第6話

近藤、齋藤が外出、芹沢はいない

土方は屋上へタバコを吸いにその後を山崎も追いかけていった


沖田は書類整理といいながらスマホとにらめっこ

山南はPCでデータ解析しながらサブディスプレイで推しのLIVE映像を流してニヤニヤしながら仕事

永倉は黙々と銃の整備


「よしよし!課金したんだ!出ろよー!」

沖田は流行りのスマホゲームにご熱心だ

「あ、あ、あ、…俺の5万がぁ!」

「うるせぇぞクソ童貞!」

「お前こそうるせぇぞ!このブスオタク!」


山南と沖田は何故にこうも仲が悪いのか…

そんな2人に我関せずな永倉は黙々と作業に没頭していた

「永倉さんもなんとか言ってくださいよ!」

「なんだおめー!言い負かされそうだからって永倉さん巻き込むなよ!」


俺は静かに仕事をしたいのになんで俺を巻き込むんだ…頼むからほっといてくれよ

バァン!永倉が机を叩いた

ビクッとする沖田、山南

「なんすか…そんなに怒んないでくださいよ」

「なんかごめん…」


いや…別に謝って欲しいわけでもないんだが…

「あのさ?同じ部隊なのになんでそんなにいつもギャーギャー言い合うの?」

そう言うと永倉は冷蔵庫からパックのミルクティを出して2人に渡した

「とりあえずこれ飲んで落ち着きなよ」

450mlの青いパッケージのミルクティー

コップに注がないところが永倉らしい

「いただきます」

「あ、ありがとー」

「紅茶ってなんかホッとするよね」

大柄な永倉から紅茶というワードはなかなかアンバランスだ

「2人はなんでここに入隊したの?」

沖田、山南がキョトンと見つめ合う

「いきなりなんなんすか?」

「そうだよ、永倉さんそんな事気になるの?」

「まぁ、気にはなるよね」

3人から紅茶を啜る音しか聞こえなかったがその沈黙を破ったのはやはりお喋り沖田だった

「俺はほら?家に居場所がなかったし親父とそりが合わなかったからさ?ヤンチャしまくってる時に近藤さんにスカウトされたんだよ」

「お父さんと仲が悪いの?」

ミルクティーを飲み、飴を口に放り込みながら山南が不思議そうに尋ねた

「うーん…これあんまり言いたくないんだけどまぁいいや、親父が実は幕府の官僚でねガキの頃からやれ習い事だの塾だのに行かされてね、反発してグレたら追い出されたんだ」

「なんか…ごめんね、沖田」

「なんだよ!急に!キモイな!」

永倉が沖田に近づき沖田を叩いた

「いた!なにすんすか!」

「山南に謝れ、キモイとか言うなこの流れで」

キョトンとした沖田に山南が

「いいよ、気にしてない、確かにキモイよね…」

「いや、その…なんだ…いつものノリというか」

ブッと山南が吹き笑い

「やーい!騙されてんやんの!そんなんだなら童貞なんだよ!」

「てめぇ!この!クソが!」

これには永倉も笑いだした

「アハハ、沖田の負けだな今回は」

不貞腐れながら沖田が言った

「永倉さんこそなんでここに入ったんです?」

「そうだ!永倉さんは確かに謎だ」

永倉は自分の机からビスケットの袋を出して食べながら答えた

「前は国防軍の陸軍にいたんだ」

「ええーーーーーー」

2人揃って同じタイミングでリアクション

本当は仲がいいんじゃないかと錯覚する

「俺、みんなも分かってると思うけど人間模様苦手なんだよ、でも家族に仕送りしたかったから国防軍はいったんだ、金はいいし幕府の公務員扱いだから安定もあったしね」

「永倉さんて家族大好きなんだね」

「うん、俺は家族がいればそれでよかったんだよ、だからガムシャラに働いた、賞金欲しさに射撃大会まで出たよ」

「すっげ…家族か…俺にはわかんねぇな、家が嫌いだったからさ、俺は」

