第3話

 考えてみれば当たり前だが、天守閣というのはそんなに広くないし、多人数で戦う場ではない。そんな場所で、人間三人とパソコン3台が向かい合っている。

 僕らは今、佐田原城の天守閣にいる。

 パソコンの方は実際には雰囲気つくりのためのもので、ソフトの操作者はここにはいない。「人間同士が向き合うと趣旨からずれる」ということらしい。

 ずっとパソコンの裏側と向き合うのか……

「さあ、気合入れていくよ!」

 福田さんはとにかくやる気である。

「まあ、いつも通りやろう」

 武藤さんは落ち着いている。ただ、僕のいつもどおりは「特に何も投稿しない」なんだけど。

「さあではやってきました! 第1回電笑戦、ネタ将対メカネタ将! 笑いでは人間は人工知能に勝てるのか、全世界が注目です!」

 司会のお笑い芸人、熱帯雨林の中谷さんが叫ぶ。番組が始まった。

「見てください、プロ棋士のプロネタ将が並んでいますよ。刃菜子ちゃんは今日もかわいいですね~」

 アシスタントは松浜万李まり女流四段である。そつなくこなすこともできるし、毒舌全開で笑いを取ることもできる達者な方だ。あの人こそネタ将に向いていると思うけど。

「わかってるじゃない、松浜さん」

 福田さんがドヤ顔をする。

「あの人の言うことはあまり真に受けない方が」

「はあ?」

「あー、かわいいかわいい」

 武藤さんはにやにやとした目でこちらを見ている。AIはご機嫌取らなくていいから楽よな……

「それでは今回のルールを説明します。6人はまず、お題にそれぞれ投稿してもらいます。答えはすべて『denshosen』のアカウントでつぶやかれます。公平を期すため、誰が投稿したものかはわかりません。リツイートとイイネの合計数が最も多い投稿が優勝です。ちゃんとしてますね、中谷さん」

「ガチですね。お笑いコンテストでももっとゆるいのあるよ」

「例えば?」

「そやね……そんなん言われへん! 危ないなあ。全部のコンテストがちやんとしてるよ!」

「そうなんですね。ネタ将はこの戦いに命をかけてますからね。負けたら引退ですかね」

「リスクある! 福田先生、どうですか?」

「その意気でやります。でも、私は生涯ネタ将です!」

 こぶしを握る福田さん。生涯って、女流棋士は引退してもネタ将は続けるのか。まあ、やめる理由もないけど。

「では、そろそろ運命のお題発表に行きましょうか。いいですか、今日のお題はこれです!」

 松浜さんの指さす先には、モニターがある。そこに、お題がデデン! と登場した。



〈#将棋の会長が絶対に言わなさそうなこととは?〉

 


 あー。

 あの人なら何でも言いそうだよなあ。

 絶妙に難しいお題だと思ったが、福田さんと武藤さんは笑っていた。

「ま、まさか二人は予想を?」

「そんなわけないじゃない。考えるのが楽しみなのよ」

「俺はある程度予想の範疇だったね。番組だから、わかりやすいのが来るだろうと思ったよ」

「はー。変な人たち……」

 やはり、この二人に比べると僕は全然ネタ将ではないのである。


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