最終話 秘宝
私たちは、川の近くまで来ていた。
「これなら、そのまま渡れそうね」
「そうだな。濡れるが、この天気ならすぐ乾くだろう」
アキラは天を仰いだ。
「皐月、荷物濡らさないようにね」
「あ、ああ。わかってるよ」
皐月はさっきから、話しかけると目が泳いでいた。何かがおかしい。
「皐月、何かあった?」
「いや、何もない」
そう言うが、顔が少し青ざめてるように見える。
「本当に?」
「本当だよ」
「痩せ我慢するなよ」
アキラが、皐月の肩に腕を回した。こうして見ると、仲良さそうなんだけど、皐月はとても嫌そうだ。
「触るなよ」
「なんだよ。男同士だろ」
「気持ち悪いんだよ」
「酷いな。何か気になることがあるんだろ。俺はともかく、杏奈には言ってやれよ」
アキラは皐月から離れ、先へと進んで行った。私は皐月に近づいた。
「本当に、何もないの?」
「……あるよ」
「やっぱり。何があるの?」
「たぶん、俺泳げない」
「え?あー、私たちの村の川も浅かったものね。でも、この川泳ぐ必要ないわよ」
「そうじゃなくて。川が怖いんだよ」
「え!そんなこと聞いたことないわよ」
「言ったことないし」
皐月はそっぽを向いた。私とは意地でも目を合わせないつもりか。
そういえば、皐月は川に行ったことはなかった気がする。村では洗濯はいつも私がしていた。
「川を渡れるかわからない。俺は、橋を探して行くから先に行ってくれ。アキラと2人にするのは嫌だけど」
「それはダメよ!一緒に行かないと。手を繋いだら行けないかしら」
「手なんか繋がねーよ!子どもでもあるまいし」
皐月はなぜか赤面していた。何を今更照れているのか。それに、まだ子どもでしょうが!
「何とかして、一緒に行きましょう」
「わかったよ」
皐月はため息をつき、私の後に続いた。
川はさらに近づいてみると、底が見えるくらい澄んでいて、浅そうだった。膝下くらいかしら。
「これでもダメなの?」
「ダメかも」
アキラは私と皐月の問答を黙って聞いているようだった。気を利かせてくれているのかな。
「川が渡れないんじゃ、洞窟には行けないし」
「他に方法もないしな」
「どうしようかしら」
「どうにかして、濡れないように渡れればな」
「濡れたくないのか?」
アキラが突然口を挟んできた。皐月は少しアキラを睨んでいる。
「それなら、凍らせれば良いだろ。皐月がスクロールを読めば、凍らせるくらい簡単だぜ」
アキラはカプセルから、スクロールを出して、皐月に差し出した。皐月はそれを嫌そうに受け取った。
「お前に頼るのは癪だが」
「そう言うなって、凍らせるのはお前だぜ」
「わかったよ」
皐月はスクロールを広げた。
「凍てつく一陣の風!」
皐月の言葉と共に、スクロールから強い冷風が出た。川は対岸まで、凍ってしまった。
「そんなに持たないと思うぜ。渡ろう」
アキラが凍った川に勢いよく一歩踏み出すと、氷に滑り尻もちを着いた。
「いたっ!す、滑る!?」
「当たり前でしょ!」
「バカなのか。やっぱり、バカなのか」
私たちは、アキラを反面教師にゆっくりと歩いて渡ることにした。
川を渡り終えた私たちは、近くの崖まで歩いて行った。先に、暗い穴が見えた。洞窟だ。あそこが、目的地なのだろうか。
「この洞窟かしら」
「酒場で聞いた話ならな。火元がないとな」
アキラは、カプセルからランタンを出した。発光した石が中に入っている。
「行くか」
「ああ。姉さん、足元に気をつけて」
「うん。ありがとう」
私たちは慎重に中へと入っていった。
中は暗く、ジメッとしている。気温自体は、外より低そうだが、肌に空気が張り付く。
「他に秘宝を探しに来た人はいないのかしら」
「そういえば、ショウたちに会ってからは……みずほはいたな。他の奴らは見かけてないな」
アキラは前を歩き、先を照らしていた。
二手に別れる道が現れた。
「入り組んでいたら、厄介ね。どっちから行く?」
「そうだな。左から行ってみるか?」
アキラの言葉に皐月も同意した。私たちは左の道を歩いて行った。
奥へと進むと、羽の着いた黒い動物が飛んでいた。
「あれは!モンスター!?」
「コウモリだせ、杏奈」