「まぁ各々色々あるよね家庭は、でも会える時に会っておいた方がいいよ?」

山南の相槌はなんだかいいタイミングで入ってくる

「うるせぇな!あんな家無くなっちまえ!」

沖田が声を荒らげた

「でも!」

2人のやり取りを遮るように永倉が割って入った

「あのさ?俺の話続けた方がいい?」

「ごめん…永倉さん」

「反省してまーす」

沖田は反省の色がゼロだったのでそのまま永倉が続けた

「射撃大会まで出てさ、自分言うのもなんだけど俺メダルとったんだよ」

「すごーーーい!永倉さん僕に射撃教えてよ!」

「いいけど…ちゃんと訓練してね」

「ウンウン!色々教えてくださいね!約束だよ!」

「狙撃はむかねぇなぁ〜俺は」

沖田の話を遮って永倉が口を開いた

「そのせいかな…色々やっかみもあってね、いじめとかあったんだよ、まぁ我慢してたんだけどね、ある時両親の事を凄い馬鹿にするような事言われてね、俺もキレちゃったんだ」

「家族の事を他人が悪く言うとかゴミだね!ムカつくよ!そういう奴!」

沖田はピンとこないようだ

「それでね、俺も言い返したら殴られてね…やり返した相手が吹っ飛んで当たり所が悪くて結構大事になったんだ、それで懲罰委員会にかけられて懲戒解雇」

「そんなひどい!悪いのはあいてじゃん!」

「汚ぇな官僚ってのは!」

「仕送りできないのはキツくてね、もちろん気にするなって母さんが言ってくれたんだけど家にも帰るに帰れなくて…官舎を引き払った日に近藤さんにスカウトされたんだ、得意な事して金もいいから仕送りもできるしね、俺の理由はそんな所。んで山南はどうして入隊したの?」

山南はクルッと椅子を回転させてまたディスプレイとにらめっこをしだした

「お前!俺たちに言わせといてそれはないだろうよ?オタク女!」

まぁまぁと止めに入る永倉

「言いたくない事くらいある、沖田?そっとしてやれ」

「んだよ…」

「…………………復讐」

「ん?なんだオタク女?」

「なんでもないよ!クソ童貞!」

「なんだと!オタク陰キャブスが!」

「お前らいい加減しろ!もー!こういう時に土方さんがいればなぁ…」

階段からタバコを吸い終えた山崎が降りてきた

「山崎さん、なんとかしてくれ、この2人」

「なんや?どないしたん?若い奴らは元気がええのう、好きなだけやれや、アハハ、俺タバコ買いに行くけど一緒に行くやついるかー」

「俺もなんか腹減ったから行く」

大柄な永倉はやはり燃費が悪いのあれだけお菓子を食べても足りないらしい

「おい!クソキモ童貞!僕にアイス買ってこい!」

「なんで俺がてめぇに指図…」

言い終わる前に永倉が沖田の服を掴み引っ張った

「ほら、行くぞ」

「もう!離せよ!分かったから!」

3人が外出し静かになった屯所

山南がスマホを取りだし写真を見つめた

写真には不貞腐れて目を背けて卒業証書を持っている山南、隣には目元は山南に似ているが綺麗に整った長い髪に満面の笑顔の背の高い女性が肩を寄せあって写っていた

「家族の話なんかしてたら…お姉ちゃん…に会いたくなっちゃったよ…お姉ちゃん…ウッグスン…」


お姉ちゃん…いつも言ってたよね?

悪い事をしたらいつか自分に帰ってくるって

お姉ちゃんが何したの?

真面目に生きてただけじゃん

それなのに…僕は絶対許さない…

お姉ちゃんをあんな目に合わせたゴミを見つけ出す

そのためにここに来たんだ

せいぜいみんなを利用させてもらうさ

仇さえ取れれば僕は死んだって構わない


山南は何かに取り憑かれたようにPCに向かいキーボードをたたき出した

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