第15話 対峙
学校をでると僕は深宙のモデル用Pwitterを確認した。するとそこに撮影の場所が投稿されており、僕は駆け出した。
そこは龍宮寺自然公園と言うところで、たどりつくと想像以上の人だかりが出来ていて深宙の人気を改めて知ることになった。
以前も深宙に誘われて撮影を見学に来たことがあったけれど、あの頃よりも格段に増えているファンに圧倒されてしまう。
平日だというのにこの人の集まり様。流石、大人気モデル。
遠目に彼女の姿を確認する。笑顔でポーズをとる深宙は、春色の浴衣に身を包んでいた。コンセプトは彼氏とお祭りデートなのかな。
男性モデルも横にいて、僕は居心地が悪くなる。
あんまり見たくないよな。自分の彼女が他の男と腕組んでるところは。
僕よりも高い身長、切れ長の目の甘いマスク、脚はすらりと長く、どう見ても僕より......って、なんか見たことあるんだけどあの男。
やがて撮影が休憩に入る。人が多すぎてまだ赤名の姿は発見できない。
(まあ、ここで見てれば大丈夫だろ。赤名が深宙に接触しようとしたときに出ていけばいい)
と、その時。休憩に入っていた深宙が不意にこちらに顔を向けた。驚いた顔。
僕に気がついたのか?と思ったがそれはあり得ない。彼女から見れば僕は森の中の木。多くの人間から見つけ出すのは困難だ。ましてや彼女は僕は今学校に行っていると思っている。
見つけるどころか、居ることに気がつくのも不可能だ。
『春くんだ!!』
見つかりましたね。え、なんで、すごい。メッセージが飛んできて驚く僕。
『頑張ってるね』
『頑張ってるよー!わあ嬉しいなあ!(*´艸`*)』
『てかよくわかったな。こんな人集りなのに』
『うへへ、これが愛の力なのだよ春くん(ノ´∀`*)どやあ』
愛の力かなるほど。と深宙に視線を戻すと、男性モデルがこちらに手を振っている事に気がついた。あの人も知り合いが来ているのか?と、思っていると深宙に耳打ちをする。
(......なっ)
深宙はニコニコしながら、うんうんと頷いていた。おいおい、深宙さんよぉ!僕がいること忘れてませんかねえ?いくら同業の人だからって近すぎじゃないですか?
そんな嫉妬たらたらな事を思っていたらメッセージがまたきた。
『どう?夏希ちゃんの男装カッコよくない!?』
......え?
休憩が終わり再び撮影が始まる。全然気が付かなかった。言われてみればわかるレベルだったが男モデルは、夏希に間違いなく。おそらく長い髪は浴衣の背に収納されているのだろう。豊満なバストもぺったんこに。サラシでも巻いているのか、見る影もなかった。
そうか、僕は夏希に嫉妬していたのか。なんか悲しくなってきたな。
とりあえず夏希にもメッセージ入れとくか。
『悔しいが惚れた』
これでよし。
さっきPwitterでみた情報だともうそろそろ撮影が終了する頃合いだ。依然、赤名の姿も確認できないしもしかしたら本当に風邪で寝込んでいるだけなのかもしれない。
僕がここまで来たことは無意味になるが、何もないに越したことはない。
――パチパチと拍手が起こる。
どうやら撮影が終わったようだ。深宙は集まっていたファンへとお礼の言葉を述べ始めた。やがて散り散りになっていく人集り。深宙達が着替えに入る。
(.....取り越し苦労か。でも二人の綺麗な姿が見られたから良しとするか)
――ジャリっと石を踏む音。
「おいおい、お前......マジかよ」
背後から声がし、振り向くと赤名が拳を振り上げていた。ヤバい、と思うよりも早く奴はそれを振り抜く。
痛みに襲われるのを覚悟する。不意打ち、もう避けられない。
――が、しかし。
「何してんだよ、お前」
その拳が僕に届くことはなかった。
「な、夏希!」
気がつけば着替を終えた夏希が横に立っていて、赤名の手首を掴み拳を止めていた。
「っ!?」
「待たせたな。着替えに手間取っちまったわ......で、こいつだれ?もしかして例の奴か?」
棒付きの飴をくわえた、ウチのドラマー。夏希は赤名を睨みつけながら聞いた。