「こうもり?聞いたことないわ」
「洞窟にはよく居るよ」
「ふーん。悪さはしてこないみたいだな」
私と皐月は感心した。アキラって、旅をどのくらいしていたのかしら。意外と博識よね。モンスターや動物をよく知っている。
「あ、行き止まりかしら」
私は、先が無くなった洞窟の行き止まりを指さした。奥には、なぜかハンモックがあった。洞窟の壁に固定されていて、ぶら下がっている。
「なんで、こんなものが?」
皐月はハンモックに触れた。ハンモックは揺れるだけだった。
「誰かここに住んでいたのかもな」
アキラは残念そうに言った。秘宝ではなかったからだろう。
「とりあえず、戻って右の道に行ってみるか」
「そうね」
私たちは道を戻って、二手に別れてる道の右側へと進んで行った。
「あ、また分かれ道」
皐月が呟いた。
「また左から行くか」
アキラが提案し、私たちは同意した。
「もっと入り組んでいたら、あとで道標つけた方がいいわね」
「そうだな!さすが、杏奈!」
「はいはい。すごいすごい」
アキラは、隙を見ては褒めてくる。悪い気持ちにはならないけど、ちょっと照れるからやめてほしい。
しばらく歩いていると、また行き止まりについた。
「またー。ここは、行き止まりが多いのかしら。早く秘宝見つけたいー」
「まあ、そう言うなって。すぐ見つかるなら、お触れはでないだろう」
皐月はそう言うが、私としては早く秘宝を見てみたかった。それは、金貨3000枚にも興味があったが、秘宝という物がどういうものかも興味があった。
「ぎ」
「ぎ?アキラ?」
「ぎゃーーーーっ!!!!」
「きゃ!何?くっつかないでよ!」
アキラは私の背後に隠れて震えている。
「ひっ」
「どうしたのよ」
「アキラ?おい、姉さんから離れろよ」
皐月がアキラを私から引き離そうとしたが、服の裾をガッチリと掴んで離さなかった。
「ダメだ。ダメだダメだ」
「何がダメなのよ」
「む、むむむむ虫が!ダメなんだよ!!」
「はあ?」
私は目の前を向くと、ムカデや蜘蛛が這っていた。
「虫なんてどこにでもいたじゃない」
「視界に入れないようにしてたんだよ!こんな、たくさんいるのは無理だ!」
「無理って……」
「もう洞窟から出ようぜー!」
アキラは叫んだ。何がそんなにダメなのかわからなかった。虫なんてどこにでもいるし、良いタンパク源になるのに。
「うるせえ」
ふと、後ろから声がした。
振り返ると、猫耳族の男がいた。
「え!猫耳族?」
「違う。俺は狼耳族だ。そうじゃない。さっきから、お前たち、うるさいぞ」
狼耳族だと言う男は、短剣を引き抜いて、こちらに向けた。
「安眠を妨害する奴は殺す!」
男はこっちに向かってきた。
アキラは震えて役に立たないし、私も皐月も、短剣を防ぐ武器は持ってなかった。
男はまず、皐月に向かっていく。
「やめて!なんで、うるさくしただけで!」
皐月は短剣をすんでのところで、避けたが、服が切れた。
「なんだ、こいつ!」
皐月は男の短剣を避けながら、後ろに下がる。
「避けるなあああ!!」
男の短剣はさらに素早く動いた。
「やめて!皐月!アキラ、何とかして!」
「うっ……虫いないか?」
「いないから!早く!」
アキラは震えながらも、剣を抜いて、皐月と男の間に入り込んだ。
「邪魔するな」
「じ、邪魔させてもらうぜ」
「ふん。震えてる奴に負ける気はしない」
「む、武者震いだよ」
短剣を振る速度はさらに上がる。アキラは全てを剣で受け止める。
「今日は、本当に邪魔をしに来る奴が多いな!全員殺してやったが、まだまだ来るとはな!」
「やめてよ!なんで、人間同士で殺し合いなんてするの?」
男は、剣をぶつけ合うと、後ろに跳躍し、アキラから距離をとった。
男は、ふっと言うと、急に大笑いした。
「ははは。お前、面白い事を言うな。人間同士で殺し合いをするな?それは、種族が同じ時にだけ言うもんだぜ。こいつは……魔法を使わないから、ヒュー族か?俺は狼耳族で、別の種族だぜ!他の種族が死んだって気にしないさ!」
男は、また笑った。
何がそんなにおかしいのか。この男は何を言っているのか。種族が違うなら、同じ人間でも殺し合ってもいいの?
