第21話 頑張った


 部屋へ戻るとなんと、黒のパジャマに着替えを済ませた冬花がソファに寝ていた。あんなに苦しそうだったのに......がんばったな。


 と、いうより頑張らせてしまったか。


「着替えれたんだな。ごめん、辛いのに......戻ったよ」


 ぬるくなったタオルをよけ、頭を撫でてやる。にこっ、と微かに笑う冬花。僕も笑い返し、冷却シートを額へ貼っつけてやる。


「台所、少しかりるぞ」


 お粥作るか。


 そうして数十分かけ完成した卵入りのおかゆ。さて、食べられるかな。起きれなさそうなら僕の胃の中に入ることになるが。


「冬花」


「......はい」


 起きていたのか、思いの外彼女は普通に返事をした。


「ごはん出来たよ」


「ありがとう、ございます......」


 体を起こしソファへ座る冬花。僕はお粥をスプーンですくう。



「ふー、ふー、......あ」



 ヤバい。うーわ、最悪だ。つい妹の刹那にやる感覚でフーフーしちゃった。これは食べたくないよな。


 そんな事を思い僕が固まっていると



 ――ぱくっ



「え」


 そのスプーンのお粥を冬花が食べた。


「......猫舌なので、た、助かります......」


「あ、えっと、あ......そう」


 目を伏せながら彼女はいう。熱が上がってきているのか顔がより赤くなってきているように見えた。瞳がうるうるしている冬花。


(......なにこれ。なんか恥ずかしいんだけど)


 って、そんなことを言ってる場合か。早く食べさせて寝かさないと。と、冬花へ目をやると「あーん」と口を開けていた。


 まあ、風邪ひいたときって甘えたくなるもんだからな。ってか世話するのについてきたんだし、僕。


 そうして食事を終えた冬花。ベッドで寝れば?と聞いたらここがいいと再びソファに横になった。「......見えるから、寂しくない......」と彼女は眠る直前に、呟いた。


 やっぱり、寂しかったのか。


 僕はトイレに入り家へ連絡する。今日は朝まで居たほうがいいだろう。勝手に泊まるとかあれだけど、お叱りは冬花が元気になったときに。



 ――母の携帯にコールする。



「あ、母さん?ごめん、今日友達の家に」


『お兄ちゃん』



 この声。



「......刹那、か?何故母さんの携帯に」


『たまたまお兄ちゃんの名前が出ていましてねえ。ついでちまったぜ』


「いや、ついでちまったぜ、じゃねえ。母さんと代わってくれ。父さんでもいいけど」


『もしかして今日泊まるって話?』


「え、あ、うん......なんでわかったの」


『さっき深宙ちゃんから家電に連絡あったんだよね。それでお母さんが言ってたの』


 深宙。流石デキる奴だな。ってか、そうか......だから逆に親から連絡こなかったのか。


「えっと、まあ、そんなだから。朝一で家帰って学校いくから心配しないでって伝えといて」


『あいさー!』


 元気いいな刹那。もう22時近いのに。僕はもう眠くなってきてる。連絡をおえトイレからリビングへと戻る。すやすやと眠る彼女。


(......今度、家に連れてってやるかな。案外、刹那と仲良くなれるかもしれない。というよりこれだけ可愛い子がきたら親もちやほやするだろうな......いや、それはまずいか?人見知りだからな......冬花)


 けど、もっとたくさん人との繋がりを作ってほしいな。


 クラスでぼっちの僕に言われたくはないだろうけど。多くの人に、彼女を知ってほしい。素敵な人だと、理解してほしい。


 寂しくなくなるくらい、多くの人に。




 ◇◆◇◆◇◆





 ふと目を覚ます。明るい陽がさしこむ部屋に僕は一瞬「?」を浮かべる。そして気がつく。あ、そうだ冬花の部屋に泊まったんだ、と。


(......ブランケット)


 横になる僕にかけられたブランケット。今気がついたけど、頭にはクッションが挟まれていた。


(いやまて)


 ブランケット、なんか膨らんでる。僕の横になんかおる。


 そろっとめくってみるとそこには。


 すやすやと眠る冬花がいるではありませんか。どうりでソファに姿がないと思ったんだよね。


 彼女は僕の袖を掴んで、幸せそうな表情を浮かべていた。


(あ、熱......さがったかな)


 起こしたくないのでそっと額に触れようと、もう冷たさを失った冷却シートを剥がす。そして手を当てる。


(まあ、熱はないような、気がする)


 その時、ふと目を開けた冬花と視線が交わった。


「......あ、起こしちゃったか?ごめん」


 ぎゅ、と僕の胸にしがみつくように寄ってきた。


「......からだ、つらくないので大丈夫かと......ありがとうございます」


「そっか。なら良かった」


 なんだろう。心臓がバクバクいってる。これ、聞こえてるかな。いや聞こえてるだろうな、こんなに近い距離なら。恥ずかしい。


「あ、そうだ。これ、ブランケットとクッションありがとう。冬花がしてくれたんでしょ?」


 彼女は僕の胸に顔を埋めたまま、こくりとうなずく。


 あ、妹っぽい。あったなこんな状態の刹那。あいつも風邪ひいた時にでた甘えたがりモードでこんなだったよな。


 僕は頭の方に置いてあった携帯を取り、時計を見る。


(まだ6時か......学校まで時間はあるな)


「朝ごはん食べる?一応、パンとか卵買ってきてあるんだけど」


「......たべる」


 ポンポンと頭を撫でてやる。はは、ホントに甘えん坊だな、冬花。


「......あ、あの......」


「ん?」


「......ありがとう、ございます......春、ちゃん」


「!」


 春って、初めて......。


「どういたしまして。冬花」




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