつもこう調子のいいやつ、でも憎めない

山崎、永倉が齋藤に何か教えていて土方はPCで書類をつくっていた

「こんな時間に?」

「どこ行くん?」

「ちょっと神座町まで」

何故か齋藤がルンルンに近寄ってきた

「イチ、今日はお留守番だ、お酒を飲みたくなってな」

齋藤は近藤の上着の裾をひっぱってタダをこねた

「そんなにかからないから、待ってるんだぞ?」

齋藤は不満そうにしていたが理解したみたいで近藤から離れた

「俺が行きます!」

土方が上着に手をかけた

「いや、トシさんは俺の留守中に備えて欲しい」

「出してもええんやけど最近寝付きが悪くてさっき俺クスリ飲んでしまったからなぁ…」

山崎は少々不眠気味のようで眠剤を飲んだらしい

「俺で良かったら出すよ」

珍しく永倉が

「助かるよ、トシさん留守を頼む」

「わかりました」


「じゃあ行こうか永倉」

「車まわすから正面で待ってて」


少々気が重いな

ーーーーーーーーーーーー

「っー事だこれで話は終わりだ、お前と話す事はねぇよ」


昔あったアメリカの野球チームキャップを深く被りメガネを掛けた男が横に座っていた


「先約はこっちなのに帰れとは偉く傲慢だな」

「俺は話があるって言っただけだ、来るも自由、聞くも自由、聞かぬも自由、てめぇが勝手にここに来て座ったんだろう?それにてめぇじゃ話にならんと言ってるハズだ、対面じゃなくてもリモートでいいから話をさせろ、それとも芋と黒豚しかねぇ所に電波なんてねぇのか?噂通りの田舎モンだ」