「意味がわからないわ」
「お嬢さんにはわからなかったのかな。まあ、死んでくれれば良いよ」
男は、アキラの方から私の方へ向き直り、走ってきた。
「杏奈!」
アキラは、それを止めるためにか、走り出すが、動物族の速さに遅れをとった。
「姉さん!やめろーー!!」
目の前まで男が来たと思ったら、首にひやりと冷たいものが当たった。
「動くなよ。お嬢さんの首がパックリ割れるぜ」
短剣が首筋に当てられていた。男は、くすりと笑い、私の髪の毛を掴んで上にあげた。
「何するのよ!」
引っ張られて、頭が痛い。
「まあ、同じ動物族としては、殺してしまうのは勿体ないかなとも思うよ」
「杏奈に触るな!」
アキラが男の後ろで剣を構えたまま、じっとしていたが、今にも飛び出しそうだった。
「うるさいなあ。今は、お嬢さんとお話ししたいんだよ。あんまりうるさいと、お嬢さんの首から真っ赤な血が出ちゃうかも」
男はおどけて、笑う。
「ちっ……。こっちは動かないんだ。杏奈を傷つけたりするなよ」
「はいはい。俺も無抵抗のお嬢さんを傷つける程、落ちぶれてはいないよ。たぶんね」
髪の毛を強く引かれ、男の顔が近づいた。獣の匂いがする。
「お嬢さんこそ、なんでヒュー族なんかと一緒にいるのさ?疑問なんだけど」
「なんでって、勝手に着いてきたのよ」
「ふーん。でも、着いてくるのを放っておいたんだ。なんで?」
「なんでって……別に理由はないわよ」
「理由がない?利用価値があったとかじゃなくて?お嬢さんは、見るからに戦えなさそうだから、護衛かと思った」
「そんなんじゃないわ。ただ、悪い人ではないと思ったから」
「悪い人じゃない?」
男は、今日何度目かわからない笑いをした。笑いは堪えようとしてるみたいだが、難しいみたいだ。
「ヒュー族が動物族と一緒にいるのは、理由はまあいくつかあるけど、利用するためだよ。俺たちが、ヒュー族を利用するのと同じように」
「そんなことはないわ!なんで、利用することになるの?」
「種族が違うからだよ。君、当たり前のことを聞くね」
「何が当たり前よ。私はそんなの知らないわ。……それより、何で怒っているの?私たち何かしたの?」
「そんなの1つだよ。俺の安眠を妨害した。今日は、そんな奴らばかり来るよ。嫌になるね」
男は、私の髪の毛をパッと離した。
私は、少し後ろにふらついたが、男に肩を捕まれ、元の位置に戻された。また、首に剣を当てられる。
「安眠を妨害したのは、ごめんなさい」
「謝ったってダメだよ。俺の安眠は、妨害されてしまったんだから」
「そんな事で殺される謂れはないわよ」
「そんな事?はっ。それは、君の主観だろ」
「それなら、種族の違いで殺し合いを良しとするのも主観よ」
男は、口元に笑みを浮かべた。
「君、やっぱり面白いね。俺の気分次第で、死ぬかもしれないって言うのに、よくそんな口が聞けるね」
「あなたは私を殺さない。殺せないわ。殺せるなら、とっくに殺して、また眠りたいんじゃないの?」
「ふーん。そう考えるんだね」
男はニヤリと笑う。
短剣が喉元に強く張り付く。
「じゃあ、死のうか」
男が、短剣を引こうとした。
あ、死んだかも。ごめん、皐月。たくさん助けてくれて、ありがとう、アキラ。
「吹けよ。嵐!響け、突風!」
皐月の声がしたと思ったら、強い風が吹き、目の前が見えなくなった。目が開けられない。
「杏奈!」
何かがぶつかる音がしたと思ったら、私はアキラに抱きかかえられていた。
「アキラ……」
「ちっ。こいつ、魔族だったのか!」
皐月の手から、スクロールの破片が消えかけていた。スクロールを使って、助けてくれた!
