第8話
私は人形
意志を持たず、ただ命令に従う
まだ小さかった時、施設ではそう言い聞かされて育った
私はいつも番号で呼ばれていた
37番
それが私の名前だった
施設には私と同じ歳ぐらいの子達が集められていた
37番は下から数えた方が早い
施設では刀のお稽古、鉄砲のお稽古、組手のお稽古、知らない人のお家に入るお稽古、お薬を飲んでテレビを見るお稽古
沢山やったけど私は鉄砲のお稽古は全然向いてなかった
「このメスガキが!もっと早く当てられないのか?!」
施設では「先生」と呼ばれていた人の周りに居た人達から鉄砲のお稽古の後は叱られた
私は全然できなかったからご飯も食べさせて貰えなかった
それが悔しくて刀のお稽古と組手のお稽古、知らない人の家に入るお稽古は頑張った
「37番は銃器はやっと規定に足りるレベルですが接近戦訓練、潜入訓練が群を抜いていますね、体の柔軟さと動体視力が凄いんでしょう、37番には恐らく銃器の弾は止まって見えてると思います」
刀のお稽古の時は褒められた
嬉しかった
止まった世界
そこに刀を振れば綺麗にやれる
飛んでくる小さい弾
私にはどうってことはなかった
ただ弾き返してる
どうしてみんなできないんだろう
こんな簡単なのに
「君は刀が上手いね」
テレビを見るお稽古の後唐突に話しかけられた
歳は私より少し上の男の人
「ボクは君ほど上手く刀のが使えないよ、今度教えて欲しいな」
先生達からよその人と話しちゃダメだって言われてるのに…
「あ、ここじゃ話せないか…おいで」
私の手を取って走り出した
2人でよその人のお家に入るみたいに先生たちから隠れて
「ここは綺麗だろ?僕はここが好きなんだ、ここから出られる時がきたら君は何をしたい?」
ここから出る?何を言ってるんだろう…ここから出られる訳ないのに
「僕は9番、君は…37番なんだね、番号だと呼びづらいね…じゃあミナだ。僕はココって読んでよ」
9と37
確かに呼びづらい、物心着いた時から番号だったから名前というのがよくわからない
でもなぜかとても嬉しかった
ーーーーーーーーーーーー
それからココとはよく会った
刀の練習に付き合ったりした
ココは拳銃の撃ち方、人との喋り方を教えてくれた
ご飯がない時こっそりココが分けてくれた
ココといるのが楽しかった
ココに褒められるのが嬉しかった
「ミナは本当に凄いね、一緒にこの場所を出たら何をしようか?」
「ミナの好きな食べ物を一緒に食べよう」
ココといる時が幸せだった
ココは寝転がりながら私に聞いた
「ミナ、知ってるかい?最終試験に合格すると外に出られるんだって」
私はココと一緒ならこの塀に囲まれた世界で良い
「僕とミナは実地訓練も終わりそろそろ最終試験だ、あと少しで自由になれるね」
ココは嬉しそうだった、こんなに楽しそうに喋るココを初めてみた
「こんなとこ出て2人で外に出よう、ミナ知ってるかい?外の世界では「お祭り」ってのがあってね?なんか美味しい物が沢山売っててみんなが楽しそうにしてるんだ」
お祭り?美味しい物が売ってる?別に外で食べる事なんてない、わざわざ外でご飯なんて食べなくていい
でもココが楽しそうって言うなら楽しい所なんだろうな
「最終試験、2人で合格して一緒にお祭りに行こう」
そうやってココは右手の小指を突き立てた
ーーーーーーーーーーーー
今日はひと月に1回くるお腹が痛い日だ
身体が重い…
先生達が入ってきた
「37番、これからお腹を治してあげる、この薬を飲みなさい」
薬を飲んだらボーっとしてきた
気がついたら見知らぬ天井の部屋だった
お腹は痛くない…痛くはないけどなんか変な感じだ
お腹には包帯が巻いてあった
外で先生達が喋ってた
「最終試験前に重しが取れて良かった」
「37番は高く売れるぞ」
重しってなんだろう、そうか痛くないから重たくないのか
やった!
これで練習もできるしココにも会える
ココに会いたい
ーーーーーーーーーーーーー
「37番、入りなさい」
先生達が沢山いた
「これから最終試験だ、37番、好きな武器を使いなさい」
テーブルに拳銃、サブマシンガン、ナイフ、警棒、日本刀
私は迷わず日本刀を選んだ、1つだけという訳でないのでナイフも選んだ
「これから5分以内に相対する者を倒せ、手段は問わない、練習の成果をみせなさい」
今日は練習…?じゃない
これに勝てば私は外に出られるの?
ーーーーーーーーーーーー
いつもの訓練場だ
違うのは色々な物が置いてある
そして…
私の目の先には目だけ出た黒い仮面を被ってる人がいる
両手には銃を持っていた
「テストカイシ、テストカイシ、セイゲンジカンゴフン」
ビーーーーーー!
