第4話

同じ評議会の松平さんと会う時より平岡と会う方が気が滅入る、あの人は不気味だ。

作り笑顔しかしないのに中身は真っ黒、あれ程権力に取りつかれた人間を俺は知らない。

戦術狼のスポンサーにもなった人だから邪険にはできない…それに人選は俺と芹沢さんに任せたとはいえメンバーの経歴は把握しているのに俺には何も言ってこない、むしろ懇意に接してくれているのがまた気持ち悪い


護衛兼ねての齋藤が不思議そうに俺の顔を見つめる

「平気だ、心配かけてすまない。イチも平岡が嫌いか?」

凄い勢いで首を縦に振った

「嫌いでも殺しちゃダメだぞ?偉い人だからな」

齋藤は不満そうに口を膨らませていた

「さて着いたか」

2人で車を降り約束の料亭へ向かった

綺麗な門をくぐり店の入口まで掃除が行き渡って仕事以外ではなかなか敷居が高い店構えだ。

引戸を開け中に入ったら

「いらっしゃいませ、ご予約のお客様でいらっしゃいますか?」

綺麗な女将だ、歳の頃は40前後ぐらいだろう、ウチの沖田が見たら落ち着かなくなるのが想像できる。

「平岡先生の連れです」

「平岡様ですね、承っております。どうぞこちらへ」

中庭が見える廊下を通り離れの間まで通された、平岡はこういう「特別感」が大好物なんだろうと容易に想像できる。

齋藤が不思議あたりをキョロキョロさせている

「飯を食うだけでこんなの馬鹿らしいって言いたそうだな」

首を思いっきり縦に振る

「俺もこんなもんアホらしいと思うわ、こんな所よりみんなで安い飲み屋で飲み食いした方がよっぽど楽しいぞ、それにな?」

齋藤がウンウンと俺の話に興味津々だ、珍しく前のめりで目を輝かせている

そんな齋藤に俺は小声で

「バカと煙は高い所が好きって言うだろ?平岡みたいな嫌な奴はこういう値段が高い所が好きなんだ、バカみたいに性格悪いからな」

齋藤が吹き出して笑った

そんな時に

扉が空いた、まずは秘書(という愛人)から入ってSPと思われる人間2人、その後に平岡が入ってきた

「いやぁ〜相変わらず時間に正確だねぇ近藤くん」

一目見て高そうだと分かるスーツに身を包み年に合わない香水をつけている男それが平岡

「平岡先生を待たせる訳にはいきませんから」

俺は頭を下げながら言った

「近藤くん頭なんて上げなさい、君の評判はとてもいいねぇ!首都東京の治安も良くなってきて私も鼻が高いよ。おや?そちらの美人さんは?」

平岡が齋藤を足元から舐めるように品定めをしだした

「平岡先生とは何回かお会いしていたのですがキチンとご紹介がまだでしたね、ウチの隊員の齋藤です。以後お見知り置きを」

「基本顔は忘れないんだけど女は化けるっていうからねぇ、ふぅん…こんな美人さんがねぇ〜人殺しなんてするんですか…嫌な世の中ですねぇ。どうです?私の護衛としてウチに…」