男は、地面に尻もちを着いていた。アキラが押しのけたのか。
「まあ、2対1でも、勝てる自信はあるけど」
男はゆっくり立ち上がり、皐月とアキラを交互に見た。
「殺気が怖いな。お嬢さんは、殺し合いはダメだって言ってるけど、お連れさんは違うみたいだよ」
「アキラ、殺さないで」
「殺さないさ。杏奈のために」
アキラは私をゆっくり下ろしてくれた。
「でも、怪我はさせちゃうかもね」
アキラの目は、影を落とし、とても暗く見えた。
「ははは。脆弱なヒュー族が、俺に勝てるとでも?」
男とアキラは今にも、剣を混じえそうだった。やだ。戦わないで欲しい。どうしたら、この戦いを終わらせられるの。
「俺もそろそろ寝たいしさ。死んでくれる?」
男とアキラはその言葉を機に走り出す。寝たい、安眠……そうだ!
「待ってー!」
アキラたちは、私の声でぴったり止まった。
「姉さん……」
「待って!ねえ、寝る場所なら良い所があるわよ。そこで寝たら良いんじゃないかしら。それに、たくさん人が来るのは、秘宝を探すお触れが出たからなの。秘宝がないって分かれば、人は来ないわ」
「寝る場所に良い所!」
男のしっぽがピンと立った。
興味を示してるみたいだ。しっぽが揺れている。やっぱり、寝ることに関して、とてもこだわりを持っているのかしら。
「どこだい?」
「もう戦わないっていうなら、教えるわ」
「ああ、戦わないさ」
男は短剣をしまった。
なんと、あっさりやめてくれた!
「は、はあ?」
アキラは剣を下に向けたまま、口をあんぐりと開けた。皐月は、はあとため息をついた。
「こことは、違う道に、ハンモックがあったの。そこなら、寝るのに良いんじゃないかしら」
「ハンモック!!本当か?」
「ええ」
「嘘だったら、殺しに行くからな」
「嘘じゃないわ」
「ハンモックかー。いいねえ」
男は、洞窟を戻ろうとしたが、足を止めた。
「あ、忘れてた。秘宝ってこれだろ」
ズボンのポケットから、赤と黄色に光る宝石を取り出した。
「えっ?」
「ここの洞窟で見つけたんだよ。綺麗だから取っといたんだが、これがある限り人が来るんだろ。やるよ」
男は、宝石を私に、ほおり投げた。
私はそれを掴んだ。少し冷たい。
「あ、ありがとう」
「別に。じゃあ、もう会わないことを祈るよ」
男は足早にここを去っていった。
「まさか、あいつが持っていたとはな」
「姉さん、危ないだろ!生意気な口を聞いて」
「いいじゃない。なんとかなったんだから」
「良くない」
アキラが私の事を睨んで、私の両肩を掴んだ。
「杏奈、どれだけ危険なことだったと思ってるんだ。あいつは、本当に杏奈を殺そうとしていた。今まで会った奴らはたまたま良い奴が多かったが、今回は肝が冷えたよ」
「ごめんなさい」
「反省してるのか?」
「反省してるわ。アキラと皐月を危ない目に合わせちゃったし」
「それは、反省してない!」
アキラは叫んだ。
「叫ぶなよ。また、あいつ来るぞ」
「悪い。杏奈、もう二度と危ないことや発言はしないと約束してくれ」
アキラがこんなに怒るのなんて、珍しいわね。やっぱり、何も考えなさすぎたのかな。でも、何とかなったしって、こういう考えがアキラは嫌なのかしら。
「わかったわよ。約束する」
「杏奈」
アキラは、肩から手を離した。
「危ないことする時は、相談するわ」
「杏奈!」
「だから、大きい声を出すなって!」
「皐月も大きい声を出してるだろ!」
「やめなさいよ。2人とも声が大きいわ」
私たちは、秘宝を手に入れ、洞窟を後にした。
「意外と何とかなったわね!後は帰るだけね」
「姉さん、反省は?」
「反省してるわよ。わかってるって!」
「杏奈」
「ご、ごめんって」
なんか、狼耳族の男と会って以来、アキラの視線が痛い。ずっと見てくるし、なんか怒ってる。
「あら、また会ったわね」
私たちは声のする方を見ると、みずほさんが立っていた。