けたたましいブザー音がなった
音と同時に
相手が距離を詰めながら両手の拳銃を撃ってきた
なんてことはない
刀で弾き返せばいい
間合いを取り懐に入り下から切り上げる
いつもやって事だ
拳銃は…どうせ9mmだろう、装填数15発両手だから×2
相手は距離を保ち私の利き手を執拗に狙ってきた
武器さえ壊せばいいという考えか…なら…
15…9…3
2発くらい食らっても直撃じゃ無ければ問題ない
外に出るんだ
ココと一緒に
バキン!
銃弾を受け流していた刀が折れた
その隙に相手はリロード
私はナイフを投げた
ウッ
少し外れたが心臓横に刺さった
私の勝ちだ
スピーカーから先生の声がした
「37番!相手にトドメをさせ、じゃないと君も失格だ」
倒れている相手にトドメを刺すのは気乗りしない
もう勝敗は着いてる
でも合格しないと外に出られない
ごめんね
「……ハァハァ……ミナは強いな」
ん??ミナ?聞いた声…
仮面を外した
ココだった
そんな…どうして…どうしてココが
「僕の任務は君が感情をどう殺すか、君の理解を…得て…君の…」
もう喋らないで…誰か、誰かココを助けて!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!
「ミナ…本当にミナは優しいな、人殺しなんてミナには向いていない…ハァハァ…僕の事は気にしないで…お祭り…い…き…た」
ココから力が抜けた
先生達が入ってきた
「37番!君は最高だ!ここの施設始まって以来の逸材だよ!」
「くそ!!この出来損ないめ!てめぇにいくら賭けたと思ってる!」
ココの先生が怒っていた
「私の勝ちだな、さっ!37番、一緒に来たまえ」
「このクソガキ!いつも落第点だったくせに顔だけはいいから色仕掛けさせてこのザマかよ!」
ココを悪く言うな!
ヒュン
37番のナイフが白衣の男の首を切った
「…へ?何これ…ぎゃーーー!」
「37番!何やってる!」
みんなみんな死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
警報が鳴った
「最終試験場で実験体が暴走した!警備兵は武装の上、最終試験場で迎え撃て!」
「馬鹿!生け捕りだ!こいつ1個作るのにどれだけ時間…」
言い終わる前に37番のナイフが首に刺さった
「かはっ…なん…で」
ココをバカにする奴は許さない!
何人来たって知るもんか
命なんて惜しくない…
試験場出口にワラワラと武装兵が並んでいた
「麻酔弾準備良し!」
「撃て!」
バス、バス
こんなもん…抜いて…みんな殺してや…
ーーーーーーーーーーーーーー
あれからどれくらいだっただろう
手足と腰で拘束されて身動きとれない
外で話し声が聞こえる
「どうなんだ!37番は!」
「あの…身体的には何も問題ありません…脳波やCT、MRIも問題ありません」
オドオドしながら答えてる
「じゃあなんで喋る事ができないんだ!それにあの髪の色はなんだ!」
喋れない?髪の色?
「相当にストレスがかかると髪の色が変わる事は少数報告があります、こちらが言っている事は理解しているのですが…恐らくですが表失性言語障害かと」
「なんだそれは!」
「読み書きはできますし言っている事も理解しているのですが年相応の言葉が表現できないし感情も欠落しております、脳に異常が見られないですが恐らく投薬による副作用の恐れも…」
「なんてことだ…買取先まで決まっていたのに…」
私は欠陥品か…捨てられるのかな
もうなんでもいい…今はとにかく眠りたい…
ーーーーーーーーーーーーー
人殺ししかできないまともに喋れない女なんて行先は決まってる
他人にはあって私には無いもの
そのおかげで男は喜ぶ
私が喋れないからそれを喜ぶ奴らに抱かれるものもう慣れた
もうどうなってもいい
こんな世界…
ーーーーーーーーー
「ほら!ここで男になってこい!」
「嫌っすよ!俺は純血を守ってるんです!」
「バカ言うな、ショットガンは撃てる癖に女にはダメなのかぁ?」
長身でサングラスを掛けた男と身体のラインが綺麗で痩せ型の男がニヤニヤしなが喋っていた
「すみません…あいにくすぐにご案内できる娘が…」
店長が平謝りしていた
顔を合わせないように帰ろうとしたら長身の男が私に気がついたようだ
「ん?あの子は上がりか?」
「えぇ…あの子はもう上がりです,ここを通るなと言ってあるだろう?」
店長に怒られた、他人にどう見られようと関係ない
「おい、ここは女を買う所だろう?あの娘、俺が買った」
細身の男が飲んでいたお茶を吹き出した
店長も驚いている
