第5話

近藤が外出中の際は芹沢が指揮をする決まりなのだが芹沢は基本屯所に居ない、なので土方が近藤に変わり代理として残る決まりなっていた。

土方が屯所の屋上でタバコを吸っていた、近藤が平岡と話している時、奇しくも同じ内容の事を土方も悩んでいた


「土方くん…とか言ったな、芹沢何某って暴れん坊を何とかしてくれないかな?局長は近藤くん、副長は君だよ。君たちはとても評議会から評判が良くてね」


俺にあの芹沢を殺せるのか?いや、あの政治家は近藤さんにもこの話をするだろう…そしたら全力で近藤さんは芹沢さんを庇うだろう…最悪あの二人を相手にするのか…俺は…いや芹沢はまだしも近藤さん相手だと沖田は躊躇するだろう、齋藤は間違いなく近藤さんにつく…山崎さん、永倉は戦闘には参加しないだろうが近藤さんを助けるだろうな…いやいや、俺は何考えてる!近藤さんをやれるハズない!俺はあの人に救われたんだ、あの人が居なきゃ俺はとっくに死んでいた

まさか…政治家の狙いは俺たちの分断?…


…ん!…はん!…方はん!土方はん!


「なんだ?!山崎さんか」


いつからいたのか分からなかったが山崎も屋上にきていたのだ


「タバコ吸うにも億劫やな、屋上まで上がらんとは。しかし土方はんが上の空とは珍しいですな」


山崎はポケットから出したタバコを1本咥え話しかけてきた


「俺にだって無心になる事はありますよ」


タバコが消えかけていたので灰皿に投げ入れながら答えた


「タバコミニュケーションや、土方はんはなんでこの部隊におるん?」

山崎さんが珍しい事を聞いてきた

「意外ですね、山崎さんにそんな事聞かれるとは」

「別に無理に聞こうとは思わん、言いたく無ければ言いたくないでええんや」


山崎の吐いた煙が消えかけた時土方は新しいタバコに火をつけながら答えた

「俺は元々警察の内務監査室にいたんです」

「内務監査室?そらまたしんどい仕事やな、同じ仕事仲間を疑い続ける仕事やろ?」

「やはりそう思われますね、俺は逆で信じたいからこそ疑惑を晴らそうと思っていました」

「ほほぅ〜発想の違いやな」

山崎は吸っていたタバコを消して新しいタバコに火をつけていた

「警察を辞めるきっかけになったのはある情報で警察内部にも西側陣営の手引きをしている奴がいるって話があったんです」

「警察内部に?!」

「そうです、ただ俺は警察内部だけだと思っていたらもっと根が深かったんですよ」

「ちゅー事は上層部以上…まさか幕府内部にも?!」

「俺と同僚が調べだしたら見事に圧力がかかりましてね、俺は情報漏洩の嫌疑をかけられましたよ」

「んなアホな、土方はんがそんなことするわきゃない」

「でも俺は黒とされて謹慎させられたんですよ、まぁ謹慎中にも調べてましたがね」

「あんたらしいわ」

「謹慎中調べ回ってたら、ちょいちょい尾行がある事に気が付きましてね、初めは俺を調べてるのかと思ったら強硬手段に出てきたんですよ」

「命を狙われたんか?」

「しかも狙ってきたのは一緒に調べていた同僚でした、取引でもしたんでしょう」

土方も新しいタバコに火をつけた

山崎のタバコはとっくに根元まで灰と化してた、聞き入っていたのか

「アチチ」

と手を振りながらタバコを灰皿に慌てて投げ入れていた

「こうやって火傷するんやな〜没頭すると」

「火傷で済まなかったですけどね…俺の場合は…5人くらいに追われててもう諦めた時にあの人に救われたんです」

「近藤さんかな?」

「ですね、偶然なのか今となってはわかりませんが車から援護してくれて俺はその場を逃げられました」

「そのまま入隊したん?」

山崎、土方はヘビースモーカーだ

お互い煙が話と共に尽きない

「少し悩んだんです、実の所」

「何が嫌やったんです?」

少し土方の口が鈍った

「んーーーなんででしょうね、「組織」という物を信じれなかったんですよ」

「そんな目にあったらそらそやろ?」

「そんな時近藤さんに言われたんです」


「何かを信じるんじゃない、自分を信じろ、自分の可能性を諦めない奴が事を成すんだ」


「ってね、たぶん本人覚えてないですよ」

土方は珍しく小笑いをして煙の行先に目を逸らした

「やっぱり近藤さんはかっこええなぁ」

「先日ちょっと言いすぎたと反省してます」

「いや、別にいいと思うよ、あんたは間違えてない」

お互い何本吸ったのだろう、平だった灰皿がこんもり溜まっていた

山崎は新しいタバコを吸おうとしたら空箱だった、もうタネ切れたらしい

「お互いタバコ吸いすぎやったな、切れたから治療室戻るわ」

「お互い吸いすぎましたね」

土方もどうやらタバコが切れたらしい

「吸いすぎは身体に毒やで」

「医者の貴方が吸ってるじゃないか」

この瞬間だけ場末ストリップの前座芸人のようなタイミングで土方がつっこんだ

「ブッ!アハハハ!せやな、俺が言ってりゃ世話ないなぁ」

「山崎さんも吸いすぎ注意ですね」

「せやな、でも…我慢も良くないで?、あんたなんか思い詰めてやろ?それが何かは俺も知らん、でも近藤さんにちゃんと話してみ?話して通じんかったら殴りあったらええねん、怪我くらい俺が治療したるから。抱え込むくらいやったらぶつかってまえ」

「…ありがとうございます、山崎さん、近藤さんに話してみます」

「せやせや!仲良うせんと、ホナ先戻るわ」

小走りで山崎は屋上から去っていった



ちゃんと謝ろう

俺は何を思ってたんだ

可能性を諦めたらあの人を裏切る事になる

どんな形でもあの人と共に行くと決めたんだ

政治家の言いなりになんてたまるか


「もうお前らの都合のいいようになんてなるか、クソッタレ!」


屋上階段に向かって歩きだし後ろも見ずに投げた空のドクターペッパーが綺麗にゴミ箱へ吸い込まれていった


その背中は吹っ切れた男のたくましい背中だった

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