第10話

近藤が数日屯所を空けた

これはそうそう無いこと

戦術狼のメンバーは個室をあてがわれるが屯所以外でも緊急事案に対応できるのであれば自分の家を持つことが許されている。

もちろん家賃は戦術狼

しかしほとんど者というか芹沢以外屯所で寝泊まりしているのだ

屯所にはシャワー室もキッチンもある

正直普通に暮らすなら申し分ない、ただ部外者が入れない為そこだけがネックだが意外とその不満を言う隊員は居ない

永倉なんかは休暇等で実家にちょくちょく帰ったり沖田や山南、土方なんかも屯所を軸に遊びに行ったりしているが近藤は基本休まない、隊員達と食事に出かける以外は1人で出かけてその日に帰ってくる

そんな近藤が帰ってこないのだ1日帰ってこないだけでも齋藤あたりはソワソワしたり土方も落ち着かない

2日になると沖田、山南がやいのやいの邪推しだすくらいだ

芹沢がいなくても気にもとめないが近藤は逆にそれだけ信用されているという事

この度は3日…土方なんかはもう自責の念に駆られて瞑想までしだした

「土方はん?この前の事は気にせんと」

「そうは言っても…やはり言い過ぎだと」

「そのうちひょっこり帰ってるわ、そういやべっぴんさんが最後に会うたんよな?どこ行くか聞かんかったんか?」

齋藤は凄い勢いで首を横に振った

「どこいったか聞きたいって顔しとるな」

「でもさー本当にどこ行ったんだろうね?GPSとかも切ってるっぽいよ」

山南がPCのモニターを見ながら入ってきた

「みんな落ち着こうよ、そのうち帰ってくるって大人なんだし、それより腹減ったな」

永倉は気にしてない素振りを見せた

「もしかして…首でも括ってるとか…?」

沖田がスマホを見ながらニヤついてた

「あーーー土方さんに怒られたぁ!もう生きてけなーーい」

ガッ!

