第54話 ALIVE


 ――ライブハウス、【ALIVE】


 おおよそ五百人もの人間が入れるここらでは一番大きなハコ。稀に有名アーティストも利用するここは、このメインホールと他に曲を収録するレコードディングスタジオなんかもある。


「この度はお招きいただきありがとうございます!」


 深宙が僕ら四人を代表し、今回出演できるきっかけとなってくれた赤名達のバンド【フラジール】のリーダー塩田さんに挨拶をする。


「いえいえ、こちらこそありがとうございます!まさかあの伝説的なバンドに出ていただけるだなんて!いやあホントに嬉しいなあ!!ライブ動画めっちゃ見てますよ!!」


「ホントですか、ありがとうございます!」


 彼は僕より少し背の高い茶髪の男で、どこか幼さのある顔つき。大学生らしく、赤名とSNSを通じ出会いバンドを結成したらしい。ちなみに彼はギター。WouTubeにも弾いてみたを投稿していて、結構な人気だとか。深宙の話だと。


 初対面の挨拶が済み、後ろで腕を組んでいるライブハウスのオーナーにも挨拶へ。身長は冬花より少し高く、ぽっこり出たお腹と丸いサングラス。失礼かもしれないけどどこか狸のような雰囲気がある。


「こちら、このライブハウスのオーナーの太田貫さんです!」


 そう言われ深宙と僕達が「よろしくお願いします」挨拶すと、「んー」とジロジロ僕らをみてきた。


「まあ、あれだな。んー、男は地味であれだが......他が格別に良いな!美人揃いで華がある!まあ、せいぜい客寄せパンダになってくれや!お嬢ちゃん達!ははっ」


 瞬間、深宙、冬花、夏希の雰囲気がムッとした空気を感じた。それを察知した塩田さんが口を挟んだ。


「オーナー、そんなこと言っちゃ駄目ですって、せっかく無理言って来てくれたんですから!」


「俺はたのんでねぇぞ。つーか、このライブハウスALIVEに立てるって事に感謝しろ。そもそも何の実績もねえお前らのような無名が演奏できる場所じゃねえんだからな」


「いや、実績って......この人達は」と言いかけた時、僕が静止した。


「スミマセン、ありがとうございます。出させてもらえて光栄です......頑張りますね」


「......!」「フン。下手な演奏したら責任はとらせるからな」


 驚く塩田さんと威圧的なオーナー。


「チケット販売係でバイトさせてやるよ、ははは!」


 オーナーが笑いながらどこかへきえていった。残された塩田さんと僕ら四人。塩田さんが申し訳無さそうに言う。


「ごめんなさい。あの人プライドが高くて......キチンと説明しとくべきだったな。なんせWouTubeとかみないから、君たちの事も知らなくて」


「いいえ、大丈夫です」


 僕は言う。


「実力でわかってもらいます。ね、みんな」


「うん、だね。やってやろう」「......はい、かならず」「だな。ここでの問答に意味はねえ」


 四人が頷く。それを見ていた塩田さんが、ははっ、と笑った。


「なるほど。技術力以外の、あなた方の人気の理由がわかった気がします......お互い頑張りましょうね、ライブ」


「はい!」


 開演、二時間前。リハーサルが行われ、各バンドが音を確かめる。僕らも軽く合わせステージからの眺めも確認した。


(......オーナーいないか。見る価値はない、そういう事かな。まあ、ライブ前だし色々慌ただしいのかもしれないけど。でも僕らの前のバンドリハはチェックしてたから、どうなんだろうな)


 塩田さんと赤名、そしてそのバンドメンバーらしき人達が端の方で見ている。邪魔しないように気を使ってくれているのか。


(確か、八種先輩も観に来てくれるんだよな、今日......って、あれ?)


 奥に目をやると女性が一人、扉の横で僕らのリハ観ている。青のキャップを被り、サングラス。扇子を口元にあてていて、不思議な雰囲気の人だ。


(......今日出るバンドの人、だよな?ここにいてリハ聴いてるって事は)


 リハが終わり、塩田さん達が拍手をする。


「いやあ、スゴイね!やっぱりレベルが高い」「ホンモンだね、彼ら」「動画とおんなじ!マジびびったわ!」「ねえねえ、君たちサインくれない?無理ならいんだけど」


 おお、すげーフレンドリー。塩田さんと赤名以外は初対面なのに。なんか陽キャ集団って感じがするな。嫌とかじゃないけど。


「ありがとうございます」「......」「サインか、あれ?サインなんてかけるのか俺ら」


 確かに。深宙はモデルだからサインあるだろうけど、他の三人はせいぜい名前をそのまま書くくらいしかできないだろう。学祭の時の僕と同じで。


 そんな感じでそれぞれ名前を書いてあげる事に。


「でもあれね。バンド名作ってサインもそれぞれこのバンドでのモノが欲しいよね」


「......確かに、これからこのままだとちょっと困りますからね」


「あー、だなあ」


「確かに」


 と、四人で会話をしていると。


「サトー」


 赤名が声をかけてきた。


「あ......今日はありがとう」


「いや、良いってことよ。ほら、前も言ったろこれはお詫びも兼ねてるんだ」


「うん。だから、改めて」


「ははっ、かたいな。けどまあ、それがサトーか......なあちょっと相談があるんだ。少し外でられないか」


 外?なぜ?


「......もうライブまで時間ないよ?」


「あー、いやいや、別にどっか行こうってわけじゃなく」


 赤名が耳打ちする。


「おまえ、ギター俺より上手いだろ?少しだけ教えて欲しい事があって」


「......」


 それなら深宙に、と思ったけど彼女は他のバンドとの会話で急がそうだ。他にも冬花と夏希もスタッフの人と確認作業をしている。


(......まあ、少し教えるくらいなら)


 一番近い扉から裏口へと出る僕と赤名。


「悪いな、サトー。まだリハでやりたいことあったろ?」


「えっと......いや、大丈夫。気にしないで。それで聞きたい事って?」


 僕のギターに指差し彼は言う。


「それってかなり年季入ってるな。お前、ギターって持ってるのその一本だけ?」


「え、うん。これは特別だから......」


 深宙からの贈り物。これ以外では上手く弾ける気がしない。まあ、それほど上手くはないけども。


「......そうか。わりい、ちょっと俺のギター見てくんね。少し弾いてみて、違和感があれば教えてほしんだ。なんか妙な感じがして......ほら、ライブ中に壊れたりしたら困るからさ」




「えっと、わかった」




 僕は自分のギターを置けそうな場所に置き、赤名のギターを受け取った。触れる彼のギター。触った感じ特に変なところも無いような。




「......その妙な感じって」




 と、赤名を見ると。彼は僕のギターを持ち上げていた。




 ネックを持ち、頭上へ振り上げていたのだ。




「......え」


 ニヤリと歪む笑顔と雲に隠れる月。怪しげな夜の闇が同化していいてそれは恐ろしくも禍々しく見える。


「――ま」


 待って、と言う言葉よりも早く振り下ろされたそれ。地面はアスファルト。



 ――



 叩きつけられ、形容し難い音を鳴らす。



 そこには砕け、折れ、割れた僕のギターがあった。




「......な、」




 そして赤名が満面の笑みで――




「あーっ、スッキリしたあ!きいいんんもちいいいーーーッ!!ひゃはははっ!!!」




 ――腹を抱えていた。



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