私を買う?どうせ物珍しさで買って飽きたら捨てるんだろう
「いや、お客様その…金額が…」
「ん?あぁここに請求書送ってくれ、即日払うわ」
「近藤さん!マジっすか??寂しくて頭おかしくなったの?」
「うるせぇぞ総司!」
「ここって…あ!」
「店長さん、俺は人身売買の証人だ、拒むようならガサ入ろうか?」
長身の男は何か特別な人らしい
「…分かりましたよ!お好きにどうぞ!そんな喋れない女早く持ってってくれ!」
「だそうだお嬢さん、俺と一緒に今から来るんだ」
何とも不思議な人だ
ーーーーーーーー
「ここが新しい家だ、後々に個室も案内する。くつろいでくれ」
施設と同じ匂いがする、それもそうだ
ここはそういう所、でも警察には見えない
「おーおかえり、沖田はん男になったん…おぉ!誰やそいつ?えらいべっぴんやな」
「いきなりなんすか、俺は純血を守ってるんです!」
「勇気が無いだけやろ」
メガネを掛けた男が細身の男がさっきもいた細身で小柄の男をからかってた
「おーまた誰を拾ったの?」
デカい男、なんか無表情
「うわー凄く綺麗な髪だね、初めまして」
小柄な…女の人?頭がボサボサだ
「おかえりなさい近藤さ…」
目付きが鋭い男が私に警戒心をむき出しにしている
「こんな女、てめぇどこで拾ってきた」
恰幅のいい男は警告なし私に銃を向けてきた
「おーやっぱり分かるやつには分かんだな、さすが鴨さんと歳さんだ」
長身の男が上着を脱ぎながら話していた
「全員訓練場に来い、お嬢さんもだ」
何が何だか訳がわからない
ーーーーーーーーーーーー
「うちで1番刀が強ぇのは…やっぱり鴨さんか?」
「俺はパス、野次馬根性だ、土方やれよ」
「なんであんたに命令されんだよ」
「まぁまぁ、いいじゃねぇか」
「お嬢さん、今からこの土方さんと本気で戦ってくれ、手加減するなよ」
言うと同時に木刀を私に放ってきた
木刀なんて何年振りか?
「初め!」
土方という男はこちらの動きを見ている
この人は強い…おそらく施設にいた人達より圧倒的だ…私にやれるか
「はぁ!」
相手が私の手を狙ってきた
相手の木刀の切っ先にタイミングを合わせ小手返しの要領で相手の刀を飛ばした
「マジかよ…」
「どないなってん」
「すげー」
「おもしれぇ女だな」
「歳さん手加減したか?」
「いや、ちゃんと本気でしたよ、強いですね。お見事です」
「という事だ、今日から入隊してもらう…名前は…齋藤、とりあえず苗字だけ…あ!刀が1番強いから「一」でいいな!」
私に名前?
また名前が変わるのか…
長身の男が私に近寄り話しかけた
「今日から君は斎藤一だ、よろしくな、俺は近藤。他の奴らは各々後で紹介するわ。とりあえず俺に着いてきてくれ」
近藤という人は私に何をさせたいのか
「さ、入って」
小綺麗な部屋だ
どうせこの男も私をオモチャにするんだろう…
だったら
齋藤が服を脱ぎだした
「おいおいおい!服なんて脱ぐな!何勘違いしてんだよ」
なんで焦ってるの?違うの?したいんじゃないの?
近藤と名乗った男が私に上着をかけてくれた
「もう男の前で服を脱ぐな、それと…約束してくれ、君は今後金輪際俺の許可なく人を殺めるな。君からは血の匂いが凄い、何人も殺ってきただろう?」
この人は分かっていたんだ…
分かっていたのに…私を拾ってくれたの?
「落ち着いたら山崎さんに身体を診てもらうといい、あ、彼ここの医者だから安心して、それとこれを」
長身の男が私に何かを投げてきた
マスクだ
マスク?
なんで?
「一…なんか呼びづらいな…一だからイチって呼んでいいか?イチは喋れないだろう?このマスクをしておくといい、喋れない事を少し隠せるだろう」
この人は悪い人だと思ったけどそんな事無そうだ
でもまだ信用ならない
「君がどんな事をしてきたか俺にはわからん、でももう不必要に身体を売る必要なんてない、無理強いはしないからここが嫌ならいつでも好きに出ていっていいから、でも少しここを見て判断してくれ」
私をオモチャにする事もなく初めてあった日にこんな事言ってくれる人を私は初めて会った
「37番だからミナだね」
「刀が1番強いからイチ」
道具としてのじゃない
男に抱かれる為じゃない
私に名前をくれた
「呼びづらいから」
ココと同じ事を言ってくれた
こんな私を受け入れてくれるかな?
少しだけここにいてみるのも悪くないよね…ココ…
なぜだか急に涙が溢れてきた
「好きなだけ泣けばいいさ」
近藤と名乗った男は私の隣で涙を受け止めてくれた
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