ペットボトルが飛んできた

「いってーな!オタクブス!」

「あんたね!デリカシー無さすぎ!」

どうやら投げたのは山南だ

「冗談に決まってんだろ!」

齋藤なんかは凄い勢いで沖田を睨んだ

「ちょっと…マジになんないでよ…悪かったよ…」

沖田なりの緊張解しだったのか場とタイミンクが悪かった、そんな時

「雁首揃えて暇だな、てめぇらは」

珍しく芹沢が入ってきた

「おおー芹沢はん、珍しいやん」

「飲み屋が開いてねぇんだよ」

「そかそか、それならここで飲んだらええ」

「なんだぁ?近藤がいねぇのか?それくらいでガタガタ言ってんなよ」

タバコを咥えながら芹沢が言った

「禁煙の文字も見えねぇのか?!」

「あぁん?誰にてめぇ口聞いてんだ?」

「お前だよ!」

「あーあまただよ」

「ちょっとやめぇ!喧嘩すんなら表で」


「ただいま、なんだみんなして、珍しいな芹沢さんまで」

近藤が帰ってきた

芹沢を押しのけて土方が駆け寄った

「近藤さん!おかえりなさい!心配しましたよ…本当に…」

「お、おぉ…なんかすまん」

「GPSまで切って、何やってたんですか?!」

「ちょ、ちょ待ってくれどうした?話が見えん」

「土方はんはこの前の事気にしとったんや」

山崎が言った

齋藤は嬉しさを隠せないのか駆け寄ってきた

「なんだよイチまで、あ!それよかちゃんと検査したんか?」

忘れてた…と言わんばかり顔を背けた

「ちゃんとやれって言ってるだろう?山崎さんもやってくれよ」

「あんたが帰ってけぇへんから心配でそれどころじゃなかったのか治療室入らんのよ」

「今からやってやってくれ、イチ、山崎さんの言うこと聞くんだぞ」

「ちゅ〜こっちゃ、べっぴんさん、はよ済ませるからこっち来て」

山崎の後を齋藤がついて歩くが近藤が気になるみたいで何度も振り返った

「俺も行くから、ちゃんと検査してこい」

場が悪そうに土方が口を開いた

「近藤さん、この前は言い過ぎました…すみませ…」

「なんの話??読めない読めない」

「いや、その…」

「なんの事かすまんがわからんけど歳さんが気にする事をじゃないよ、心配かけて済まなかった」

「おかえりーー!お土産とかないの?」

沖田はいつもこうだ

「お前さぁ〜…まぁいいや、近藤さんおかえり」

「お、オタクと童貞コンビただいま」

「帰ってきてそれは無いでしょうよ!」

「僕はね、オタクじゃないの!推し事なんだよ!」

「わかったわかった!荷物ぐらい置かせろ」

「随分と長かったね、連絡ぐらいしろし」

永倉いつもこんなだ、愛想がない、でも気にはしていたみたいだ

「悪かったよ、心配かけて」

「別にいいんだけどね」

そう言って永倉はキッチンに向かった

「珍しいじゃないか、芹沢さんが屯所にいるなんて」

「ふん、どこにいようと俺の勝手だろ?しかしお前がいないだけでこんななんのか?」

「話が全然見えねぇけどそうみたいだ、おちおち出かけられんから芹沢さん、あんたもたまにはここにいてくれ」

「お前が死んだとかなら考えてやるわ、あータバコ吸いてぇ、屋上まで行くのめんどくせぇな」

タバコを咥えながら芹沢は屋上階段へ

「アイツは何考えてんだか…ねぇ近藤さん?」

土方はやっぱり真面目だ

気にするなと言われると余計に気になるタイプ

「そういうなよ…不器用なだけさ、この度だって俺の不在を知って来てくれたんだよ、たぶん」

「そうですかね……そうだ近藤さん今度時間作ってもらっていいですか?話たい事が…」

「ん?あぁ…じゃあ適当な時に声かけるわ、ちょっとイチの検査を見てくる」

「分かりました、…クソ、喫煙所に行けねぇな…外行ってくるか…」

「お前さぁ!」「なんだよ!」

沖田、山南はまだ言い合ってる

「お前らいい加減しとけよーそんなに仲良く喧嘩してぇなら外でやってこい」

「「誰がこいつと仲がいいんですか?!」」

ハモった、やっぱりいいコンビのようだ

ーーーーーーーーーーーー

山崎の治療室は結構な物でちょっとしたクリニックだ

簡易的な手術室まである

山崎は薬物検査等もできるのでとりわけここは拘ったらしい

「どうだ山崎?」

検査の結果を近藤が尋ねた

モニターに映した検査結果を見ながら山崎は後頭部を掻いていた

「うーーーん…毎度思うが薬物投与や処置が雑な子宮摘出…全身の裂傷痕…このべっぴんさんはどんな暮らししてたんか?ようここまで生きてたなと思うわ、医者として」

「そんなにか?」

「普通に考えりゃどっかで死んでてもおかしないで?」

「言葉の方はどうなってる?いつか喋れるようになるのか?」

「外科的な問題しか分からんからちゃんと設備の整った専門の機関で検査をしたい所やな」

「それはさせない、あの娘をこれ以上好奇の目や実験材料にさせたくない」

「そやな、不謹慎かも知れんのは覚悟で言うが医者としてめちゃくちゃ興味あるで」

「聞かなかった事にするよ」

「助かるわ、大意はないのは理解してや」

「わかってるよ」

「表質性言語障害ってのは理由がハッキリしてないんよ、そもそも人間は脳ミソを30%も使ってないある種のリミッターがあって外れると…例えるなら非科学的な話をやけど火事場の馬鹿力みたいなもんができるわけ。一応検査したけども脳にも損傷はない、ここから俺の憶測やけどこのべっぴんさんはサヴァン症候群なのかもしれんわ」