「あなたたちを付けていて、本当にラッキーだわ」
「みずほさん、どうしてここに?」
「どうしても何も、ここは秘宝がある洞窟じゃないの。私は秘宝を探しているのよ」
「そ、そうですよね」
みずほさんは、にやりと笑い私の目の前に飛び跳ねて一瞬で移動してきた。兎耳族は、跳躍力が高いようだ。
「そして、あなたたちは、今秘宝を持っている」
「え……?」
「あとは帰るだけと言っていたわよね。それは、秘宝を手に入れたってことじゃないかしら」
「姉さん、この女から離れて!」
私は皐月の言葉に、1歩後ろに引いた。
「あら、心外。別にたくさん傷つけたりはしないわよ?」
みずほさんは、ホルダーから短剣を出す。
「ちょっと怪我してもらって、私に秘宝を渡してくれればいいから。ね?」
「どうして!人間同士で争わないといけないんですか?」
私は叫んだ。さっきの狼耳族の男もだけど、なんで人間同士で争ったり、殺し合ったりしないといけないの。
「杏奈ちゃんにはわからないかもね。あと、簡単に人を信用したらダメよ」
「杏奈から離れろ」
アキラが私とみずほさんの間に割って入った。いつの間にか剣を握っている。
「アキラ!やめて!争わないで」
「大丈夫。少し力を見せつけて、お帰りいただくだけだよ」
「あら。そんなこと言って、殺気がダダ漏れじゃない。杏奈ちゃんを傷つけられそうになって、怒っているのかしら」
「さあね。皐月、手を出すなよ」
「あ、ああ」
皐月は頷き、私の側に立った。私と肩を持ち、下がるように促す。
「まずは、あなたを避けないとダメみたいね」
みずほさんは、アキラに向かって短剣を投げた。アキラはそれを剣で払い除ける。その隙にみずほさんは、アキラの足元へ近づき、足払いをした。アキラは飛び上がって避け、みずほさんは下からもう一本の短剣でアキラの足を狙う。アキラはそれを剣で受け止めるが、体勢を崩してしまった。
「まずい」
「残念ね。ちょっと痛くするわよ」
「なんてね」
「え?」
アキラは地面に手を付き、みずほさんの短剣を持つ方の手を蹴り上げた。短剣は飛んでいく。アキラは素早く立ち上がり、みずほさんの首筋に剣を当てる。
「あら、まあ」
「さっきの狼耳族よりは楽勝だったな」
「何と比べてるかわからないけど、これはダメね。降参。本気も出されてないなんて、私の肩書きに傷がつきそう」
「あんたこそ本気出てたのか?」
「さて、何のことかしら。どうせ、この秘宝は領主にあげないといけないと思っていたし、今回は引くわ」
「それなら、どうして戦ったんですか?」
私は皐月の手を払い除けて、みずほさんに近づいた。アキラが手で静止したため、そこで止まることになった。
「んー。杏奈ちゃんにはわからないわよ。タダで渡したくないの」
「そんな理由で?」
「そんな理由だなんて、酷いわね。……杏奈ちゃんにはわからないでしょうね」
「わかりませんよ。人間同士で戦うなんて」
「いつかわかってくれると良いけど」
みずほさんはアキラの剣を軽く取り、首元から離した。アキラも剣を下げる。
「さて、ここの秘宝は取られちゃったし、次に行こうかしら」
「みずほさん……」
「私、トレジャーハンターなの。まだ見ぬお宝探して、旅を続けるだけよ。秘宝はこれだけではないしね」
みずほさんは、来た場所へと歩いていく。
「そういえば」
みずほさんは振り向き、アキラを指さした。
「あなた。もう二度とあの教会を使わない事ね。治癒の魔法は寿命を縮めるのよ。あの子はわかってるみたいだけど、利用しないことね」
みずほさんは、また前を向き歩いていった。
「え?寿命を縮めるの!?」
「そういうことだったのか」
「アキラが言ったことは、そんなに間違いではなかったってことか」
「私が安易に使おうなんて言ったから……」
「杏奈のせいじゃないさ。とにかく、次は利用しないで帰らないとな」
アキラは剣をしまい、私の肩を叩いた。慰めてくれてるのかな。
