第33話 最低
――......ああ、くそ。どうする。
俺、赤名修義はトイレの個室で肩を落としていた。
(まだ15時半か......くそがっ)
教室には帰りたくない。クラスメイトと顔を合わせればきっと言われる。さっきの演奏の事でいじられる。
(つーか、ライブ......今思えば)
ほんの少し、俺らよりサトー達の楽器隊が上手かっただけなんだ。俺の歌は自体はアイツに勝っていたんだ......そう、先輩達の実力不足だったのに。なのに、なのに......!
(......くそ、やろーどもが)
あいつら自分の未熟さを棚に上げて......俺を批判した上に、一人で舞台に立たせやがって。許せねえ。
この俺が、クラス......いや、校内一の陽キャでありザ・パーフェクトイケメンであるこの俺様が、あのクソ底辺陰キャのサトーに負けるわけが無い。
それもこれもサトー達の演奏に気圧されビビっちまった他のバンドメンバーが悪い。あのまま俺らも演奏すれば絶対に勝てたのによ。ボーカルだけがウチのバンドの勝てる唯一のポイントだったのに。それ、なのに......クソ!!
いや......そう、そうさ。敗因がそれだということはわかってるんだ。俺は分析力が高いからな。皆に頭いいってよく言われるし。間違いない、そこの差だ。
(俺だけは完璧なんだ。他メンバーがクズで下手で根性が無いだけ......って事は、楽器が上手い奴らのところさえ見つけて入れば最強のバンドになるって話しだろ)
この学校にはもう楽器の上手い奴はいない。だったら、他を探せばいい。今の時代、Pwitterやネットを使えばいくらでも楽器やってる奴を探せる。
新しいバンド。伝説になる俺が王の最強バンドを創る。
「......まだ終わっちゃいねえぞ、サトー」
......そういえば、あいつらWouTubeになんか上げてるって言ってたな。ちょっと見てみるか。
って、名前が無いんだった。どう検索するよ?
てか、馬鹿すぎだろ。名前ねえとか、チャンネル伸ばす気あるんか。こんなんならどうせ登録者数2、30人くらいの雑魚チャンネルだろーな。まあ、名前がねえ時点で一桁の可能性も十分にあるか。
こういうのはよ、まず知名度なんだよな。名前を多くに知ってもらう。正直実力とかそんなのはいらねえ。
くくっ、上位WouTuberであるこの俺様がそれを教えてやるよ。と、携帯の検索窓をタップした時。
――コンコン
トイレの戸がノックされた。誰だ?隣のトイレは空いてないのか?
「......はいってまーす」
「お、やっぱり赤名じゃん!」「当たり」「ははは」
「!?」
この声は、いつもつるんでいた粗鷹と丹那屋......それに葛谷!どうしてここに!?
ふとさっきのメッセージが頭を過る。あの悪口を送ってきた奴らの中にコイツラもいた。つまり、この三人は俺の敵ということ。
「何しにきたんだ?裏切り者」
ふははっ、と三人の笑う声が聴こえる。いつもは気にならないその声が今は癇に障る。最高にムカつくぜ。
「裏切り者って、なんで俺等が裏切り者なんだよ?ウケるな、くく」「味方に決まってるでしょ、修義くん」「なにくよくよしてるんだ?教えてくんねえ?」
完全に俺をコケにしてやがる。おーけー、お前らも覚えとけよ。この俺を裏切ったこと後悔させてやる。
「とにかく出てこいよ?修義」「そーだよ。はやく」「ほらほら、カッコいい赤名くんをクラスの女子が待ってるよ?」
......え、女子が待ってる、だと?やっぱり俺がいねえとダメってことか?あいつら。
「あ、今はサトーに集ってるんだった。すまん、お前お呼びでなかったわ、わり」「「ぶふっ、あははは」」
こいつらマジで殺す。人の気持ちが理解できねえやつはよ......捻り潰してやる。
「お前ら、なにいい気になってんだ?この俺によくそんな口を利けたもんだな?調子こいてんじゃねえぞコラ」
声に圧を持たせる。俺が本気で怒ったなら、いくら仲の良かったコイツラでもふざけてなんかいられないはずだ。
「え、ああ。すまんウンコマン」「「ぎゃはははっは!!!」」
ウンコマン。
いま、ウンコマンっていったのか?
爆笑する二人。
ひーっ、ひーと大笑いし呼吸困難になっている。そのまま死ねばいいのに。いや、つーかウンコマンって......てめえのがクソヤローだろうが。
「なあ、ウンコマン。はやくウンコして出てきてよ。あ、ウンコマンはウンコをすると存在意義が無くなるんだよな......悲しい運命だな、ウンコマンX」「ちょ!おまえ、笑わせんな!!え、えっくすて!!ぱ、パワーあっぷしちゃった!!」「やばいぃ!!くるっ、苦しいよぉ......!!」
......なんだ、コイツラ。馬鹿みてえ。
(ああ、けど......)
そうだ。俺も......本当なら。いつもなら、この壁の向こうであいつらとこうして馬鹿な事で笑いあっていたんだよな。どうしてこうなった。俺はただ、サトーに恥をかかせたかっただけなのに。
なぜこんな目に合わなければならないんだ。
「――っ、うっ、ふぅ......ううっ」
「「「え!?」」」
自分の今の状況に心が締め付けられ、涙が溢れ出した。嗚咽が漏れ始め外の三人は驚いているようだった。
......俺の、初めて聞かせる嗚咽。裸の、等身大の俺。
寂しい、寂しいよ。お前らがこうして敵になって。
お前らだって俺がいないと、寂しいはずだろ。だってずっと、ずっとつるんで馬鹿やってきただろ?俺は本心を見せた......お前らは、どうだ?
きっと同じ気持ちになるはずだ。だって、俺らは親友だもんな。
「やべー!!マジウケる!!」「なになになに!?どーしたんでちゅか?修義ちゃま?ミルクがほしいんでちゅか?」「ママつれてこよーか、修義くん?迎えに来てよ〜って」
「「「ぎゃははははー!!!」」」
......なんで、こんな。
――脳裏にサトーが過る。
仲良く、バンドメンバーの四人で談笑しているアイツを。
(俺も、あんな......仲間が)
羨ましい。
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