第4話

〈@denshosen 囲碁は楽しいなあ。 

#将棋の会長が絶対に言わなさそうなこととは?〉



 最初のネタが投稿された。

「ちょっとこれ加島君でしょ」

「いや、違うよ」

「ふふふ、俺だ」

「えーっ」

 言うては何だが、あまりにも普通である。これをあの武藤さんが考えたとは信じがたい。

「意図があるんですね」

 福田さんの目が光っている。え、どういうこと?

「こういうのは、一つ目はだいたい優勝しないんだ。その後が面白ければ埋もれるし、つまらないと後ろの方に期待が集まる。コンテストでも、だいたい後半が有利だろ?」

「なるほどです。さすが武藤さん」

「……」



〈@denshosen 囲碁の会長にもなっちゃおうかなあ。

#将棋の会長が絶対に言わなさそうなこととは?〉



 二人の刺すような視線が痛い。僕はうつむきながら黙って手を挙げた。

「そうだった、こっちには意図的に低空飛行な加島君がいるんだった。俺、余分だったな」

「まったく。私たちのそばで何を学んでいたのよ」

 ネタ将から学ぶことなどない! と叫びたかったが、あまりにも投稿の反応が薄いのでへこんで声が出なかった。



〈@denshosen すみません、南の島から帰れません。

#将棋の会長が絶対に言わなさそうなこととは?〉



「え、これは誰なんだろう? 意味もわかんない」

 福田さんには読めないネタが来た。

「刃菜子ちゃんが生まれる前の話だからね。でも、将棋のことだから勉強しといたほうがいいよ。ちなみにnetanzuかな? 将棋ファンや将棋の歴史から学ぶ傾向にある」

 武藤さんはしっかり分析している。そしてこれは僕も元ネタを知っているぞ。

「でも、元ネタを知らない人には『言いそうなこと』ですよね?」

「いいね、加島君。そこが一般投票の難しいところだ」

 ひょっとしてネタって、奥が深いのか? とりあえずAIに負けたくないという気持ちにはなってきた。



〈@denshosen パリコレかと思って近づいてみたら、味噌つぶしうどんでした~コノヤロウ!

#将棋の会長が絶対に言わなさそうなこととは?〉



「え、どういうこと……?」

 僕は頭を抱えた。福田さんもモニターを見てあっけに取られている。

「これは笑将翁かな。悪いところが出たね」

「えっ、大学教授が作ったのがこんなに意味不明なんですか?」

「おそらく実際にRTやイイネが多かった投稿を参照しているんだ。『お笑い芸人の』なんかも追加しているかも。特にシュールな芸人を参照してしまったみたいだね」

「ああ、でもすごい引用RTが多い!」

「イイネは少ないだろう。しかし慣れてない人はこういうのも新鮮なんだな。この戦いは混とんとしそうだ」

 いや天守閣でネタ将が勝負して、中継されている時点で混とんとしているよ。だが、悲しいかな勝負師はどんな状況でも勝ちに行こうとするものだった。僕も、どんなネタが受けるかを必死に考え始めていた。

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