「そうよね……。さて、街に帰りましょう!」
「ああ!」
私たちは、帰路へと着くことにした。
モンスターに会いながらも、私たちは無事に街に着くことができた。
街は出発した時と変わりなく賑わっている。私たちは足早に、領主のいる建物へと向かった。
門番に秘宝を持ってきたことを伝えると、すぐに中へと通された。
「君たちが、秘宝を探し出してくれたのか。とても若いじゃないか」
奥の方からおじいちゃんが現れた。髭をたくわえ、背筋はピンと伸びている。この人が領主か。シワの多い手を差し出し、私たちの前まで来る。
「若いものまで駆り出してしまい、大変申し訳なかった。だが、私も手段を選んでいられなかったんだ。それで、秘宝は?」
私は秘宝を出して、領主に渡した。赤と黄色に光る秘宝だ。
「これが秘宝……!すぐにシェリーの元へ!」
領主は走り出し、部屋から消えていった。
「何なのかしら?」
「私の妹が病気なのよ」
部屋の外から髪の長い女性がやってきた。
「領主……おじいさまから見れば、孫ね」
「病気に効くって秘宝でしたっけ?」
「そうよ。あ、私はアンネリー。あなたは?」
「杏奈よ」
「ありがとう、杏奈。兄さんが秘宝を取りに行って、大怪我をしたから、人に探させることにしたのだけれど……あなたたちみたいな若い人が見つけるなんて思わなかったわ」
「アキラのおかげよ」
「杏奈!いや、そんな、照れるなあ!」
「……褒めにくい奴ね。アンネリー、あなたは妹さんを見に行かなくて良いの?」
「私はいいの。治るって知ってるから」
「え?」
「私、占い師なの。今日、秘宝を持ってくる人がいて、治るって出たのよ」
「そうなんだ!すごいのね!」
「おじいさまは信じてはいないけど。そうだ!私からのお礼に杏奈を占ってあげるわ!」
「え?いいの!」
「ええ、ぜひ」
アンネリーは、私の顔に手を持っていき、ボソボソと何かを呟いている。これが、占いなのね。本で読んだことがあって、やってみたかったのよ!
「えっ……どういうこと」
「どうしたの?アンネリー」
「あなたは……イヴ?」
「え?イヴ!?」
私はアキラの方を見てしまった。アキラは目を合わせると、にっこりと笑っただけだった。
「イヴって何なの?」
「私にもわからないわ。ただ、あなたはイヴとだけしか出ないの。こんなこと初めてだわ。もっと力の強い占い師なら、何かわかるのかもしれないけれど」
「……イヴ。私が?」
「アンネリー!!」
部屋の扉が勢いよく開き、領主と領主の足の付け根くらいの背の女の子が入ってきた。
「シェリーの病が治った!素晴らしい秘宝だ!」
「あの、あの……ありがとうございます!」
女の子は私たちに頭を下げた。
「ああ、本当にありがとう!」
領主は私の手を握り、振り回しながら、頭を下げる。何度も何度もありがとうを繰り返した。私はアンネリーにイヴだと言われたことが気にかかり、それ所ではなかった。
だが、あれよあれよという間に、宴が開かれることになり、私はそれを考える暇を与えられなかった。
そして、夜が明けた!
「さて、報酬の話だが」
領主は、テーブルの上に2つの箱を取り出した。
「1つは掲示板に書いてあった通りに金貨なのだが、昨日話していて思ったのだが、君たちなら、こちらも喜ぶのではと思ってな」
「こちら?」
「本当は、家族で行こうと思っていたが、君たちなら、ぜひもらってほしい」
私は領主に促され、箱を開けた。中にはたくさんの金貨が入っていた!やったー!これで、何年かは働かなくても大丈夫かも!
「あとのこれは?」
「まあ、開けてみてくれ」
開けてみると、紙切れが5枚入っていた。
「何ですか?」
「宇宙旅行券さ」
「宇宙旅行券!?」
キャット・トリップ・ワールド、シーズン2に続く。
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