「サヴァン症候群?天才児みたいなやつか」

「ご名答、恐らく表質性言語障害が起きる前からこの娘はうまく喋れんかったんちゃうかな?」

「目がとんでもなく良いのもそれか?」

「そうとも言えるしそうでは無いとも言えるな、そのせいなのか精神が未熟でたまに子供みたいな事しよる、さっきも検査着に着替えろ言うたらその場で服脱ぎだしたわ」

「そうか…山崎さんありがとう、また診てやってくれ」

「えらい肩入れしとるな?」

「山崎さんまでやめてくれ」

「ちゃうちゃう、違うよ、分かってるって!」

「この娘はとんでもない生き方をしてきたんだ、恐らく「痛い」って事が分からんこともありそうだから目を配ってるだけだよ」

「あんたこのべっぴんさんの事知っとん?」

「まぁ…ウワサ程度だけどな」

「なになに?」

「うーん…昔聞いた事あんだけど盗みに見せかけて親だけ殺して子供だけさらったり孤児を連れて帰って暗殺者に仕立てて国内や海外に売る組織があるって聞いたんだ」

「まさか…このべっぴんさんがそれ?」

「と思うと合点がいく、パーソナルデータを書き換えようにも元データがなかったりするからな」

「とんでもない奴らがいるんやな」

「だよ、本当に…」

「お?目が覚めたみたいや」


ーーーーーーーーーーー

治療室から出るといい匂いがした

どうやらカレーの匂いだ

「美味そうな匂い!カレー!カレー!」

沖田はもう食べるき満々だ

「童貞の分は無いかもよ?」

「オタクに食わすなら捨てるかもなぁ」

お決まりのコンビ

「カレーかいいな!俺にも寄越せよ」

芹沢も匂いに連れて屋上から降りてきた

作ったのは身体がでかいのかエプロンが小さいのかアンバランスな永倉だ

こう見えて料理が上手い、ちょくちょく隊員達に料理を振る舞う

「近藤さん帰ってきたから沢山作ったよみんなで食べて」

これが永倉なりの出迎え祝いなんだろう

丁度土方も帰ってきた

「おぉーーーカレー!」

持っていた袋にはビールが入っていた

「てめぇ1人だけ酒かよ」

「お前も飲みたきゃてめぇで買ってこいよ」

「そんな事言ってぇ〜なんで6本も持ってんすかぁ?」

沖田が茶化しにきた

「全部飲む気で買ってきたんだよ!仕方ねぇからてめぇにくれてやらぁ」

袋から取り出して芹沢に投げた

「たまにはお前も気が利くな」

「うるせぇ」

「近藤さんも飲んでください」

「ありがとう、でもなんかあったらマズイから俺は飲まんよ」

「近藤はん、あんたが飲まな土方はん飲めんよ?ええやん1本くらい、なぁ?土方はん」

「飲んでくださいよ、近藤さん」

「なんかあったら俺が運転したるから」

「お前らいちいちめんどくせぇなぁ」

芹沢はもう飲んでいた

「じゃあ1本貰うよ、ありがとう歳さん」

永倉がちょうどカレーをよそって持ってきた

「ぼさっとしてないでみんなに配って」

あれよあれよと人数分行き渡り各々が食べたした

「かぁーうんめぇ!」

「うん、美味しい、永倉さんありがとう」

「辛いなぁ〜でも美味いわ」

揃って飯を食う、ちょっとした合宿のようだ

玉ねぎ、じゃがいも、人参、鶏肉

とろみが強いカレーで辛みも丁度いい

野菜がデカくきってあったり鶏肉がでかかったりと永倉らしい切り方だ

デカい具をルゥに絡ませスプーンの中にご飯とルゥをいい塩梅にすくいまさに1口カレーにして口の中に放りこむ

具がデカいから食べ応えがある

美味い!

こうやってみんなで飯食うと思い出すな…

「俺は蕎麦屋のカレーが好みなんだよ酒にあう」

「文句言うなら食うな」

永倉に1票

そりゃそうだ

「おい!齋藤さん!めっちゃ飛んでる!きったねーな!」

イチは美味いのか皿を食べるように顔を皿に近づけて食べている

ただ食べ方が雑だ

「お前さぁ!汚ねーとかいうな!このノンデリカシー男!イチちゃん、スプーンはこうやって持つの、僕の真似をしてみて」

齋藤が山南の持ち手を真似ていた

「まず口拭いてやれよ」

永倉が齋藤の口を拭く

「それで口に入る量を調節して口の周りにつけないように食べるんだよ?こうやって、そうそう」

山南は齋藤に優しい、沖田にはこんなに優しくはない

「てかさ…?ガキの頃教わらねぇの?飯の食い方とかそういうの」

さすがノンデリカシー

「お前さぁ?口にもの入れたまんまの奴が食事の仕方なんて講釈たれんな」

山南に1票

「そやで」「ウンウン」

2票増えた

「まぁああならなきゃいいんじゃね?」

顎で芹沢をさした

芹沢は山南の椅子にすわり足を立てながら酒を飲み風俗サイトを見ながら飯を食べていた

「ちょっと!僕のパソコンでエロいの見るな!」

「お前のパソコン快適だから使わせろ、おぉ!こいついいなー!」

もっと混沌としていた

「あれは行き過ぎやろ、プっ…」

山崎が土方を示した

土方はカレーに手をつけず合掌し瞑想していた

「食べないの?冷めてるから温めようか?」

永倉が気を利かせたが

「あ、俺猫舌だから冷ましてたんだよ」

「あの合掌は何よ?」

「時間もったいないから瞑想してた、そういや近藤さんは結局どこ行ってたんです?」

これから酒飲もうとしてる人が瞑想してなんのご利益があるのか謎である

「土方はん、とりあえず酒飲みなはれ」

山崎が気を利かせた


みんなで食うと美味いな



新しい仲間達とずっとこんな日が続けばなと思ってしまう

俺はもう団欒なんて縁がないと思っていた

神様ってのがいるなら願いたい

こんな俺でも仲間と楽しく飯食うぐらい許してくれるよな


楽しい時間はあっという間に過ぎていった




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