第6話


〈@denshosen うんこなう。

#将棋の会長が絶対に言わなさそうなこととは?〉(注)



 声が出なかった。

 会場が、しばらく異様な空気に包まれる。

「いやー、確かに言わんわー」

 MCの中谷さんが、腹を抱えながら言った。

 くだらない。小学生の下ネタのようである。しかしだからこそ、僕らはくぎ付けになったてしまったのだろう。

 隣では、福田さんが顔を真っ赤にしている。

「わっ、私はその……」

「いや、面白いよ。うん、将棋の会長ともあろう人が言うわけないけど、あの人なら言うかもしれないし」

 僕は笑いをこらえながら言った。

「うん、なんかすっきりした気分だよ。たった5文字で楽しい」

 武藤さんはまじめな顔で親指を立てた。

「そ、そうですか?」

 ネット上では、やはり話題になっていた。



〈AIって下ネタも言うのね〉

〈netanzuじゃないでしょ。若手女流棋士の作ったAIだよ?〉

〈ネタシショウばんざーい!〉



「うっうっ」

 再び福田さんが顔を赤くしている。

 ネタ将にも恥の概念とかあったんだな……



「優勝は……『うんこなう』の福田女流二段です! 人類が勝ちました!」

 なんと、あのネタで勝ってしまった。表彰式の間も福田さんは挙動不審で、今にも逃げ出してしまいそうだった。

「はーなーこちゃん。シャキッとしましょう」

 松浜女流四段が横にピタッとくっついている。なんかとても悪い顔だ。

「いやー、AIの投稿と思っていた人が多いようですが福田先生だったんですね。さすがネタ将を愛すると公言しているだけのことはありますね」

「あ、はい。えー、はい。ネタ将はまだまだ強いです」

 うつむいたまま、福田さんは右手を挙げた。

 こうして人類は、ネタ将としての威厳を守ったのである。守らなくてもよかったとは切実に思う。




(注) https://twitter.com/yonenagakunio/status/59136612667359232 より引用。実際に会長が言いました。

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