第34話 変化
「あ、あの......ごめんなんだけど、バンドメンバーで撮りたいんだよね」
教室に戻るやいなや、待ち構えていた女子生徒に囲まれる僕。そしてそれをガードするかのように深宙、冬花、夏希が固まっている。これなんてフォーメーション?
「えー先に私と撮ろうよ!」「いやいやあたしでしょ」「お願いお願い!」「ねね、わたしは?」
あ、圧がすごい!今まで僕の事をいじったりしてきてた女子だから今更なんの感情もわかないけど。むしろうっとおしいくらいだ。
......特にこの人が。
「ね、サトー。あ、春って呼んでいいかな?アタシの事は姫ちゃまって呼んでよ」
姫前がうぜえ!!あれだけ僕に嫌がらせしといて!!え、ひょっとして中身ちがうのか?こんなに図太い神経の人いないよね?
するとズイッと冬花が前姫に立ちはだかった。
「......ノーセンキューですよ。春ちゃんが困ってます。離れてください」
「え、は?」
姫前の表情が変わる。
「なにこの子可愛いー!!お人形さんみたいじゃん!」
「......え」
がばっと姫前が冬花に抱きつく。目をまんまるにする冬花。おいまてよ!なんだその表情!可愛いな.....冬花。
「や、やめて」
「えーっ、いいじゃんさ」
「あ、あの、姫前さん。離してあげて......嫌がってるし」
「じゃあ姫ちゃまって呼んで?」
「いやいや。そもそも君は赤名くんの......」
「ん?赤名くんのなに?」
赤名くんの、なんなんだ?よくわかんないな実際。
「ねね、サトーさ。良かったらだけど......あ、アタシの彼氏に......」
「あ、間に合ってます。春くんあたしと付き合ってるので」
ズイッと出てきた深宙。その瞬間。場の空気が静まり返った。
「ん、んんん!?」「あれ、ん?」「......え」
皆が深宙へ注目する。そしてその中の一人が、たまたま手に持っていたファッション誌をパラパラとめくった。
「んー?え、あれれ......これ、あれ?え?」
見比べる女子が困惑しながら、一言。
「み、深宙ちゃん?」
わあっと湧く教室。めっちゃうるさい。でも、そりゃそうか。だって秋乃深宙といえば大人気モデルだもんな。
姫前が目をキラキラさせ深宙を見ていた。
「あ、あの、深宙ちゃん!いつも応援してます!」
「ありがとう。でも春くんはあたしのだからちょっかいかけないでね?」
「はい、かけません」
うっとりとした表情の姫前。いいぞ深宙。厄介な奴を沈黙させた。この功績はでかい!
「あの、皆さん......少しだけ離れてくれませんか?バンドメンバーだけで写真を撮りたいので」
「み、深宙ちゃんのお願いなら」「はいっ!」「ほらほら下がって!」
す、すげえ。これが陰キャと陽キャの違いなのか......圧倒的支配力!
「これでよし」と、両手を合わせる深宙にたいし、夏希が「いやすげえなお前も」と眉を潜ませた。冬花が僕の袖を摘む。
異世界のようなスタジオセットで僕ら四人は写真を撮る。まるで英雄の帰還。突き刺さる錆びた剣がライブ前の誓いを思い出させた。
(仇はとったぞ......美術部!!)
まあ、目の前にいるけど。彼らは冬花に興味津々なようだ。けど彼女を怯えさせたらこのオブジェの剣をケツに突き刺すから止めてね。
姫前に撮ってもらった写真を深宙が確認する。
「よーし、いいね。夏希ちゃんがガン飛ばしてるのが気になるけども」
「へいへい、すんません。目つき悪くてよ」
「......小動物触っている時は優しい目になってますけどね。あと春ちゃんにメッセージ打ってるときとか」
「え?そうなの」
「ち、ちげえよ!おま、適当いってんじゃねえぞ有栖!!」
「......かわいいぜ、夏ちゃん」
「て、てめえ、覚えてろよ」
「......って、春ちゃんが思っているはずですよ」
「は!?」
また僕に流してきたな冬花。だが今日は慌てない。
「え、ああ。まあ、夏希は可愛いと思うよ実際」
「はああ!?」
え、夏希がなんかめっちゃ慌ててる。
「な、おま......いや、俺は別に」
?なんか夏希の様子がおかしいぞ。とりあえず謝ろう。
「ごめん、夏希」
「え、いや、別に......」
「夏希は可愛いっていうか、綺麗だよね」
「......」
彼女はごそごそとポケットから棒付き飴を取り出した。杏仁豆腐味。おぼつかない感じで包を剥がす夏希。何をそんなに動揺してるんだ。
そうして撮影を終えた僕らは各クラスの出し物を見て回ろうと外へ出た。が、ちょっと予想はしていた事だけど、僕らにつきまとう人が多くまともに動けなかった。
だから一旦解散。夏希が冬花を連れ、僕は深宙と人集りから逃げるように散った。
校舎裏。誰も居ない。二人息を切らせながら、花壇を眺め歩く。ここは教頭先生が管理している花畑。センスが良いのか花々が美しい色合いに咲いている。その種類はわからないが、香りも良い。
「冬花ちゃんと夏希ちゃん、大丈夫かな......」
「大丈夫じゃないか?夏希がいるから心配ないと思うけど」
「ふふっ」
「?」
「あたし達、もうすっかり仲間だね。まだ一ヶ月も経ってないのに」
確かに。けど、もう何年も一緒にいるみたいに皆と居るのが心地良い。不思議だ。僕は決してコミュニケーションが得意ではない。寧ろ苦手なのに。
「ありがとう、深宙」
「え?」
「深宙が僕をここまで連れてきてくれた。だから、ありがとう」
キョトンとする深宙。するとすぐに満面の笑顔になった。
「あはは、それ逆だよ逆!」
「......逆?」
「あたしは春くんの歌声を聴いてバンドつくりたいって思ったの。だから、ここまで来れたのは春くんがあたしの手を引いてくれたからだよ」
ギュッと握る手が強まる。
「ありがとう、春くん。あたしの最高傑作」
ふわっ、と。好きが溢れ出す。彼女の微笑みに心臓が高鳴る。
「?......春く、」
僕は思わず深宙を抱き寄せる。深宙の笑みは消え、静かに彼女は目を閉じた。
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