野球キャップの男は拳を強くにぎり耐えるよに下唇を噛んだ後に一呼吸した

「ふぅーーー…喋りたいからと言っておいそれと話ができる御仁と思ったら大間違いだ」

そう言うと野球キャップの男は殺気丸出しで芹沢を睨み胸ポケットに手をかけた瞬間、芹沢は持っていた箸を相手の首元を突きつけた

「思考もできない飼い犬風情が俺に殺気か…バカの1つ覚えだな、やるなら殺気ぐらい隠せ、これでお前は1回死んだぞ」


「ちょっと!店が汚れるから出ていきな!」


「フン!御仁と話をしたければそれ相応の物を出す事だな!」

捨て台詞を吐きながら野球キャップの男は店を出ていった


「ありゃあモテないね、せっかち過ぎる、女の扱いも雑そうだ…あ!あいつ自分で飲んだ分金払ってねぇ!」


「あんなのに抱かれる女なんていねぇよ、それに飲んだのはジュースだ、そんな端金も女の前で落とせない男はド三流だ」

言うと同時にグラスの酒を飲み干しタバコに火をつけた

「おかわりでいいかい?」

「あぁ頼むよ、あんたも飲むかい?」

「遠慮しとくよ、店もまだ開けてるし…粗暴な男と飲むのはアタシ嫌いなんだ」

女はタバコを吐きながら答えた


ーーーーーーーーーー

この時間でも平成通りは車が多いな、さすがは神座町だ

「ここでいい、帰りはタクるから大丈夫だ、先に帰っててくれ」

「釈迦に説法だけど飲みすぎないでね」

「あぁ、わかってるよ」

車のドアを閉めたらすぐに永倉は車を発進させて帰っていった


神座町は眠らない街、この時間でも人が多い

ブランド街は神座町の一角にある飲み屋街で芹沢はよくこの辺りで飲んでいた

治安の良い街とは決して言えないがここの一角は街の奥まった位置にありながらも比較的安心して飲める


カランカラン

「いらっしゃい、お一人?」

カウンター越しに出迎えたのはピンクに髪を染めライダージャケットを羽織った女だった

「待ち合わせなんだが…あぁ適当に焼酎を頼むよ」

「焼酎ったって銘柄ぐらい言ってくれないと困るさね」

「キンミヤあるならそれで」

「ロックでいいのかい?」

「それで頼むよ、悪い待たせて」

「本当だ、もう河岸を変えようかと思ってたわ」

そう喋りながら芹沢はポケットから輪ゴムで束ねた金をピンク髪の女に投げた

「これでちょっと店借りるぞ」

人払いの合図だろう

「あんたねぇここはアタシの店なんだ、それに客の話になんざ耳をかさねぇよ、出てけと言うならおまえらが出てけ、でも金は貰う」

と言うとカウンターから出てテーブルに何種類かの酒瓶を置き店のドアの札を変え女は厨房に入っていった

これで俺たち2人貸切

そういう気遣いは素直に有難い

「誰かといたのか?」

「さぁな」

「鴨さんこの前は屯所に来てくれてありがとう」

「なんの事だ?」

「俺の不在を察してくれたんだろう?」

「別にそんなんじゃねぇよ、時期的に考えりゃ分かる」

「そうか、あんたは俺の事知ってるか…」

「月命日にはいつも行ってるだろう、でもな?元々お互い命と体を張る仕事をしてたんだ、平穏な物なんて望んだお前が悪い」

痛い事を言われた

「かもな…俺は望み過ぎたのかもしれないな」

グラスの酒を飲み干しボトルの酒を注いだ

芹沢はタバコに火をつけた

「フー、いや、お前は分かってない、なんだあの馴れ合いは」

あきれ口調で言った

「みんな何かしら傷はある、それを補い合って何が悪い」

「そうじゃない、感情移入し過ぎた。お前の悪い癖だぞ」

「あんたとは考え方が違う」

「だな、お前はいいモノを持っているのに変に聖人ぶる、正直腹が立つ」

「あんたは敢えてワルぶって壁を作っているように見える、滑稽だよ」

「そんなんじゃねぇ!コマはコマと割り切らねぇと仕事に差し障りが出る、俺は必要になったらお前でも殺すぞ」

「例えそうなっても俺はあんたに殺される訳にはいかない」

暫しの沈黙の…重苦しい空気

芹沢は新しいタバコに火をつけた

「お前の家族の事は同情する」

「そんな感情があんたにあるのが驚きだ」

「腹は立つがお前を認めてんだ、俺は。前に言ったろう?感情に流されず仕事をお前はしたと」

飲み干したグラスに氷を入れながら近藤は答えた

「買いかぶり過ぎだ、それしか生きる方法を知らなかっただけだ」

カランカラン…氷の音が響く程の静寂

近藤はマッカランの瓶を取りグラスに注いだ

「俺にもくれよ」

芹沢は一気に飲み干しグラスを出す

「家族が刺殺…挙句の放火だ、普通の神経なら耐えられない」

「俺はどこかおかしいのかもな」

「おかしくねぇ奴を見た事あるか?」

窓の外から救急車のサイレン

さすがは眠らない街だ

外で酔っ払い共の喧嘩が聞こえるくらい店内は静まりかえっていた

どれくらいだろう、2人は言葉も交わさず酒を飲んだ

静寂を破ったのは芹沢だった

「仮に…俺がお前の仲間やお前に銃を向けたらどうする?」

「黙って殺されくらいなら足掻いてやるさ」

「……つまらねぇ答えだな…」

芹沢が席を立ち上着を羽織った

「お前は何も分かってない、てめぇが家族ごっこしたってそんなもん偽モンだ、偽モンに感情移入したって満たされるものなんかない」

「偽モンでもなんでもこんな俺を慕ってくれる人間くらいは今度こそ守るさ」

「…一生やってろ…くだらねぇ、おい!店の札変えろ!金は足りてるだろう!」

バァン!勢いよく芹沢は出ていった

ーーーーーーーーーーーー


「雨かよ…」

芹沢はパーカーのフードを深く被り繁華街の町へ消えていった


ーーーーーーーーーーーー


「男ってめんどくさい生き物だね」

厨房からピンク髪の女が出てきた

「めんどくさいんじゃない、不器用なんだよ…あの人は。長居して悪かったね、いい店だよ、ここは」

「よしておくれよ、こんな小汚い店」

「いや、いい店だ。また来させてもらうよ、いくらだい?」

「さっきの奴から充分すぎるくらい貰ってるよ」

「自分で飲んだ分ぐらい払うさ」

財布を出しカウンターに金を置いた

「迷惑かけた、今度は明るい酒を飲みにくるよ」

「またどうぞー」

知らぬ間に雨が降っていた


濡れて帰るのも悪くないか…

平成通りまで走ろうと意気込んだ時


「傘ぐらいさしたらどうですーー?」

聞きなれた声だ

と同時に齋藤が抱きついてきた

「屯所で待ってろって言ったろう、俺の場所はGPSか?」

そんな言葉を耳に入れないように齋藤は近藤に傘を渡した

「すみません…ダメなのは分かっていましたがどうしても齋藤が行くと聞かないので…」

「丁度良かったよ、ありがとうトシさん、この雨だ、濡れないに越したことはないよ」

齋藤はちょっと不貞腐れながら土方の方を見た

場が悪そうに

「なんだよ!そんな目で見んなよ!」

実の所は違うのだろう

喋れない齋藤をダシに使ったんだろうな

「近藤さん、屯所で1杯飲みませんか?」

「飲みなおすか、1杯だけな」


ごっこだろうがなんだろうが今の俺には心地がいい

もう迷うな…この生き方しか知らない

俺はもう1人じゃない


ーーーーーーーーー


くそ!くそ!御仁をバカにして!

許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない


野球キャップの男は爪を噛みながら憤慨していた、噛みすぎて左手親指から出血していた。

あの男を殺してやりたいが今は場所が具合悪い、ここでは自分はいてはいけない存在


「録音データを流してやれ…これでアイツは終いだ」



爪を噛むのをやめニヤつきながらスマホを操作した

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