サイドストーリー ショウ
杏奈たちと別れてから、どれくらい経ったか。マサムネは、先程から息が荒く、腕が相当痛むみたいだった。最初は痛くないと言っていたのに。解毒剤が聞いているのかは、分からないし、早く村に帰らないと。モンスターに会わないように、聴覚と視覚を研ぎ澄ませた。
「ショウ。あのさ」
「それ、言ったら怒るから」
「まだ、何も言ってないのに!?」
「何を言おうとしてるかなんて、わかるわよ。何年幼なじみやってると思ってるの」
マサムネは、たぶん俺を置いて先に行けと言いたかったのだろう。さっきから、歩くペースが落ちている。今、モンスターに会ったら、私はマサムネを守れるの?
「おい。ショウ、何か聞こえるぞ」
「……そうね」
モンスターかしら。罠を張って待つしかない。音がする方向に、縄を括りつけ、トラバサミを置いた。トラバサミは、もう何回も使っているからか、錆びてきている。きちんと動くといいのだけれど。
「あれ?音が、変ね」
「誰か戦ってるのか?」
「そうみたい。良かったわ。ここまでは来ないみたい」
「誰だかわからないが、助かった!サンキュー!」
私たちは罠を外し、先に進むことにした。
もう少しで森を抜けるというところで、また足音が聞こえた。人間にしては、早すぎる。
「モンスターね」
マサムネは返事をしなかった。私がマサムネの方を向くと、地面に手をついていた。
「マサムネ!大丈夫?」
「悪い。動けないかも」
「そんな……」
「置いていってくれ。頼むよ、ショウ」
「そんなこと、できないわよ。ねえ、休みましょう」
「できない。すぐ側にモンスターが……あれ?」
足音はいつの間にか聞こえなくなっていた。また、誰かが戦っている音がする。そして、すぐに無音になる。モンスターと戦うにしても、早すぎる。 違和感を感じながらも、マサムネの腕を見た。
「腫れが増してるし、色が真っ黒じゃない」
「ごめん。ショウ……。俺のために、こんな事に付き合わせて」
マサムネには、金貨が必要だった。金にがめつく、血統のことばかりを考えている両親から離れるために手切れ金が必要なのだ。
「好きでやっていることよ」
「俺のことが好きだって?」
「違うわ!バカ!」
マサムネはバカはないだろと言い、ふらつきながらも立ち上がった。
「休憩したから、歩けそうだよ」
「マサムネ。無理しないでね」
「わかってるさ」
私たちは、再び歩き出した。マサムネの歩くペースに合わせた。
マサムネは息が荒いままで、心配だ。村に戻っても、どうやって治療すべきなのかしら。街に行くしかないかもしれないが、あの両親が馬車を雇うとも思えない。歩いて街までは行けないし、どうしたらいいの。
「やあ、お嬢さん。お困りですか?」
「え?」
後ろから声がして振り向くと、右目が髪の毛で隠れた男性が立っていた。足音がしなかった。
「誰?」
「僕が誰かはどうでもいいですよね。それより、お連れの方が辛そうですね」
「え、ええ。怪我をしてて」
私は短剣に手をかけた。怪しすぎる。足音もしない手練だ。勝てるかは分からないが、何かしてきたらすぐに応戦しないといけない。
「薬を分けてあげますよ」
男は背にしょってるカバンから、青い液体の入った瓶を取り出した。
「ウルフの毒によく効きますよ」
「……悪いけれど、知らない方から薬品は受け取れないわ」
「では、これでどうですか」
男は瓶を開け、手に少し取り出し、口に含んだ。
「ほら、何ともないでしょ?」
「待てよ」
私が話そうとしたら、マサムネが割り込んできた。男を睨んでいる。
「なんで、ウルフにやられたって知ってる。腕は包帯巻いてるんだ。何の傷かだってわからないだろ」
「頭がいいですね。いいことですよ」
男はにっこり笑い、薬を差し出す。
「そんなことは些細なことです。さあ、早く受け取らないと……腕がなくなりますよ」
「こんな怪しい奴から受け取れるか!ショウ、先に行こう」
「待って!それで、本当に助かるの?」
「ええ。保証しますよ」
私は男から、薬品を受け取った。少し冷たい。カバンの中にあったはずなのに、冷えている。
「マサムネ。これを飲むのよ」
「ダメだ!こいつ、怪しいし、何の見返りを求めてくるのか」
「見返りは求めませんよ。困っている女性を放っておけないだけです」
「あの人が飲んだから、これは毒じゃない。効かなくても!それでも、治る可能性があるなら、飲んで!」
私は必死になって叫んだ。
「ショウ……。わかったよ」
マサムネは薬を受け取り、一気に喉に流し込んだ。
「にがーーーーっ!!??」
「良薬口に苦しですよ」
「にが、苦すぎる」
「マサムネ、大丈夫?」
「ああ、体は何ともないさ」
「そう。あの……え?」
さっきの男はもういなくなっていた。足音がしないから、どこに行ったのかもわからない。誰だったのか。
「変な奴だったな」
「ええ。薬が効いてくれると良いのだけれど」
「息苦しいのは、なくなったぜ」
「そうなの?」
マサムネは腕を振り回した。
「やめなさいよ!」
「いや、痛みもない気がする。効くのが早いな!」
「ええー。それ、気のせいじゃないの」
「本当だって!おい、見てみろよ」
マサムネは包帯を外した。
まだ腫れてはいたが、色が普通の肌の色に戻っていた。
「よ、良かった……。良かったよお」
私の目から涙がこぼれた。
「泣くなよ」
「だって、もし村に帰っても治す方法がなかったらって、ずっと心配だったんだからあ」
「わかったよ。だから、泣くなって」
そう言われても止まらないものは仕方ないじゃない。
マサムネは私の頭を優しく撫でて、宥めようとしてくれた。
「本当に良かったよお。……いつか、また会えたら、あの人に感謝しないと。」
私の目から涙が止めどなく流れる。
「そうだな。名乗りもしないし、変な奴だったけどな」
私は目を擦り、涙を拭いた。
マサムネは、私の頭を撫でるのをやめ、カバンを下ろした。
「もう日も暮れる。そろそろ野営の準備でもするか」
「ええ。そうね」
その後、マサムネの怪我も良くなり、私たちは無事に村へと帰還できた。私の両親はとても心配してくれたけど、マサムネの両親は相変わらず勝手をしたマサムネを怒った。マサムネはすぐに家を飛び出して、宿屋へと帰っていった。
私は、杏奈たちの無事を祈りながら、布団へと入った。
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