相変わらずの色狂いだな…

「先生、ご容赦ください。それに齋藤は喋れないのです。」

平岡は驚いたみたいで

「喋れない?なんでなの?不便じゃない?声が出せないの?僕は好きだけどねぇ〜」

齋藤が怒っているのがこっちにも伝わっている、平岡も分かっててあえてやっているのだろうこいつはこういうのが「好き」なのだ

「先生、今日のお話というのは?お忙しい先生の時間を無駄にするのは心苦しいので」

「せっかちですね〜まぁいいでしょう、よっこらせ」

当然の如く上座に座り秘書に酒をつがせ、1口で飲み干した

「さて…君たちの評判は良いというのはさっきも話したよね?ただねぇ…」

何か気に入らない事でもあったか…

「まぁまぁ良くない評判も耳に入ってきてるんですよ…旬の過ぎた鴨はねぇ肉が硬いし出汁も出ないんですよ」

「先生、仰ってる意味が分かりませんが…」

「うーん…旬が過ぎた鴨はネギと煮ても美味しくないって事」

「鴨…?芹沢さんをクビにしろという事でしょうか?!」

迂闊にも声を大きくしてまった

「近藤くん?ここは食事を楽しむところです、お静かにお願いしますよ、うん酒が美味い」

「たしかに芹沢さんはやり過ぎる事も多いですが…頼りになる仲間です、私の方から言い聞かせますので」

「おや?この話は君の所の土方君に話は通してあるんだけどね、君聞いてなかったの?」

まさかここで歳さんの名前がでるとは…

驚きを隠したつもりが、さすが政治家…俺の動揺を見過ごさなかった

「本当に知らなかったとはねぇ〜心配ですね、東京の治安を守る部隊が一枚岩ではないのは」

「芹沢さんの処遇に関しては私に一任して頂けませんか?先生」

俺はこうしか言えなかった

俺よか齋藤の方がポーカーフェイスだった

「先生が許可を出し芹沢さんが創設した部隊、芹沢さんだって身体を張ってきたんです。それを何も無しに処分しろとは私には言えない!」

「誰が作ったなんて僕には興味ないの、問題なのは「問題児がいる部隊が治安維持活動をしている」事なのよね、だから君がどうこうじゃないのよ、てかね?芹沢何某をなんとかして君が局長をやってよって話なのよ」

俺が局長?何言ってるんだ…

「何を言ってる?って顔してるね、まぁ早急になんとかしなさいね」

「先生!ちょ…」

「次の会合があるから、僕こう見えて忙しいのよ」

「お時間使わせてしまいすみません、失礼致します」

「うん、またね」


「芹沢さんをなんとかしろってさ」

齋藤は意外にもあまり驚いてる様子はなかった

「イチもそう思うか?芹沢さんを」

静かに首を縦にふった


「それよかトシさんに話がいってるって…俺はそんなに甘いか…イチ?」

首を傾げながら齋藤は目を合わさなかった…


「車に乗って帰ろう、屯所に」


ーーーーーーーーーーーーーー


俺は屯所で齋藤を下ろしそのまま車でここまできた、とてもじゃないがトシさんの顔を今見られない


いや


見せられないか…こんな悩んでばかりの男の顔なんて


寺の入口で線香を買い手桶に水を入れ海が見える上の段まで登り曲がろうしたら住職が声をかけてきた


「おや、こんにちは。そうですか…そんな時期ですかね」


「ええ、いつ来てもここは変わらないですね。海が見える場所で家族に会えるのホッとします」


住職は周りの見渡しながら

「熱心に墓参りくる方も少ない寺ですから、変えることもありません、変えろと言う方も大勢いますが変えない事も大切だと私は思っています、あなたのようにここからの景色好きと仰る方もいますし」


この人は変えない事を選んだのか


「ただ変えないと変わらなきゃいけないのに変わらないは違いますよ、目の前の困難に立ち向かうのに頑なに変えないという選択を続けるのは愚かだと私は思います、その迷いが貴方にはあるのでしょう?選択は世の中多くあれど人の想いを受け止められる器のある方は例え変わっても貴方の器が変わる事はありません、おっと、お喋りが過ぎたようで…大切なお時間を邪魔してしまいすみません」


「いえ、ありがとうございます」


「どうぞ、ごゆっくり」


手桶を置き柄杓で水をかけたわしで磨き花を添えて線香をそなえ手を合わせた


「今日はいつにもまして情けなくてごめんな、しばらくまた来れなくなるかもしれない、いつもいつも寂しい思いさせてごめん。そっちにいったら沢山俺を怒っていいからさ、少し俺に勇気をくれないか?」




俺はやっぱり甘いのか?

仲間を切り捨てる覚悟って必要か?

今まで非情な決断を俺自身ができなかったから無くしてきたのか?

教えてくれよ…なぁ…

でもこれだけは確かだ

この部隊の仲間を失いたくない


「芹沢の名前に逃げてんじゃねぇ!運命を受け入れない限り一生惨めだぞ!」


あれはそういう俺の覚悟の足りなさを見透かしてたのかな

俺はもう迷わない、仲間を守るためならなんだってやる

誰の指図でもない、俺が決めた事だ




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