すると赤名はいつものヘラヘラとした表情に戻る。
「......なにって、ただのじゃれ合いっすよ」
「じゃれ合い?んな力の入れ方には見えなかったけどな」
「そっすか?うちの学校じゃフツーすよ。なあ、サトー」
「......」
黙り込む僕を見ると赤名は、ダメだこりゃとお手上げのポーズをとった。夏希が質問を続ける。
「まあ、いいや。お前なんなの?俺は秋乃のバンドメンバーなんだけど......撮影終わったんだし帰れば?」
「え、ああ。あんたバンドメンバーの人間だったのか。なるほど」
「「?」」
ふんふん、と一人うなずく赤名。そしてこう言った。
「ホントは深宙ちゃんに直接言いたかったんだけど、あんたでも良いか。......君らさ、ウチの学祭でバンドしない?」
「「は?」」
にこり、と彼は怪しい笑みを浮かべる。
「それを言いにわざわざここに来たのか?それって秋乃じゃなくて春じゃダメだったの?」
「春?だれ?」
名前忘れられとる。これは恥ずかしい。
「えっと、僕の名前だけど」
「え?あー、すまん。忘れてた......いや、こいつ関係ないだろ。つーか、前々に聞いても答えてくれなかったからしらねえけど、サトーは深宙ちゃんのなんなの?」
これは難しいな。彼氏だと明かせば、赤名の事だ......僕からなら彼女を奪えると思いより積極的に深宙へ接触し始めるだろう。それはかなりまずい。
けれど幼なじみだと言うのも無しだ。必ず協力を求められ、最悪バンドにまでつきまとい始める。そういう理由でバンドメンバーだと明かすのもヤバい。かといって無関係だと偽るのも本末転倒だし......深宙につきまとい彼女が被害を受ける。
くそ、厄介すぎる。
僕が頭を抱え無言で苦しむ中――
「春と秋乃は付き合ってんだよ。なんなら同じバンドメンバーだ」
――夏希があっけらかんと、そう言った。
ポカン、とする赤名。僕もまさか夏希がそれを言うだなんて思いもしなかったから、啞然としてしまう。
「ぶ、ふふっ、は、はあ?その地味男と深宙ちゃんが?それイイね、めっちゃウケる!そのネタ使っていい?」
「ああ、いいぜ。ただし正真正銘、極上のネタだけどな?」
よくないですよ夏希さん!こいつマジで使いますよ!!
心の声も虚しく、夏希が赤名を煽りまくる。マジでか。これはヤバい。夏希は赤名の事を知らない。最初に釘を刺しとくべきだったか。
「まあ、いいや。サトーが同じバンドなら話は早い。決まりだな。運営には俺が伝えとくわ。せいぜい楽しみにしてろよ、サトー」
そうして僕らに背を向け立ち去った。
「夏希、なんでバラしたの」
「なんで?」
「あいつ、ヤバい奴なんだよ。人のものでも平気で奪うような、そんな人間なんだ。僕が深宙の彼氏だなんて信じてるかわからないけど、あいつはそれを利用しようとする......」
夏希は「ふーん」という気の抜けた返しをした。わかってるのかこの状況を......。
「じゃあ他にいい方法あったのか?」
「......え」
「おまえ、秋乃の彼氏なんだろ?逃げてんじゃねえよ」
逃げてる......僕は、逃げてた?
「秋乃はあれで結構怖がりだし、なんなら弱い部類の人間だぞ。......お前だってわかってるんだろ、春」
「......うん」
「だったら覚悟決めろよ。あいつ護るのはお前の役目だ」
ふと、木陰の隙間から光が射す。
黒い霧がはれるように、一筋の風が走る。彼女の言葉には力があった。
そうだ。ずっと小さな頃から彼女を護りたいと願い側にいたんだ。いざその時が来て、逃げようとするなんて......情けないな。
「そうだね。ありがとう、夏希」
大切なことに気がつけた。相手が誰だろうと、逃げる理由には成り得ない。僕は戦う。持てる全てを使って。
「ま、バンド潰そうとするやつは俺がぶっ潰すけどな。だから安心しろよ、春」
ニカっと笑う夏希。かっけえ......いや、惚れるわこれ。
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